50代で転職活動をする方の中には、未経験業界への転職も選択肢として考える方もいることでしょう。
今回は大企業で管理職を務めたのちに起業に挑戦し、その後中小企業2社への転職を経て、未経験業界に転職したNさんに、中小企業に転職するに至った経緯や、未経験職種で働く上で重要な心構えについて伺いました。
大学卒業後、大企業A社に入社し、本部長まで昇進。30年間勤務した後、家庭の事情で退職。その後起業に挑戦するも、事業が想定よりも軌道に乗らず最終的には転職することに。中小企業2社を経て現在はD病院にて事務部長を務める。
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大企業の管理職が起業を経て中小企業へ転職した理由

ーこれまでのご経歴について教えてください。
新卒で大手企業A社に入社し、30年間にわたってソフトウェアの拡販や事業計画策定に携わってきました。最終的な役職は本部長。約2000億円の事業規模の部署で、200名ほどの部下を抱えていました。
退職したのは家庭の事情がきっかけでしたが、50歳頃をめどに独立したいという思いもあったのも事実です。そこで退職後、家庭のことが一段落ついたあとに、中小企業のオーナーに向けたサポート事業を立ち上げました。BtoBのパートナーシップ構築や事業承継の支援が事業内容です。
しかし事業は軌道に乗らず、最終的に転職活動をすることになりました。中小企業であるB社、C社を経て現在は全くの異業種であるD病院の事務部長というポジションで経営支援に携わり、現在で6年目になります。
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起業で気付かされた、エリートサラリーマンの大いなる勘違い

ー50代で独立を検討された背景は何でしょうか。
周囲には経営者が多く、会社に対して責任をもち、人生をかけて事業に取り組むオーナー社長たちの姿を間近で見てきました。その姿に触れる中で、私自身も経営者としての道に憧れを抱くようになりました。
こうした思いを胸に、退職前から事業の構想を練り始めていました。そして、退職後半年ほどで家庭の事情が落ち着き、いよいよ本格的に会社設立に向けた手続きや準備をスタートさせました。同時に、営業活動にも取り組み、事業の基盤作りに努めました。
ー事業を立ち上げたあと、再び方向転換をされ、転職活動に入られた経緯をお聞かせください。
自分もやってみたいという気持ちで事業に挑戦しましたが、うまくいきませんでした。原因は「自分の怠慢だった」と考えています。
手前味噌ではありますが、A社の本部長をしていたときは、自分は世の中に5〜10%しかいない優れた人材だという自覚がありました。どこに行っても、何をやっても通用すると思っていたのです。しかしそれはあくまで、一企業の「駒」として優秀だっただけ。外の世界に飛び出して事業をやり遂げるには、経理や資金調達などすべてを自分でやらなければなりません。
中でも特に大変なのが営業活動でした。退職後、「元A社の本部長」という肩書きで簡単に仕事が取れるかと思いきや、世の中はそう甘くありません。実際、自分で言うのもなんですが、これはエリートサラリーマンが陥りがちな大きな勘違いです。この点は私自身も痛感しましたし、一般のシニア世代にとっても共通する落とし穴かもしれません。
さらに、クライアント企業の中にはリスクを抱える企業も多く、経営者の交代や倒産が相次ぐ状況が続きました。こうした厳しい環境の中で、事業を存続させることは非常に難しく、「とりあえず収入を得なければならない」という切実な事情もありました。その結果、最終的には転職という選択肢を取る決断に至ったのです。
ー転職先はどのような流れで見つけたのでしょうか。
現在のD病院に至るまでに、私はリクルートやビズリーチといった転職サービスを活用し、中小企業であるB社とC社の2社を経験しました。転職先に中小企業を選んだ理由は、オーナー企業での経営支援や事業承継に携わりたいという強い思いがあったからです。
まず最初に転職したB社は部品会社でした。私はオーナー社長の下で、開発から製造委託、販路開拓や営業といった幅広い業務を担当しました。しかし、転職からわずか1年で経営権が他社に譲渡されるという突然の出来事が起こったのです。新体制の下で働く選択肢もありましたが、熟考の末、私はB社を去る決断をしました。
