近年、ビジネスの現場ではAIの活用が進み、業務の効率化や生産性向上に大きく貢献しています。しかし、50代・60代のシニア世代の中には「AIは難しそう」「自分の仕事には必要ないのでは?」と感じる方も多いでしょう。
そんな中、インターネットマーケティングに長年携わり、現在はAIを積極的に活用して業務を効率化しているNさん。メール作成や顧客対応、さらには社内の議論にも活用し、業務効率化の効果を実感しています。
本記事では、NさんのAI活用の事例をもとに、シニア世代がAIを導入するメリットや、具体的な活用術やコツを詳しく紹介します。
1991年に大学卒業後、ハウスメーカーの営業職としてキャリアをスタート。その後、マンション販売会社に転職し、インターネットマーケティング業務に従事。インターネットマーケティング黎明期から業務に携わり、25年以上の経験を持つ。現在は製造業の企業で、デジタル広告やSEO対策、SNS運用、マーケティングオートメーション(MA)を活用したメール配信など、幅広いマーケティング業務を担当。昨年よりAIを導入し、メール作成や顧客対応、社内の議論にAIを活用し、業務の効率化や生産性向上を実現している。
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AI活用で業務効率化。メール作成から顧客対応までの活用事例

ーこれまでのご経歴について教えてください。
私は1991年に大学を卒業後、ハウスメーカーで営業職としてキャリアをスタートしました。その後、約7〜8年勤務した後にマンション販売会社に転職し、インターネットマーケティングの業務に携わりました。
さらに3年間の経験を経て、現在の製造業の企業へ入社し、引き続きインターネットマーケティング業務を担当しています。
ー長くインターネットマーケティング業務に携わっているのですね。当時の業務はどのような内容でしたか。
インターネットマーケティング業務に関わって約25年になります。まだインターネットマーケティングが黎明期だった時代から、さまざまな取り組みを行ってきました。
最初に携わったインターネットマーケティング業務は、マンション販売会社におけるホームページ経由の資料請求対応でした。顧客が個人情報を入力した後に、1件ずつ手作業でお礼を送信し、やり取りが発生すれば質問対応やモデルルームへのご案内をしていました。
ー現在のインターネットマーケティング業務とAIの活用について教えてください。
現在は、メールを自動配信するツールである「マーケティングオートメーション(MA)」を活用し、住宅業界の企業向けにメールを通じた情報提供を行っています。
これまでにも、公式サイトの運営管理業務やデジタル広告、SEO対策やSNS運用など、幅広いデジタルマーケティング業務を経験してきました。最近ではAIを活用した業務効率化に力を入れています。
ー具体的には、どのような業務でAIを活用しているのでしょうか。
現在は、主にメール作成の業務にAIを活用しています。メールのクリック率をKPIに置いているので、クリック率を高めるようなメールの件名や本文の案を検討する際に使用していますね。
▼業務でのAI活用例(メール作成業務) メールの件名アイデア出し:AIに件名案を作成してもらう メール本文の校正・改善:AIに文章を校正し、改善を実施してもらう ターゲットごとのコンテンツ案の作成:異なるターゲット向けにどのようなテーマやコンテンツが有効か、AIにアイデアを出してもらう 顧客への返信文の作成サポート:テンプレートでは対応できないケースにおいて、AIに適切な文章をチェック・修正してもらう |
AIは1年ほど活用しています。
日本の50代以降のビジネスパーソンにとって、キャリアの在り方が大きな転換期を迎えています。人生100年時代と言われ、50代以降もまだ働き盛りですが、一方で急速に進化するAI(人工知能)技術が仕事の現場を変えつつあります。 「AIなん[…]
―AI導入後の業務効率の変化を教えてください。
AIを導入したことで、メール作成業務全体の効率が向上しました。
以前は、件名や本文を考えるのに時間がかかり、最終決定を後回しにしてしまうこともありました。具体的な時間短縮の数値を出すのは難しいですが、AIを使わなければ「翌日に持ち越していた作業」が、その場で完了できるようになった感覚があります。
また、AIの活用はマーケティング部門に限らず、他部署にも広がっています。例えば、営業職向けのデータベースから見込み顧客を抽出するAIシステムや、工場のエラーを早期に検出するシステムなども導入されています。
社内にはAI開発部門があり、各部署が必要に応じて相談しながらAIの活用方法を模索しています。
ーAIを活用する上で、工夫していることはありますか。
現在の業務はBtoB(法人向け)マーケティングですが、AIを使う際には特にターゲット設定を明確にすることを意識しています。
AIは一般消費者向け(BtoC)のメッセージになりがちなので、「誰を対象としたメールなのか」を明確に指定し、適切な内容が出力されるように調整しています。
また、AIへの指示(以降、プロンプト)を工夫していますね。例えば「企業サイトの情報を参考にしてください」といった文言を加えると、公式情報をもとにした信頼性の高いアウトプットが可能になります。
ー業務では、具体的にどのAIツールを使っているのでしょうか。
業務では、ChatGPTをカスタマイズした社内システムを使用しています。個人的にはGoogleのGeminiも使用しており、使い勝手の面ではGeminiのほうがわかりやすいと感じますね。
社内業務でAIを使用する際には、一部制限があります。例えば、画像生成系のAIツールは著作権の問題があるため、外部向けのコンテンツには使用禁止です。
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対立する意見を整理?「社内の議論をスムーズに」意外なAI活用術

