50代で早期退職後、再就職に苦労する方が多くいらっしゃいます。長年同じ企業で働いてきた人にとって、いきなり転職市場に飛び込むのは容易ではありません。それに加えて、年齢が高くなるほど転職先の選択肢は限られてきます。
本記事では、早期退職後、再就職するための考え方について、27年にわたり雇用調整および再就職支援を行ってきた髙松さんが解説します。
Talent Fine Tuning 代表
髙松 健司
27年間にわたり人材の出口戦略、特に雇用調整および再就職支援を積む。
これまでに約10,000人以上の方の再就職を支援してきた。希望退職、事業所閉鎖、事業譲渡時の社内コミュニケーションのアドバイザリーも担当。合併、工場・事業所閉鎖、事業譲渡、会社分割、事業清算など、多岐にわたるプロジェクトを成功に導く。また、企業内でのキャリア相談の経験も豊富で、これまでに約2,000人以上の対象者とのキャリア相談を実施している。転職8回、出戻り1回、一人称でシニアのキャリアを語れる67歳。現在、個人事業主(Talent Fine Tuning 代表)。
50代早期退職後の再就職事情とは?
まずは50代の再就職事情について見ていきましょう。
厚生労働省の発表では、早期退職した後、再就職支援会社の支援により8割近くの人が再就職に成功しているという数字が出ています。
数字だけ見ると、「意外と多い」と感じるかもしれません。しかし、全ての人が希望する企業に転職できているわけではありません。
また、これはあくまでも再就職支援を活用したケースに限った話です。再就職支援を使わずに独自で転職活動を行うと、厳しい現実に直面することも事実です。
実際に早期退職を経験した人の中には、50社、100社と応募しても選考に通らないという声も少なくありません。
また実際に転職できたとしても、その転職先の会社から違う会社に転職する際にまた厳しい状況に直面することになります。
後述しますが、50代以降は正社員として転職する以外の選択肢も検討することが重要です。
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50代で早期退職後、再就職が難しいと言われる理由は?
以下ではなぜ50代の再就職が難しいかについて解説します。
前職の待遇を維持したまま再就職することが難しい
50代で転職活動を始める方の中には、前職と同じ待遇で再就職したいと考える人が多いのですが、現実はそう甘くありません。
年齢が上がるほど、企業が求める人材像・条件と、求職者が求める条件との間にミスマッチが生じやすくなり、希望する条件での再就職は難しくなります。その事実に気づかず転職活動をする方がほとんどなので、その結果として早期退職後の再就職が難しいと感じるのでしょう。
特に大企業で長年キャリアを積んできた方は、自分の実力以上の待遇を受けている場合があります。いわゆる大企業の座布団の上に乗っている状態に気づかず、転職活動の際に自分の市場価値を過大評価しがちで、提示される条件に不満を持つことが多いのです。
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転職活動時に活用するチャネルが限られる
50代になると、転職活動時に活用するチャネルも限られます。例えば、ハローワークに掲載されている高年収の求人はごく少数です。
また人材紹介エージェントは採用企業側に立って動くため、採用企業が求める人材、例えば専門性の高い人材や若い年代の人材などを優先的に扱う傾向があります。
結果として、中高年の早期退職者は、外部から適切な支援を受けられないまま、転職活動に苦労するケースが多くなってしまうのです。
50代には初めて転職活動をする方が多い
長年同じ会社で働くことが当たり前だった50代の中には、早期退職を機に初めて転職活動をする方が多くいらっしゃいます。
初めての転職活動は右も左も分からない状態で、まるで砂漠の真ん中に放り出されたような不安を感じるものです。
一方で、転職を2、3回経験している方は、スムーズに次のステップに進める傾向にあります。転職のプロセスに慣れているだけでなく、自分に合う環境を見極める目も養われているのでしょう。
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早期退職の募集から退職までの期間が短い
早期退職制度では、一般的に早期退職の募集から実際に退職するまで1〜2ヶ月程度と短く設定されていることが多く、その間、退職するかどうかの葛藤で頭がいっぱいになってしまいます。
そのため次の転職先を探す余裕がないまま、早期退職後に転職活動を始める人が大半です。
しかし、いざ転職活動を始めてみると先述したように年齢が高いほど、企業が求める人材像と求職者が求める条件の間にミスマッチが生じやすくなるため、思うように書類選考を通過できないのが現実です。
このように、多くの人は準備不足のまま早期退職を迎え、転職活動に突入し、その結果、転職活動に苦労しているのです。
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50代で早期退職を選択するメリットは?