次に入社したC社はITベンチャー企業でした。転職エージェントに登録したところ、先方からスカウトを受けて転職することになりました。一見、部品会社からITベンチャーという大きな変化に思えるかもしれませんが、実は以前A社でIT関連の事業に携わっていた経験があり、その知見を活かせると考えたのです。
C社のオフィスは一等地にあり、職場環境にも非常に恵まれていました。同じく大企業から転職してきたシニア世代の社員も多く在籍しており、一方で、企業文化はまさにITベンチャーらしい自由な雰囲気でした。
そこでは、営業職として新規顧客開拓に携わりました。テレアポで営業したり、イベント会場で名刺交換をした相手にダイレクトメールを送ったりしました。大企業で部長クラスだった私がテレアポしたり営業メールを打ったりするわけですが、すごく新鮮で面白かったですよ。
しかし、残念ながらC社も倒産。再び転職活動をすることとなりました。
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ーその後、全くの異業種であるD病院に入られたのはどのような経緯だったのですか。
これまでお世話になっていた転職エージェントからの紹介でした。中小オーナー企業の経営者サポートをしたいと伝えたところ、オーナー企業であるD病院を紹介されました。「これまでの経験業界とは異なりますが、Nさんがやりたい仕事であることに変わりはないはずです。まずは1回、面接に行ってみては」というのです。
面接で経営者と話をしてみると、D病院が私に求めているのは、病院業務そのものではなく、経営支援であることがはっきりとわかりました。確かに、病院のサービス内容については未経験の分野でしたが、勉強しながら取り組めば十分対応できるのではないかと感じ、自信を持つことができました。
ー未経験の業界・職種への転職に際し、不安や懸念はなかったのですか。
不安や懸念は特にありませんでした。ただ、面接の段階でオーナーから早くも「事業の構造改革」という課題が提示されました。具体的には、拡大を目指す事業や継続したい事業がある一方で、3年連続で赤字を出している事業をどうするべきか、という相談でした。
その内容自体は私にとって特別難しいものではなく、すぐに解決策を提案することができました。その後、オーナーと2回ほどミーティングを重ね、提案内容に同意をいただいた上で、入職することを決めました。
打つべき手が明確だったので、不安を感じることはありませんでした。
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ーD病院に入ってから、未経験だからこそ直面した壁や苦労はありましたか。
実際に中に入って蓋を開けてみると異なる文化が多くありました。私がいた大企業の常識では、「3年連続赤字」である場合、コストの見直しはすでに終わっているのが当然。しかし、D病院ではそうではありませんでした。コスト管理からスタートしなければならなかったのです。
とはいえ、何事も事業の基本は一緒です。構造改革についてはあまり悩まずに取り組めました。医療業界の常識や知識についても、大きな苦労はありません。
正直に申し上げると、大企業であるA社と中小企業であるD病院の文化には大きなギャップを感じることがあります。A社では、一定の役職以上の社員はMBAを取得していることが一般的で、MBAで得た知識を前提に議論を進めるのが当たり前でした。しかし、中小企業ではそのような基盤が必ずしもあるわけではありません。
そのため、相手に伝えたい内容を理解してもらうには、伝え方に工夫が求められます。ただ知識を押し付けるのではなく、相手の視点や背景を考慮して説明することが重要だと感じています。
また給与水準も当然ながら異なります。大企業は仕事内容は大変ですが、社員の間に給与に関する不満はないのが普通です。一方で、中小企業では給与水準がそれほど高いとはいえず、そのため「この給与ではここまでの仕事はできない」という後ろ向きなマインドを持つ社員がいる場合もあります。
ー50代の転職で感じた壁や課題はありましたか。
「60歳で定年」という一つのハードルが、いまだに当たり前のように存在していることを改めて痛感しました。多くの一般企業では、「60歳=定年」という固定観念に縛られており、社員が50代になると「これからどうしよう」という将来への不安や議論が始まるのが現状です。
