「このまま今の働き方を続けられるのか」「定年後の収入はどうしよう」。そうした不安を感じる50代のビジネスパーソンが増えています。そこで「資格取得」に興味を持つ方も少なくありません。
実際に50代から目指す人が多い「食える資格」とはどのようなものなのでしょうか。本記事では、50代から注目される資格を紹介するとともに、「資格さえ取れば安心」と思いがちな落とし穴にも触れ、取得後にどう活かすかという視点も交えてお伝えします。
50代からの新しい挑戦に向けて、一歩踏み出すための参考になれば幸いです。
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50代以降の資格取得の実態

実際、コロナ禍以降は中高年の“学び直し”ブームが広がり、資格取得に挑戦する人が増えています。
ダイヤモンド・オンラインが公開する情報によれば、宅地建物取引士(宅建)の試験では、2023年度の受験者約28.9万人のうち40代以上が約4割を占めており、50代は前年度比6.4%増、60歳以上は8.9%増とシニア層の伸びが目立ちます。
また、中小企業診断士の試験でも受験者の58%以上が40代以上という結果が出ています。
背景には、早期退職の募集や中高年のリストラ、そして定年後の働き方への不安があると推測できます。文部科学省の調査でも、特に女性において50代後半以降の学習実施率が他の年代よりも高い傾向が報告されています。
人生100年時代と言われる今、「50歳からでも新しい武器を持っておきたい」と考えるのは、ごく自然な流れといえるでしょう。
参考:
DIAMOND online「“転職予備軍”の中小企業診断士が爆増中、会社を辞めずに取る資格のリアル」
文部科学省「社会人の<学び>について~学び直しの実施状況と現場から見た課題~」
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50代に人気の資格ジャンルとその魅力

50代に人気の資格はさまざまな種類がありますが、特に注目されているのは、IT・デジタル系、士業・コンサル系、不動産・金融系、医療・介護系、語学・教育系などの分野です。ここでは、それぞれのジャンルで代表的な資格を紹介します。
IT・デジタル系
AIやDXの進展により、IT人材のニーズは高まり続けています。その流れの中で、50代からIT系の資格取得に挑戦する人も増えてきました。
基本情報技術者・応用情報技術者
基本情報技術者や応用情報技術者は、国家資格としてIT分野の基礎知識を問う内容で、独学や通信講座での学習も可能です。
一方、実務経験がない場合、若年層と比べて求人の選択肢が限られる点には注意が必要です。
ITパスポート、MOS
より身近な資格としては、ITパスポートやMOS(Microsoft Office Specialist)があります。ITパスポートは基本的なIT知識を学べる国家資格で、MOSはWordやExcelなどの操作スキルを証明できる資格です。
IT系の資格で「食べていく」には、資格だけでなく実践的なスキルや実績の有無が問われます。たとえば、プログラミングの成果をポートフォリオとしてまとめるなど、資格をどう活かすかが重要です。
士業・コンサル系:独立開業も目指せる専門資格
「士業」は、定年のない働き方ができる国家資格として、50代から注目されるジャンルのひとつです。中でも資格として人気があるのが、行政書士、社会保険労務士(社労士)、中小企業診断士の3つです。それぞれの特徴を見ていきましょう。
行政書士
行政書士は、許認可申請や契約書の作成といった手続きを専門に扱う法務系の資格です。スタディングが公開するデータによると、合格率はおよそ10%前後と決して高くはありませんが、40〜50代の受験者が多く、合格者のうち4人に1人が50代以上というデータもあります。
独立を見据えて資格を取得する方も多くいると考えられますが、実務経験がないまま開業する場合、案件の獲得が難しくなることもあるので注意が必要です。
社会保険労務士(社労士)
社労士は、企業の労務管理や社会保険手続きを専門とする国家資格です。厚生労働省が公開するデータによれば、合格率は毎年約4〜7%程度と難関ですが、50代での合格者も多く、合格者全体の約20%を占めています。
実際に資格を取得して退職後に独立し成功した事例もありますが、円滑に開業するためにはやはり実務経験が不可欠です。
社労士として独立した事例はこちら▼
50、60代で独立を考えられている方の中には、漠然とした不安を抱えている方も少なくないでしょう。 今回の取材では、「新條社労士・FP事務所」と「HR・ライフキャリアコンサルティング合同会社」代表を務める新條さんに、独立に至った経緯や[…]
中小企業診断士
中小企業診断士は、企業の経営改善を支援するコンサルタント資格です。1次試験・2次試験と段階的に進む難関資格で、取得には相当な学習時間が必要とされています。
取得後は、経営コンサルタントとして中小企業を支援したり、行政の施策に関わる仕事に就いたりするなど、活躍の場が幅広く広がることが期待できます。
独立だけでなく、企業内診断士として社内業務に活かすケースもあり、「現職での経験 × 資格」の組み合わせによって独自の価値を高めることも可能です。
これらの士業・コンサル系資格は高収入を実現できる可能性もあります。厚生労働省の職業情報提供サイト「Job Tag」によると、それぞれの士業の平均年収が公開されています。
資格名 | 平均年収(万円) |
社会保険労務士 | 947.6 |
中小企業診断士 | 947.6 |
公認会計士 | 746.7 |
税理士 | 746.7 |
最終的な収入は、実務経験の有無や営業力、人脈などに左右されるため、資格を取ったあとにどう動くかがとても重要です。
単に資格を持っているだけでは仕事につながりにくいため、取得後の活動や経験の積み重ねが「食べていけるかどうか」の分かれ道になるといえるでしょう。
参考:
STUDYing「行政書士を目指す人はどんな人?受験者データを読み解く」
行政書士試験研究センター「行政書士試験 受験者・合格者の属性」
不動産・金融系
不動産や金融に関する資格も、50代に根強い人気があります。これらの分野は、定年にとらわれない働き方ができるだけでなく、これまでのキャリアや生活経験を活かしやすいのも特徴です。それぞれの代表的な資格について見ていきましょう。
宅地建物取引士(宅建士)
宅建士は、不動産取引における「重要事項の説明」などを行える独占業務がある国家資格です。宅建試験ドットコムが公開しているデータによると、宅建士は毎年20万人前後が受験する人気資格で、合格率はおよそ15〜17%です。やや難易度はあるものの、不動産業界や金融機関で重宝されるため、再就職の手段として50代にも選ばれています。
特に銀行出身者などが、保険や不動産の分野にキャリアチェンジする際の武器として取得するケースもあります。有資格者として不動産会社に雇用されやすくなるほか、自ら不動産投資や仲介ビジネスを始める際にも役立つ資格です。
ただし、不動産業界での経験がない場合、資格を持っていても正社員としての雇用は簡単ではないという声もあり、人脈づくりや営業力が大きなポイントになります。
管理業務主任者
不動産系の中でも、マンション管理業界で注目されているのが管理業務主任者です。マンション管理会社には法律で配置が義務づけられており、資格者の需要は年々高まっています。
一般社団法人マンション管理業協会の公式サイトが公開しているデータによると、試験の合格率はおよそ20〜30%と、比較的取得しやすい部類に入り、専門知識が少なくても学びやすいため、50代からでも無理なく挑戦できます。
ファイナンシャルプランナー(FP)
FPは、家計の管理から資産運用、保険、年金、税金、相続まで、幅広いお金の知識を体系的に学べる資格です。民間資格ではありますが、保険会社や資産相談業務などで活かされることが多く、50代での取得も珍しくありません。
ただし、FP資格だけで独立して安定した収入を得るのは難しい面もあり、営業力や過去の実績なども重要になります。
参考:
一般社団法人マンション管理業協会「令和5年度 管理業務主任者試験 合格者の概要」
語学・教育系:経験を活かして教える仕事へ
語学力や人に教える力を活かしたいと考える50代にとって、語学・教育系の資格は魅力ある選択肢です。定年後のやりがいや社会貢献も含め、人気の高まっている分野です。
日本語教師
日本語教師は、外国人に日本語を教える専門職です。これまでは民間資格でしたが、2024年に国家資格として制度化されました。
資格講座を提供するヒューマンアカデミーによると、過去3年で40代以降の受講者が1.5〜2倍に増え、同社では50〜60代に最も人気の講座となっているとのことです。
通訳案内士
英語などの語学力を活かす資格としては、通訳案内士があります。外国人観光客向けのガイド業務に必要な国家資格で、日本文化に関する知識も問われるのが特徴です。
法改正により、資格がなくても報酬ガイドが可能になりましたが、資格保有者は旅行会社の登録ガイドとして優遇されるケースが多く、信頼性の面で有利といえます。
キャリア支援やインストラクター系資格も選択肢に
人に教えることや支援することが得意な方には、キャリアコンサルタントや講師系資格も検討の余地があります。
キャリアコンサルタントは国家資格ですが、実務経験がない場合は仕事に直結しづらく、特に企業人事などの経験がある人に向いている資格といえます。
参考:
DIAMOND online「“転職予備軍”の中小企業診断士が爆増中、会社を辞めずに取る資格のリアル」
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資格を取れば本当に食べていける?資格と実務経験の現実

