60歳定年退職後に後悔「早く準備しておくべきだった」

長年働いてきた企業でのキャリアを終えると、多くの人が次のステップを考え始めます。定年退職後の再雇用か、それとも新しい道を歩むかで悩む人も多いのではないでしょうか。

今回は、長年勤めた大企業で定年退職後、雇用延長を選択しつつ、コンサルティング業務にも挑戦するJさんに、定年退職後のキャリア選択について伺いました。

Jさんのプロフィール:
製薬会社での3年半の勤務ののち、大手化粧品会社に転職。化粧品事業部に36年間勤め、営業部門で部長職まで昇進。定年退職後も定年延長制度を利用し引き続き勤務中。現在は豊富な経験を活かしてスポットコンサルティングにも挑戦し、次のキャリアについて模索している。

これまでの経緯について

―これまでの経歴について教えてください。

大学を卒業後は製薬会社に入社しました。約3年半後、転職ブームに乗り、当時新卒扱いの募集があった大手化粧品会社に転職。化粧品事業部に配属され、その後36年間、主に化粧品の分野でキャリアを築いてきました。

業務としては化粧品事業部の立ち上げに始まり、最終的には営業本部の担当として大手流通企業との取引を担当。部長職まで務めたのち定年を迎えました。現在は定年延長制度を利用して引き続き勤務しています。

―定年退職前にはどのような選択肢で悩んでいたのか教えてください。

特に悩んだのは、60歳で定年延長を選ぶか、それとも転職や独立を考えるかでした。

定年が近づく50代になると、多くの同僚や先輩が再雇用や転職について考え始めます。私も例外ではありませんでしたが、当時は転職サイトやエージェントも今ほど充実していなかったため、正直、漠然としていました。

実は、何か新しいことに挑戦したいという気持ちもありました。業務上、流通業界のバイヤーや管理職などの人脈にも恵まれ、「独立」「自営」という言葉もよく話題に上がっていました。

しかし、50代前半は特に仕事が忙しく、将来についてじっくり考える時間がなかなか取れませんでした。加えて歳を重ねてから子どもが生まれたこともあり、育児などでバタバタしていたのです。具体的なキャリアを考える間もなく日々が過ぎていきました。

―結果、なぜ定年延長を選んだのでしょうか。

理由の一つは、やはり家庭の事情です。子どもがまだ幼く、安定した収入を確保する必要がありました。

加えて、大企業に勤めていることで得られる社会的な信用や安定感は非常に大きなものでした。会社の名前だけで、周囲からは高い信頼が得られます。私自身、会社でのキャリアに誇りを持っており、そのブランド力を背負って仕事を続けることに安心感を覚えていたのも事実です。

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60歳定年退職後に後悔したことは「転職活動に本腰を入れなかったこと」

―60歳定年退職後に最も後悔したことは何ですか?

最大の後悔は、転職活動に本腰を入れなかったことです。57歳くらいの時に、社内での定年延長の立ち位置がだいぶ変わってきたことを知り、「定年延長はちょっと嫌だな」と感じました。そこで、知人の紹介で転職エージェントに相談し始めたのです。

その後、ハイクラス専門の転職サイトなどにも登録して本格的に動き始めたのはちょうど1年前、59歳の時でした。

私の会社では、定年延長を選ばない場合、会社が契約している再就職支援サービスを通じて、転職先を斡旋してもらえる制度があります。しかし、私は最悪の場合でも職を失うことがないよう、定年延長の可能性を残していました。

その結果、転職活動に対して本気で取り組むことができなかったのかもしれません。もし、最初から定年延長を「保険」として残さず転職一本に絞っていれば、もっと違った結果になっていたのではないかと思います。

―なぜ、そのような状況になってしまったのでしょうか。

大きな理由は、安定志向が強く働いてしまったからです。特に、給与や福利厚生が整っている環境にいると、転職や独立というリスクを伴う決断には完全に踏み切れません。

また、50代後半という年齢も影響しました。年齢が上がるにつれ、転職市場での自分の価値がどう評価されるかに対する不安が大きくなりました。実際に転職サイトに登録した際も、期待していたような高待遇のオファーがあまり来ず、そのことがさらに不安を増幅させました。

さらに、「もっと良い条件が見つかるのではないか」という期待もありました。実は転職活動開始後すぐに数社からのオファーがあったのですが、面接に行くと小さな会社で「これは違う」と感じて断ってしまったのです。

今考えると、もったいないことをしたかもしれません。当時は給与など待遇ばかりを気にしていましたが、面白さややりがいも重視して選ぶべきだったと思っています。

その結果、何度かチャンスを逃し、時間が経つにつれて状況がますます厳しくなっていき、最終的にどの企業とも契約には至りませんでした。最初は「何とかなります」と言っていた転職エージェントからも、最終的には「59歳では、転職が成功する確率は非常に低い」と言われてしまいました。

結果として定年延長を選びましたが、本当に正しい選択だったのか、今でも疑問に思うことがあります。それまではマネジメントをする側だったけれど、定年退職後に配属されたのは販売の現場。大変さは想像以上でした。

定年延長を続けている先輩を見ると、「65歳までの安定」を重要視している方が多く、モチベーション高く取り組むよりは時間単位で割り切って働いている印象です。

―仮に、50代でもう一度転職活動ができるとしたら、何を重視しますか?

専門家とじっくり相談することですね。特に50代やそれ以上の年齢になると、一般的な転職サイトやプラットフォームでは、期待するようなサポートが得られないことがあります。また、自分が本当に何をしたいかを見つめ直すことも重要です。

もし転職活動をやり直せるなら、自分の状況をしっかりと理解してくれるプロの助けを得るべきだと思います。

―現状を打開するために何かしていることはありますか?