もちろん、60歳を過ぎても活躍し続ける人もいますが、一方で、定年をきっかけにこれまでのレールから外れていく人も少なくありません。
しかし、今の60歳は体力、知力共にとても元気。定年制度ができた時代の60歳とは全く違います。この世代の力を日本社会や経済のために活用しない手はないでしょう。それなのに、中小企業でも人手不足から事業継承ができず、存続をあきらめるところが多い。NPOなどが間に入っていますが、まだまだ厳しい状況です。若い世代を雇用するのは大前提ですが、労働力人口自体が足りていないという現状があります。
まだまだ活躍できるはずのシニア世代と、労働力が欲しい企業側とのマッチングがうまくいっていない。これは非常にもったいないことであり、日本全体の課題です。私は、この労働力のマッチングこそがとても重要だと考えています。
ー転職活動を振り返って、「こういった準備をしておけばよかった」という後悔はありますか。
一つ挙げるとすれば、実際に転職活動を経験した同世代の話を聞くことでしょう。何を軸として転職活動をしたのか、大変だったことは何か。どんなポリシーをもって臨むべきかなど、実体験を自分の耳で聞くことが有効ではないかと思います。
しかし、もっと本音を言えば、「実際に転職活動をしてみなければわからない」というのが正直なところです。どれだけ情報を集めたり、面接のテクニックを磨いたりといった準備をしても、最終的には相手企業との相性やタイミング次第だからです。
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転職した50代が新しい職場で決して言ってはいけない一言とは

ーこれから未経験職種への転職を検討している方にとって、必要なマインドセットは何でしょうか。
過去と比較せず、違いを言い訳にしないことですね。大きな企業に勤めた実績があったり、ある程度の経験を持っていたりすると、どうしても自分の中で比較してしまいがちです。
もちろん、過去と現在を比べ、改善すべき部分を良い部分に近づけようとするのは悪いことではありません。でも、新しい職場で「昔は良かった」「前の職場はこうだったから良かった」などということは、絶対に口に出すべきではないのです。
加えて、「自分の基軸は何か」を常々考えることも必要です。業種や規模が違っても、自分の基軸となるものは揺らぎません。逆に言うと、それしか通用しないのです。例を挙げるなら、マネジメントのスキルはとても重要。できる人はとても希少です。
「自分の軸はこれ」と再認識した上で磨きをかけることは、シニアといえど必要なことでしょう。
ー最後に、50代、60代で転職を検討している方に対しメッセージをお願いします。
基本的に50代以降の転職活動は順調には行きません。「うまくいったらラッキー」くらいに考えておきましょう。
これまでの成功体験はいったんリセットし、失敗を重ねて、チャンスをつかむのです。知識や経験などの財産や自分の軸を大切にし、常にブラッシュアップしていくことが大いに役立ちます。
我々の世代は今まで本当に頑張って、夜中に帰るのが当たり前の世界で育ってきました。今となってはそこまでの体力はありませんが、やっぱり働くことは楽しいし、まだまだやれる世代だと思っています。
退職を検討している方も、「これまでだいぶ働いたから少しだけ休もう」というのはもちろん構いませんが、休んだあとはまた一緒に頑張ってほしいですね。
日本がまた良いサイクルに入るためにも、我々シニア世代が力を発揮していきましょう。
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まとめ
今回のNさんの事例からも分かるように、50歳を過ぎて大企業を退職し、独立・転職するのは簡単なことではありません。営業など未経験のスキルが求められることに加え、転職先企業とのマッチングがうまくいくとは言い切れないためです。
しかしその一方、シニア世代の経験やスキルには各方面で大きなニーズがあるのも確かです。これまで培ってきた知見や力量に磨きをかければ、まだまだ十分に活躍の場を見つけられることでしょう。
これまでの会社を飛び出し、新たな場で働きたいと考えている方は、まずは自分の基軸となるスキルを洗い出してみましょう。