「資格を取れば将来は安泰」とは限りません。資格取得はゴールではなくスタートです。むしろ大切なのは、実務経験やスキル、そして人とのつながりです。
実際、「資格を取ったものの、未経験のため仕事に結びつかない」という声は少なくありません。社労士やキャリアコンサルタント、FP(ファイナンシャルプランナー)なども、資格だけで仕事が得られるわけではなく、信頼を得るための実績づくりや営業力が問われます。
経験を活かせる資格選びが成功のカギ
では、資格をうまく活かしている人は何が違うのでしょうか。ひとつのポイントは、自分のこれまでのキャリアとつながりのある資格を選んでいることです。
たとえば、経理経験のある人が税理士や会計士を目指す、人事経験のある人が社労士を取るといった選び方は、知識が実務に直結しやすく、学びやすさや仕事へのつながりやすさでも有利です。
「取ったあと」の行動が成果を左右する
資格を取得したあとにどう動くかも、非常に重要なポイントです。たとえば、行政書士であれば知人の業務を手伝って実績を作る、介護系の資格であればまずパート勤務から始めるなど、小さな経験を積み重ねることで信頼につながります。
資格はあくまで「ツール」であって、「目的」ではありません。「この資格を使って何をするのか」をあらかじめ考えておくことで、モチベーションも保ちやすく、取得後に迷わず行動しやすくなります。
参考:
BEYOND AGE「50、60代で独立する際に『資格』は本当に必要なのか?」
コトラ「公認会計士合格者に年齢制限なし!58歳合格者もいるその真実」
50代以降の転職でお困りの方はBEYOND AGEまでご相談ください
おわりに:50代からの資格取得を次の一歩につなげるために
50代からの資格取得は、決して遅すぎる挑戦ではありません。年齢を理由にあきらめる必要はなく、努力と工夫次第で新たなキャリアを切り開くことは十分可能です。
ただし、資格を仕事につなげて成功している人の多くは、過去の経験を活かしながら地道な努力を重ねています。
また、資格取得を後押ししてくれる制度もあります。雇用保険の教育訓練給付制度を利用すれば、講座費用の一部が補助される場合がありますし、自治体が主催するシニア向け講座など、無料や低価格で学べる機会もあります。
50代からでも十分に道は開けます。これまでの経験に新たな知識を掛け合わせて、自分らしい働き方を見つけていきましょう。