ーAIを実務で利用する前は、AIにどのようなイメージを持っていましたか。
AIを使い始める前は正直、「そこまで実務で使えるものではないのでは?」という印象を持っていました。新しいテクノロジーの場合、最初のうちは使い物にならないことも多いので、AIも「まともな回答が返ってこないのでは」と疑っていたのです。
しかし、実際に回答の質を見ると「工夫次第で活用できるのでは?」と考えが変わりました。
ーAIの利用に対して、不安や抵抗感はありましたか。
特に大きな不安はありませんでした。最終的な判断を下すのは人間だと考えていたので、AIに完全に依存するわけではなく、あくまで業務のサポートツールとして捉えていましたね。
ー50代以上の社員のAI活用の状況はどうですか。
社内では、若手社員は積極的にAIを活用している一方で、50代以上はあまりアクティブに活用している印象はありませんね。業務の話をしていても、AIを活用するよりも従来のやり方を重視する傾向が強いですね。
そのような中で、私は比較的積極的にAIを使っているほうだと思います。AI関連の本を読み、活用方法を学んできました。得た知識をもとに、社内で使い方をレクチャーすることもあります。
また、社内の議論でもAIを用いることがありますよ。
ーどのようにAIを社内の議論に活用しているのか、詳しく教えてください。
社内の議論では、意見が対立して平行線になることがよくありますよね。そんなとき、私は「じゃあ、一度AIに聞いてみましょう」と提案することがあります。
特に「どちらの意見も正しそうだけど、結論が出ない」という状況では、「AIの意見はこうだった」と伝えることで、話がスムーズに進むこともあるのです。
また、社員から「これ、どっちがいいと思いますか?」と相談されるときは、私は「まずAIに聞いてみましたか?」と問い返すことが多いですね。
つまり、AIを「第三者の視点」として意思決定に活用するのです。
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業務に役立つAI活用の情報収集とスキルアップの方法

ーAIに関して、どのような情報収集をしていますか。
AIの選定や活用方法についての情報は、主に書籍やインフルエンサーの発信を参考にしています。具体的には『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』という本を読み、著者である橋本大也さんの情報をチェックするようになりました。
橋本さんは日本のAI活用に詳しく、Facebookでも最新のAIの使い方や新しい試みを発信しています。その内容を見て「この使い方は業務に活かせそうだ」と思ったものを取り入れています。
ーAIを効果的に活用するために、他に勉強していることはありますか。
書籍以外では、プロンプトの作成や画像生成などを自己流で試している段階です。『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』で、プロンプトの書き方のコツを学べたので、それを活かして試行錯誤しています。
また、社内SNSで他の社員がどのようにAIを活用しているのかもチェックしています。現時点では、社内で誰が積極的にAIを使っているのかが明確にわからず、情報共有や意見交換まではできていませんが、今後AIを活用している社員には知見を共有できればと考えています。
ーAIをより効果的に学ぶために、どのようなサービスがあればいいと感じていますか。
AIを活用した「アンケート分析の方法」や「データ解析」など、テーマ別のAI活用講座があれば、業務に直結する知識を得やすいのではないかと感じています。単なるAIの基礎知識ではなく「特定の業務に直結するAI活用法」が学べるサービスがあるとよいと感じています。
また、現在は「Googleアナリティクス(GA4)」や「マーケティングオートメーション(MA)」、ヒートマップツールなど、さまざまなデータ分析ツールがありますよね。こうした分析ツールとAIが連携し、簡単に活用できるような仕組みが整えば、業務の効率化がさらに進むと考えています。
現時点では、そのようなサービスはまだ多くありませんが、今後の発展に期待したいですね。
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50代・60代がビジネスでAIを活用するメリットは?「AI×経験で生産性アップも」

