中小企業やスタートアップが、事業の急成長を目指す一手として「シニア顧問」の活用に注目しています。大手企業の役員OBなどを顧問に迎え、豊富な人脈や知見を活かし、自社だけでは開拓が難しい大企業(エンタープライズ、以下「エンプラ」)との契約獲得を目指す動きが活発です。
しかし、その裏では「期待した成果が出ない」「顧問料だけが無駄にかかってしまった」といった声も少なくありません。
なぜ、企業によっては顧問の活用はうまくいかないのでしょうか。その原因と、顧問との協業の成功に必要なマインドセットについて、顧問支援サービスを提供する株式会社BEYOND AGE代表の市原が解説します。
2006年、東京海上日動火災保険に入社。財務・海外・リスク管理など、企画部署を歴任する中で、大企業の複雑な意思決定プロセスを熟知。2021年に独立。大企業の意思決定に関する深い知見と、3,000名以上のシニアとの面談実績を掛け合わせ、シニア顧問サービスを展開。スタートアップ等のエンタープライズ市場開拓を支援。
「あの企業のキーマンに会いたい」を叶えます
エンプラ攻略の「切り札」として顧問が求められる

ー中小企業やスタートアップが、顧問の利用を検討し始めるのはどのような課題に直面した時なのでしょうか?
企業が成長していく過程で、多くが「エンプラへのアプローチ」という壁にぶつかります。
創業当初は社長一人で営業を始めて、従業員が10人、100人といった規模の企業と取引を重ねていきます。この段階では、経営者同士が交流会や紹介で会うことも比較的容易です。
しかし、従業員が1,000人、1万人規模のエンプラとなると、オーナー社長は減り、サラリーマン社長が中心になります。そうなると、これまで通りの方法では、決裁権を持つ役員クラスに会うこと自体が極端に難しくなるのです。「どうすれば彼らに会えるのか?」と考えた末に、「顧問の力を借りるしかない」という結論に至るケースが多いのです。
もう一つの理由は、エンプラ契約がもたらす事業インパクトの大きさにあります。
例えば、中小企業向けにクラウド型ソフトウェアを月額3万円で提供しているとします。これを地道に積み重ねていくのも一つの手です。しかし、ふと周りを見渡すと、ある同業他社が「大企業A社から1,000アカウントで3,000万円の契約が取れた」という話が聞こえてくる。エンプラとの契約は、グループ会社への一括導入などで、一気に桁違いの売上になることがあるのです。
しかも、エンプラとの契約は、一度導入されると3年から5年と中長期に継続する傾向があります。解約するにも社内稟議が必要で、競合への切り替えにも相応の説明責任が伴うため、簡単には契約が打ち切られません。
月3,000万円の契約が5年間続けば、それだけで18億円のビジネスになります。さらに、顧客対応にかかる工数は、中小企業を多数抱える場合と比較して、必ずしも増えるわけではありません。むしろ、ビジネスライクな関係で進められるため、利益率は非常に高くなります。
この圧倒的なリターンを求めて「エンプラを狙いたい」と考えた時、そのための最も有効な手段として「顧問」という選択肢が浮かび上がってくるのです。
「あの企業のキーマンに会いたい」を叶えます
顧問に大きな成果を期待していたが期待外れに?ズレが生じる原因とは?

ー大きな期待を持って顧問契約を結んだにもかかわらず、成果が出ずに「期待のズレ」が生じるのはなぜでしょうか?
一言でいえば、「成約するか、しないか」です。成約すれば期待通り、想定していた期間内に成約しなければ期待外れだった、というシンプルな構図です。そのため、「期待外れ」という結果に終わる企業も少なくありません。その原因は、顧問側、そして依頼する企業側の双方に考えられます。
理由1:顧問側に課題があるケース
まず、顧問側に課題があるケースです。「三菱商事の役員を紹介できる」と言っていたのに、実際には紹介が実現しない、という約束が果たされないこともあります。月額報酬を払い続けた結果、3ヶ月経っても一度も商談が組まれず、数百万円を無駄にしてしまうことにもなりかねません。
また、紹介はしてくれたものの、関係性が非常に薄かったというケースも多いです。例えば、紹介先が担当者レベルだったり、約束通り責任者に会えても、顧問との関係が薄くビジネスに繋がらなかったり、といった具合です。
一方で、本当に強い関係性を持つ顧問は違います。「彼は私が育てた部下で、私の言うことなら何でも聞く」といった絶対的な信頼関係がある場合、商談の場で「〇〇さん(顧問)の紹介なら発注しますよ。費用感を教えていただけますか?」と一気に話が進むことすらあります。
理由2:依頼企業側に起因するケース
依頼する企業側が、エンプラの意思決定プロセスをあまりにも理解していないことが、うまくいかない大きな原因になっていることも少なくありません。特に、契約期間に関する期待値のズレは深刻な問題です。
ー契約期間については、どれくらいの「期待値のズレ」があるのでしょうか?
エンプラとの取引経験がない経営者は、3ヶ月程度で契約が決まると思いがちです。普段接している中小企業のオーナー経営者が、その場で即決したり、遅くとも1週間以内には意思決定したりすることが多いためです。
しかし、エンプラは全く違います。私はいつも「最低でも1年、長ければ2年は見てください」とお伝えしています。この時間軸のズレを理解できないまま、「まだ決まらないのか」と焦ってしまうのです。
売上に困っているような、切羽詰まった状況の会社が顧問を使い、短期的な成果を求めることもあるのですが、それは構造的に難しいと言わざるを得ません。
もちろん、ごく稀に「ラッキーパンチ」もあります。エンプラ側が年度末の予算を使い切る必要に迫られている時などです。これはあくまで例外であり、再現性はないと考えるべきでしょう。
「あの企業のキーマンに会いたい」を叶えます
顧問に「応援したい」と思われる関係づくりが重要