「それでも早期退職を選択するべきなのか?」と思うかもしれませんが、早期退職制度を利用することにはいくつかのメリットがあります。
以下ではそれぞれのメリットについて紹介します。
年齢による恩恵を受けられる
こちらは50代前半の方に言えることですが、なるべく早く転職に踏み切ることで、転職の選択肢が広がることが大きなメリットの一つです。
50歳から55歳までの間は、まだ転職市場で一定の需要がある年齢層だと言えます。しかし、55歳を過ぎると、急激に選択肢が減少していく傾向にあります。
また55歳以降は転職後の賃金が下がることもわかっています。
これは、企業側が求める人材の年齢に上限があることが主な理由です。たとえ優れたスキルやキャリアを持っていても、年齢が高いというだけで敬遠されてしまうケースが少なくありません。
再就職支援を受けられる
早期退職を募集する企業の中には再就職支援を提供している会社もあります。再就職支援では、転職活動に必要なスキルアップ(リスキリング研修)の機会が提供されたり、キャリアカウンセリングを通じて、自分の強みを再確認し、それを活かせる業界・職種を見極められるのも大きな利点です。
再就職支援と人材紹介エージェントの違いについては後で解説します。
退職金に加算金が上乗せされる
早期退職制度では、退職金に加算金が上乗せされることがあります。大企業であれば数千万円規模の加算金が支給されるケースもありますが、中小企業では3-6ヶ月分の賃金程度になることが多いようです。
50代で早期退職を選択する上での注意点は?
50代半ばで早期退職を選択することにはメリットがある一方で、いくつかの注意点にも留意が必要です。
再就職支援に過度な期待は抱かない
再就職支援が企業から提供される場合でも、過度な期待は禁物です。転職先の企業を紹介してくれるからといって、その企業から内定を確実にもらえるわけではありません。
また、そもそも企業から再就職支援が提供されないこともあるため、その場合は自分自身で転職活動を進める必要があります。
いずれにせよ、主体的に動くことが求められます。
退職する年齢についても注意が必要
先ほど、退職のタイミングが早ければ早いほど良いと解説しましたが、逆に言えば、タイミングを逃してしまうと転職が難しくなってしまいます。
早期退職の募集がきてから転職を検討するのではなく、少しでも早期退職が募集される予兆を感じるのであれば、今から始めるべきでしょう。
社外の景気動向にもアンテナを張る必要がある
景気動向にも注意が必要です。昨今、金利上昇を背景に、不採算事業の売却やいわゆるゾンビ企業の淘汰が進んでいます。
「自分の部署や会社は大丈夫だ」と油断せず、今からでもできる準備を進めましょう。今後は景気の先行きを見据え、転職活動のタイミングを慎重に見極めることが求められます。
個人では再就職支援を利用できない
転職の成功確率を上げるためにも、再就職支援などを積極的に使っていくべきですが、実は個人では再就職支援のサービスは利用できません。
また再就職支援と転職エージェントの違いについても、知らない方も多くいらっしゃるので、その違いについて以下で解説します。
再就職支援の特徴
再就職支援会社は、企業からの依頼を受けてBtoBで事業を展開しています。また求職者側に立って転職活動を支援するため、求職者が持つ希望の条件や、求職者の強み、経験に基づいて、それに該当する企業を探します。
そのため、求職者にマッチした企業を見つけやすいという特徴があります。しかし、職業安定法という法律により、個人から再就職支援会社が報酬を受け取ることは禁止されているため、個人が直接サービスを受けることができません。
基本的には在籍している会社経由で再就職支援を受けることになります。
転職エージェントの特徴
転職エージェントは求職者と採用企業の間に立って事業を展開していますが、基本的には採用企業側から報酬を得ているため、採用企業が求めるものを優先する傾向にあります。
その採用企業の多くが若い社員や専門性のある人材を採用したいと考えているので、転職エージェントに登録しても、50代以上の人材に対して、積極的に求人先を紹介してくれるとは限りません。
