55歳を迎え、早期退職を考える方も多いかと思います。55歳で早期退職を検討する際、「早期退職をして後悔しないだろうか?」と不安になることも多いかと思います。
本記事では、55歳で早期退職する際のメリットや注意点、50代の転職市場の現状、60歳まで退職を先延ばしにするリスクなどについて、28年にわたり雇用調整および再就職支援を行ってきた髙松さんが詳しく解説します。
転職以外の選択肢も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
28年間にわたり人材の出口戦略、特に雇用調整および再就職支援を積む。これまでに約10,000人以上の方の再就職を支援してきた。
希望退職、事業所閉鎖、事業譲渡時の社内コミュニケーションのアドバイザリーも担当。合併、工場・事業所閉鎖、事業譲渡、会社分割、事業清算など、多岐にわたるプロジェクトを成功に導く。また、企業内でのキャリア相談の経験も豊富で、これまでに約2,000人以上の対象者とのキャリア相談を実施している。転職8回、出戻り1回、一人称でシニアのキャリアを語れる68歳。現在、個人事業主(Talent Fine Tuning 代表)
55歳が早期退職を検討する主なきっかけ
55歳は60歳の定年まで残り5年となり、「会社に残るか?早期退職か?」の選択を迫られるタイミングです。
実際に厚生労働省の下記データの通り、55歳以降は転職者が増える傾向にあります。
早期退職を検討する主なきっかけとして、下記の3つが挙げられます。
- 早期退職者の募集
- 役職定年
- 再雇用(60歳から65歳)の準備
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
早期退職者の募集
企業は人員削減や組織の新陳代謝を図るために、早期退職制度を導入しています。55歳前後の社員は早期退職募集を機に、今後のキャリアを考え始め、転職を検討するケースが多くあります。
企業の中には、加算金の上乗せや再就職支援などを通して、社員の早期退職を後押しするところもあり、「せっかく退職金を多くもらえるのだからこれを利用しよう」と前向きに捉えて転職する方も多くいらっしゃいます。
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役職定年
早期退職を考えるきっかけの一つに、役職定年があります。日本の企業では、一般的に55歳で部長の役職定年を迎えることが多いです。
役職定年でポストオフになると、市場価値が下がり転職が難しくなってしまうので、役職があり、市場価値が高いうちに転職したほうが有利と言えます。
こうした状況を理解している人は、役職定年よりも前に転職しますが、実際に行動に移す人は少数で、役職定年後に「これからどうしよう」と悩み始める人が大半です。
役職定年後は役職から外れ、部下からの業務連絡もなくなり、自分宛てのメールも激減するなど、社内の対応が大きく変わるため、それを機に転職を考えるのでしょう。
ただ、そのタイミングだと市場価値が既に下がってしまっているので、転職のタイミングには注意が必要です。
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再雇用前の準備
再雇用後の待遇の変化を見越して、早期退職を検討するケースもありますが、実際に動き出す人は少数派です。
再雇用後に待遇が大きく変わるとわかっていながらも、準備で動き出せない理由は大きく2つあります。
一つは会社を最後まで務めるのが常識と考える傾向にあるという点です。現在の50代の方は1社で長く勤め上げることが常識とされています。そのため、能動的に転職活動をする人は少ない傾向にあります。
2つ目の理由として、転職について、周りに相談できる人がいないという点が挙げられます。おそらく周りも同じような価値観を持っている人が多く、転職をしている人はかなり限られているのでしょう。
このような背景もあり、再雇用前に動き出せず、「周りも再雇用を選ぶから」と、そのまま惰性で働き続けることを選ぶ傾向があります。
55歳で早期退職を選択するメリットは?