実は現在も、転職活動を継続しています。気になる企業があれば応募し続けていますが、やはり60歳を超えるとなかなか難しいですね。

現在のベースである定年延長の仕事も、化粧品業界の知識を活かして自分なりに役に立ちたいという思いは持っています。現場でフィードバックや改善点を提案すると非常に重宝され、モチベーションが上がります。

しかし、自分に対するフィードバックはほとんどありませんし、給与も当然大きく下がります。会社への恩返しだと思って働いているものの、自分にはもっとできることがあるのではないか、と悶々としてしまいます。

そんな中で、自分が長年培ってきた知識や経験を活かせる場を求めて、スポットコンサルティングを始めることにしたのです。

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60歳定年退職後に始めたスポットコンサルティング

―スポットコンサルティングとはどのような仕事でしょうか。

特定の分野において短期間で専門的なアドバイスを提供する仕事です。今年の4月から本格的に始め、主に化粧品業界や流通業界に関する相談を受けています。特に、スタートアップ企業や中小企業では一部上場企業のスキームに関心をもつところが多いですね。自分の知識や経験が他者に求められていることを実感しました。

最初はこのようなニーズがあるとは思わず、全く期待していませんでした。しかし、化粧品を中心とした流通業界の話を聞きたいという要望が多く、現在、月に4件ほどのペースで依頼を受けています。私は研修担当の経験もあるので、新人研修のご依頼もいただきます。

これまでの36年間でクライアントとの面談や企画会議などを数多く経験してきましたし、人も育ててきました。性格的にも人と話すことが好きなので、スポットコンサルティングは非常に楽しいですね。特に、これまでのキャリアを活かして企業の成長を支援することにやりがいを感じています。

また、スポットコンサルティングでは感謝されることが多く、承認欲求も満たされます。定年延長の仕事とスポットコンサルティング、自分の中ではバランスを取って取り組んでいるところです。

―今後、独立の計画はありますか。

独立に対する意識は以前よりも強くなりました。実は継続依頼をいただくことが多く、中には顧問契約を打診されるケースもあったのです。

コンサルティングは年齢も関係ありませんし、自分の知見が活かせる仕事。今後は本格的に取り組みたいという思いが芽生えています。このまま安定志向の定年延長でダラダラ働き続けるより、自分をある程度追い込んで次のキャリアを考えたい気持ちも出てきたのです。

とはいえ、コンサルタントはご依頼に対して「待ちの姿勢」。不安定さはあります。転職か独立かというより、働き方も含めて真剣に考えているところです。流通関連のコンサルティング会社への転職も選択肢に入れつつ、経営者の友人たちとも情報交換しながら、次のキャリアについてじっくりと考えたいと思っています。

本筋からは逸れますが、趣味の仲間や友人など異業種交流ができる人脈はとても貴重です。入ってくる情報が社内だけのつながりとは全然違います。

―何歳くらいまで働きたいとお考えですか。

少なくとも70歳までは働き続けたいですね。幼い子どもがいるので、できる限り長く収入を得たいという現実的な理由もありますが、それ以上に、仕事で社会と繋がり続けることが自分の生きがいだと感じているので。

70歳までにパラレルな働き方を確立し、その後は自分の興味やニーズに合わせて考えていきたいです。

―独立に向けての課題や必要なサービスはありますか。

最大の課題は「何をどう始めるべきか?」という点です。スポットコンサルティングを通じてある程度の手応えは感じていますが、個人でコンサルティング事業を立ち上げるとなると、具体的な手順がわからないというのが正直なところです。

したがって、実際に独立した経験者からのアドバイスや、コンサルティング業務の具体的な進め方を教えてくれるプログラムが必要だと感じました。さらに、ネットワークの構築支援や、顧客の獲得方法を具体的に教えてくれるようなサービスがあれば、非常に助かりますね。

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定年退職後に充実した人生を送るために必要なこと

―定年退職後に充実した人生を送るために必要なことは何でしょうか?

必要な要素は3つあると考えています。1つ目は「お金の問題」です。定年退職後の生活を支えるためには、退職金や年金だけでなく、運用や副業など、収入源を多角化することが重要でしょう。私自身もファイナンシャルプランナーに相談し、今後のプランニングをしています。

次に大切なのは、「やりがいを持つこと」です。自分がやりたいことが明確になっていて、それを続けられるのが、「充実した人生」と言えるのではないでしょうか。

そして3つ目は「健康管理」です。長く働き続けるためには、やはり心身ともに健康でいることが重要です。特に年齢を重ねると、健康がすべての基盤になります。

―最後に、定年退職前に悩む方にメッセージをお願いします。

定年退職前には、自分の武器は何か、本当にやりたいのはどんなことなのかを早めに見つめ直すことが大切です。

後輩たちにも伝えているのは、「とにかく、早く行動を起こせ」ということ。定年はまだ先だと思っていても、あっという間にその時が来ます。

50代に差し掛かったら、自分のキャリアや人生について真剣に見つめ直し、次のステップを考えるべきです。それが充実した定年退職後を送るための鍵だと言えるのではないでしょうか。

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まとめ

今回は、定年退職後のキャリアについて考えるJさんのエピソードを紹介しました。

定年退職後の再雇用を選んだJさんは後悔を感じる一方、新たな挑戦としてスポットコンサルティングに興味を持ち、その可能性を模索しています。「早めの準備と行動が充実した定年退職後の人生につながる」とJさんは言います。

経済的な安定だけでなく、自分が本当にやりたいことを見つけることが重要です。

 

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