ー50代・60代のビジネスパーソンがAIを活用することで、得られるメリットは何だと思いますか。
AIを活用することで「自身の考えを客観的に見直す機会が増え、新たな視点を得られる」という点はメリットだと感じます。
50代以上のビジネスパーソンは、豊富な経験や成功体験にもとづいた判断をする傾向が強いですが、AIを使うことで客観的で新たな視点を得やすくなると思うのです。
ただ、現状ではこの世代のAI活用はまだ少ないかもしれません。しかし、もし活用が進めば、経験とデータを組み合わせることで、より精度の高い回答が得られる確率が高まると考えています。
ーAIの活用が50代・60代のビジネスパーソンにとって特に有効な場面はありますか。
特に情報収集の効率化においては有効だと思います。
従来の検索では、複数のサイトを比較しながら情報を取捨選択する手間がありましたが、AIを活用すれば、検索結果を比較する時間を短縮でき、必要な情報を瞬時に得られます。
また、音声検索も便利です。例えば、Geminiのような音声対応AIを使えば、キーボードを打つ手間を省き、スムーズに情報検索や指示出しができるようになります。
特にPCやスマホ操作に苦手意識を持っている50代・60代の方にとっては、ぜひ活用すべき機能ではないでしょうか。
ーもしAIを導入していなかったら、今の業務にどんな影響があったと思いますか。
AIを導入していなかったら、労働時間は長くなっていたと思います。特に残業削減には、非常に有効だと感じています。
ーAIを使う人と使わない人の間に、スキルや業務効率の差は生まれていると感じますか。
AIに限らず、新しい技術やツールを取り入れる人とそうでない人の間には、時間とともに業務効率など、大きな差が生まれると感じます。ただ、AIに限らず「AIを使えない・使わない人」は、他の新しいことも積極的に取り入れない傾向が見られます。
ー若手社員がAIを使うのと、50代・60代のベテラン社員がAIを使うのでは違いがありますか。
大きな違いはないものの、プロンプトの作り方には違いがあると感じます。
例えば、ベテラン社員は注意点や配慮すべき点をおさえたプロンプトを作成する傾向があります。
一方、若手社員は「早く結論を得たい」という意識から、1~2行の簡単なプロンプトで済ませるため、情報量が不足しがちです。
実際に「思ったような答えが返ってこなかった」と若手社員が言っていたので詳細を聞いてみると、ターゲットユーザーを明確に指定していなかったことが原因でした。その際、「プロンプトをもっと具体的に設定するとよい」とアドバイスしたことがあります。
AIを効果的に活用するには、プロンプトの質を高めることが重要です。
ー業務においてAIを使わない状況に戻れますか。
AIを使い始めて1年が経ちますが、もうAIのない環境には戻りたくないというのが正直な気持ちです。「AIなしでは仕事ができない」というわけではありませんが、業務の効率化や議論のスムーズさを考えると、AIの存在は大きいと感じます。
特に、若手社員との会話では「AIではこうなっている」と伝えることで、意見の受け入れやすさが向上する場面が多いですね。「部長がこう言っている」よりも、AIの分析結果を基に議論を進めるほうが、スムーズに話が進み、説得力も増すと感じます。
もちろん、AIの回答が必ず正しいわけではありませんが、それを完全に否定できるだけの知識を持つ人も少ないため、業務の参考として活用できると考えています。
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50代・60代がAIを活用する第一歩は「検索エンジンの代わりにAI検索」

ー今後、NさんがAIを活用して挑戦したいことがあれば教えてください。
今後、自分の考えや経験をデータとして蓄積し、より自分にパーソナライズされた回答を得られるAIを作れたらいいなと考えています。
現在のChatGPTは自分の条件やプロフィールを入力すると、その情報を踏まえた回答をしてくれますが、翌日にはそのデータがリセットされ、連続性がないのです。
今のAIは一般論としての回答が多いですが、例えば自分の価値観や好みを学習し、カスタマイズされた提案をしてくれるAIがあれば、より実用的になるのではないかと期待しています。
ー最後に、50代・60代のシニア層の方にAI活用に関して、アドバイスをお願いします。
新しいテクノロジーに抵抗を感じる50代の方には、まずは「検索エンジンの代わりにAIを使い、自分の関心事を調べてみる」ことをおすすめします。
実際に私は、住居の更新に関する法的な疑問をAIに尋ねて、さらに弁護士にも確認したところ、AIの回答には大きな誤りはありませんでした。また、料理のレシピを調べたり、自分の好みに合う映画をピックアップしてもらったりと、関心のある分野で気軽に使い始めることで、自然にAIが生活に浸透していきました。
新しい技術に対する抵抗は誰にでもありますが、まずは日常のちょっとした疑問の解決や趣味の分野でAI検索を試してみるとよいのではないでしょうか。