ー顧問と中長期的に良好な関係を築くために、依頼する側はどのようなマインドセットを持つべきですか?
「人としての付き合い」をきちんとすることに尽きます。うまくいかない企業の典型は、「お金を支払っているのだから、ちゃんと仕事をするのは当たり前だ」という態度を取ってしまうことです。
一方で、うまくいっている企業は、顧問に対して常に感謝とリスペクトを忘れません。「いつもありがとうございます。食事でもご馳走させてください。」という姿勢です。
顧問の立場になって考えてみてください。横柄な態度の経営者と、謙虚で勉強熱心な経営者の、2つの会社から顧問を依頼されていて、重要な紹介先から「どこか良い会社はないか?」と相談された時、どちらの会社を紹介したくなるでしょうか。言うまでもなく、後者です。
「顧問から愛される会社になること」これが非常に重要です。営業代行サービスと勘違いして、成果だけを機械的に求めるような付き合い方では、良い成果は決して得られません。
顧問になる元大手企業の役員のような方々は、必ずしもお金に困っているわけではありません。「あなたのその態度が気に入らないから、もう付き合いたくない」と思われたら終わりなのです。
逆に、「日本の未来のために頑張っている君を応援したい」と思ってもらえれば、金額以上の協力をしてくれることもあるでしょう。
失敗しない顧問選びと活用のポイント

ーこれから顧問を探す企業は、ミスマッチを防ぐために、どういう点に注意して選定すべきでしょうか?
紹介できる企業名を聞くだけでなく、「その紹介先の方と、どのようなご関係ですか?」と、「関係性の深さ」まで具体的に確認することが重要です。
「川崎重工の副社長と知り合いだよ」と言われたら、「小学校からの幼馴染で、今でも家族ぐるみの付き合いだ」という答えが返ってくるのか、それとも「ビジネス交流会で名刺交換して、一度飲んだだけ」なのか。この違いが、結果に天と地ほどの差を生みます。関係性の強さを丁寧に確認すべきです。
ー顧問の活用において成功確率を上げるための、具体的な方法はありますか?
まず、「1人の顧問で成功させようとしない」ことです。
顧問の活用で成功している企業の多くは、30人、40人といった規模で顧問をチームとして活用し、中には失敗するケースがあることも織り込み済みでKPIを管理しています。
ですから、最低でも5人くらいの顧問を同時に活用できる予算を用意するくらいの余裕を持って臨むべきです。特に、初めて顧問を活用する場合、コミュニケーションの取り方も分からず、1人目はうまくいかないことが多いです。「最初は勉強の期間」くらいの気持ちで始めることが、結果的に成功への近道になります。
ーということは、予算が限られている企業は、顧問活用をすべきではないのでしょうか?
おっしゃる通りです。年商1億円規模で、1人の顧問料を捻出するのがやっと、という会社は、短期で成果を求めすぎるあまり、クレームになるケースが見受けられます。
そういった企業は、まずエンプラを狙うのではなく、交流会などを活用して中小企業の契約を増やして、年商を10億円規模に成長させてから、もう一度挑戦すべきです。
地道な努力をショートカットするために、顧問という手段を使おうとして失敗するパターンが非常に多いのです。
顧問を活用すべきなのは、ある程度の企業規模があり、「成果が出るまで1〜2年はかかる」という時間軸を理解し、待つことができるだけの体力的・精神的な余裕がある会社です。
ー契約が決まり、いざ顧問と協業を始めるというキックオフの段階では、どのような目線合わせが重要になりますか?
まずは、自社のサービス、会社のビジョン、そして経営陣の人柄を顧問に深く理解してもらい、「この会社を応援したい」と思ってもらうこと。ここが全てのスタート地点です。
厳しい話ですが、顧問サービスに頼る企業の中には、プロダクト自体が市場に受け入れられる前の段階で、販売力に課題を抱えているケースも少なくないです。
一方で、タイミー社のように、サービス自体に圧倒的な競争優位性があり、人手不足という社会課題ともマッチしている場合、顧問を使わなくても売れます。しかし、彼らはさらに拍車をかけるために多くの顧問を活用し、爆発的な成長を遂げました。
自社のプロダクトやサービスに、本当にエンプラに導入してもらうだけの価値があるのか。そこを冷静に見極めることも重要です。
シニア顧問の活用は、企業の成長を加速させる強力なエンジンとなり得ます。しかし、そのためには「お金を払えば誰かが売ってくれる」という安易な考えを捨て、顧問との人間的な信頼関係を築き、長期的な視点で粘り強く取り組む覚悟が不可欠と言えるでしょう。
もし、自社での活用イメージが湧かない、何から始めるべきか分からないといったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度BEYOND AGEまでご相談ください。
またBEYOND AGEの顧問支援サービスについては以下のサービスページをご覧ください。