「本当に早期退職をして大丈夫だろうか」と不安に感じているかと思います。ここでは、55歳で早期退職を選ぶメリットを解説します。
新たなキャリアアップの機会につながる
早期退職制度を利用し、転職に踏み出すことで、新たなキャリアアップの機会につながります。例えば、大企業からスタートアップに移ったり、新しい業界に挑戦することで、新たなキャリアを構築することができます。
また、会社の成長と自身の成長は密接に関わっています。例えば、今後成長する見込みのない企業や、既に業界が成熟してしまっている場合、その環境での成長やキャリアアップは難しいといえます。
特に早期退職を募集している会社や部署の業界はすでに成熟しているか、または衰退の兆しが見えているともいえます。だからこそ企業は新陳代謝を目的とした早期退職を実行するのです。
そのような環境に長く居続けるのではなく、勇気を持って社外に出ることで、成長企業に出会うチャンスが増え、新たなキャリア構築の可能性が高まります。
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市場価値の低下リスクを避けられる
55歳で早期退職することによって、年齢による市場価値の低下リスクを回避することができます。
いくら輝かしい経歴を持っていたとしても、年齢が上がると転職市場における評価が大きく変ります。
55歳以降も同じ会社でキャリアアップが期待できないと感じるのであれば、早めに行動する必要があります。
多くの方は「再就職できるか不安」など、社外に出るリスクばかりを捉えがちですが、社外で得られるプラスの影響と、社内に残るリスクの両方を考え、自身への影響を総合的に見て判断するのが重要と言えます。
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55歳の早期退職で注意すべき点と課題
55歳での早期退職にはメリットもある半面、注意すべき点もあります。
スキル・経験の市場価値が低い場合、転職が難航する可能性がある
これまで培ったスキル・経験の市場価値が低い人は、早期退職後に希望する転職先が見つからない場合があります。
しかし、市場価値が低いからといって諦めるのではなく、数十年の間で培った経験を「どのように伝えるのか」によって、採用企業の反応も変わってくるでしょう。
「自分はこういうスキルしか持っていない」と思い込んでいても、実は他の意外なスキルが評価されたりするものです。
ただご自身で確認するのは難しいため、まずは職務経歴書を作成して、転職活動を始めましょう。他人の目線から自身のスキルや経験を多面的に捉えることで、新しい価値を見つけられるはずです。
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早期退職に対する家族の理解を得る
早期退職において、家族の理解を得ることも重要です。特に配偶者の理解がなければ、新たなキャリアに向けた行動が難しくなります。一般的な転職でも、配偶者の反対で内定を辞退するケースがよくあるのです。
すべての企業に早期退職制度があるわけではないため、「制度を利用できるのは恵まれている」と家族の理解を得るのも大切です。
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自分の市場価値を客観的に把握する方法
55歳で早期退職を成功させるためには、自分の市場価値を正確に把握することが求められます。ここではその方法を解説します。
55歳以降の転職市場に詳しい第三者の意見を聞く
自分の市場価値を理解するには、転職市場に詳しい第三者の意見を聞くことが有効です。例えば、シニアの転職・独立に対応できるキャリア支援サービスなどに相談することで、自分のスキルが市場でどの程度評価されるかを知ることが可能です。
また、企業が早期退職制度の一環として再就職支援サービスを導入しているのであれば、そちらも活用してみましょう。
求人へ応募・面接をしてみる
実際に求人に応募して面接を受けることは、自分の市場価値を知る良い機会になります。面接を通じて、期待されるスキルや役割などがわかるため、自分の市場価値を確認する機会になるのです。
また実際に企業と面談することで、その企業や業界の内情、トレンドも知ることができます。
しかし、「応募して内定が出たら入社する必要がある」と勘違いしている方が多くいらっしゃいます。そのため、良い条件の募集があったり、スカウトがあっても「もう少し考えたい」と、見送ってしまう方も少なくありません。
「面接して、合わなかったら断ろう」という気軽な気持ちで、積極的に求人に応募したり、会社説明会に参加したりすることをおすすめします。
55歳は50歳と比べて転職市場ではどのように違うのか?
55歳は50歳と比べて、転職市場での評価が大きく異なります。50歳前後であれば、企業側は「60歳の定年まであと10年働ける」と考え、比較的採用されやすい傾向にあります。
しかし、55歳を過ぎると「ピークが過ぎた」と見られ、同じ能力であれば若い人を優先する傾向にあるのです。
ただ「55歳を過ぎたからどこにも採用されない」というわけではなく、企業の特徴によってシニア人材の採用の見方は異なります。
- 大企業:中高年人材の採用は厳しい
- 中小企業:企業によっては年齢問わず採用されることもある
- 外資系企業:成果主義のためスキルがあれば年齢問わず採用される
大企業から大企業へ無事転職できたとしても、その会社でも早期退職の募集や役職定年、再雇用が待ち受けていることも少なくありません。
また、大企業の多くの仕事は、下記の図の「『9』を『10』へ」と「数字を下げない」の部分に該当します。この仕事には中高年の人材が充足しているため、大企業へ転職は難しいといえます。
一方、中小企業では「年齢はあまり関係ない」という考えを持つ会社もあり、年齢に関係なく採用されるケースがあります。
また、外資系企業は実力主義のため、58歳や60歳でも英語能力や、求められるスキル・経験があれば採用される可能性があり、年齢にとらわれない傾向が強いです。
ただし、実力が伴わなければ待遇が下がったり、退職を勧められたりするリスクが伴います。このように、年齢に応じて企業を選定するスキルも非常に重要になります。
55歳以降の3つの選択肢
これまで解説した通り、55歳以降の転職は厳しい現状にありますが、55歳以降の選択肢は必ずしも転職だけではありません。
中には業務委託として働く人もいます。55歳以降のキャリアとして業務委託で働くメリットについて解説します。
業務委託を始めるメリット
55歳以降の方が業務委託を始めるメリットは、下記の通りです。
- 年齢の制限を受けにくい
- 自分の市場価値を確認する機会になる
- リスクを抑えながら新たなキャリアを築ける
業務委託の大きなメリットは、年齢の制限を受けにくい点です。雇用契約では年齢による制限が大きくなりますが、業務委託なら年齢に関係なく働けます。
また、兼業を探す過程で「自分の経験やスキルが他社でどのくらい役に立つのか」など、市場価値を確認する機会になります。
いきなり退職して独立するとリスクは高くなりますが、会社に所属しつつ、業務委託契約で仕事を副業として始め、徐々にその副業の仕事の割合を増やしていくことで、リスクを抑えつつ新たなキャリアへシフトすることが可能です。
人生100年時代、健康寿命が年々伸びていく中で、60歳を超えてもバリバリ働きたいと思っている方は多いのではないでしょうか。定年を気にせず働く上で独立という選択肢について検討している方も増えてきています。 しかし、長年サラリーマンとし[…]
業務委託で仕事を始め方・探し方
業務委託で仕事を始めるには、次の方法が挙げられます。
- 所属している会社に業務委託契約での採用を交渉する
- Indeedなどの求人サイトで探す
- 業務委託(兼業)を仲介するサイトへの登録
多くの方が「そのようなことできるのですか」と聞かれるのですが、雇用契約の求人に対して「業務委託契約でお願いできませんか?」と提案し、業務委託で契約してもらうこともできます。
実際に会社に交渉して業務委託で週4日勤務し、残りの1日は別の会社で勤務するなど、柔軟な働き方を実現している例もあります。
会社にとっても、業務委託契約であれば、福利厚生費などが発生しないため歓迎されることもあるのです。
大企業をはじめ、早期退職者を募集する企業が増えてきた昨今、定年退職前に転職を検討する50代の方も増えてきました。 しかし、転職を始めた方はすでに感じられているかもしれませんが、希望する就職先になかなか出会えないという現実があります。[…]
会社は人生の通過点に過ぎない
個人と会社は対等な立場なので、業務委託の提案などを積極的に交渉すると良いでしょう。業務委託という形態で個人と会社が対等な関係を築ければ、年齢に関係なく自分の能力を発揮し続けることが可能です。
ただ、このように私がお伝えしても、理解されにくいのが現状です。その理由は、日本特有の雇用慣行や企業文化にあります。
日本では「会社に入る」という意識が強く、学校の延長線上で捉える傾向があるからかもしれません。会社の一大イベントとしての「入社式」はその象徴とも言え、日本特有の文化で海外にはありません。日本では「目の前の仕事を一生懸命にやる」「会社に尽くすことが美徳」など、会社に帰属することが重視されがちです。
しかし、会社は個人のキャリアにおける通過点に過ぎません。自分の人生のゴールと会社は異なります。日本の雇用慣行に縛られず、業務委託や兼業といった選択肢を検討する意識を新たに持つことも、55歳以降のキャリアチェンジを成功させるポイントと言えます。
55歳で早期退職後に後悔しないためには能動的になることが重要
ここまで解説した内容をふまえて、55歳で早期退職後に後悔しないための準備は次の通りです。
- 転職サイトや求人マッチングサービスに登録して求人情報を見る
- 再就職支援や転職サービスなどを利用して客観的に自分の市場価値を把握する
- 業務委託での兼業を選択肢に入れ、新しい働き方にチャレンジする
まずは、転職サイトやLinkedInなどに登録し、求人情報を積極的にチェックしてみてください。求人を見ることで、どのような仕事があるのか、自分の経験やスキルが他社で通用するのかなどが見えてきます。
ただし、サイトに登録するだけでは意味がありません。気になる求人にはメッセージを送ったり、プロフィールを充実させて積極的に情報を発信したりするなど、自ら仕事を取りにいく気持ちで活用することがポイントです。
また、キャリアコンサルタントやBEYOND AGEが提供するシニア人材に特化した転職支援サービスなどを活用して市場価値を評価・アドバイスしてもらうと、今後のキャリア選択がスムーズに進められるでしょう。
55歳という節目に能動的に動くことが、今後のキャリアにおいて後悔しないための最大のポイントです。積極的に動かなければ、自らキャリアの選択肢を狭めることになります。
今悩んでいる55歳の方は、業務委託での兼業も選択肢に入れ、すぐにでも新しい働き方にチャレンジしていきましょう。