早期退職前後で転職活動する際は、これらのサービスの性質の違いについても知っておきましょう。
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失業期間は3〜6ヶ月間を目安に次の仕事を見つける
早期退職後、失業期間が長引くほど焦りを感じるものですが、失業期間の捉え方についても考え直す必要があります。
失業期間が長引くことは決して悪いことではない
早期退職後に転職活動を始めるもののうまくいかず、失業期間が3〜6ヶ月ほどになる方も少なくありません。しかし、失業期間が長くなることは決して悪いことではありません。
実は失業期間を2〜3ヶ月ほど経験している方が、転職先の定着率が高い傾向にあります。転職した当初は「前の会社ではこうだった」「なぜ会社に食堂がないんだ」「なぜ提示される年収がこんなに低いんだ」と理想と現実のギャップに苦しむことがありますが、時間が経つと、徐々に等身大の自分を認識し始めます。
要は失業期間が長くなると、「早く働きたい」と徐々に”お腹がすいた状態”になり、「どうすれば採用されるのか」を考えるようになります。
結果として自分の中の妥協ラインを探すようになり、その基準にあった転職先が見つかり、等身大の自分で入社するため、転職後のギャップも抑えられます。
失業期間が長くなることを決してネガティブに捉えずに、等身大の自分に近づいている、より良い転職が実現できる、とポジティブに捉えましょう。
失業期間はどれくらいまでが許容範囲?
早期退職後の許容できる失業期間についてですが、一般的には3〜6ヶ月程度が目安となります。
これ以上長引くと、本人の心理面でのダメージが大きくなるだけでなく、採用する企業側からも「この期間に何をしていたのか」という疑問を持たれかねません。
また、失業期間が長くなるほど、自分だけが取り残されているような疎外感や社会から隔絶されている感覚が強まります。
お金がないために外出もできず、家族がいても居場所がないような感覚に陥ります。こうした精神的なダメージは、失業期間が長引くほど大きくなります。
大切なのは、早期退職後の過ごし方を事前に考えておくことです。漠然と構えていては、いつの間にか時間だけが過ぎ去ってしまいます。精神的にも追い詰められ、焦りから不本意な就職を選択せざるを得なくなるかもしれません。
失業期間中は人脈を作ることも意識する
50代以降の働き方において、人脈の重要性は極めて高いと言えます。50代以降も長く働き続けるためには、信頼できる人脈が不可欠なのです。
例えば、業務委託で仕事を受ける際、過去に一緒に働いた同僚や学生時代の友人から仕事の紹介を受けることがあります。
そのため、これまでお世話になった方々がまだ現役で活躍している間に、積極的に連絡を取り、関係性を維持・強化することが大切です。
加えて、同年代や年上の方だけでなく、若い世代とも交流を深めることで、幅広い人脈を形成することができます。
安定した仕事を獲得するには、多様な人脈を持つことが鍵となります。そのためには、下図のような人脈リストを作成し、自身の人脈の偏りを確認してみるのも一つの方法です。
積極的に人脈を築き、維持していくことで、長く充実したキャリアを築くことができるでしょう。
早期退職後に再就職ができないときの対策とは
これまで早期退職後に再就職が難しい原因などについて解説しました。以下では、失業期間が長引いた時、どのような対応を取るべきかについて解説します。
派遣社員として経験を積む
早期退職後、希望する職種へのキャリアチェンジが難しい場合、派遣社員として働くことも一つの選択肢です。
派遣で3〜6ヶ月ほど実務経験を積むことで、キャリアのギャップを埋めることができます。この経験を活かして、次のステップとして正社員としての転職にチャレンジするのです。
業務委託契約で仕事を受ける
フリーランスとして自分の能力を売り込むのも一つの方法です。業務委託の仕事を複数社から受注し、実績を積み重ねていきましょう。その中で、自分の能力を認めてくれる企業があれば、正社員採用の話が出てくるかもしれません。
大切なのは正社員雇用にこだわりすぎないことです。雇用形態にとらわれず、まずは働ける場所を見つけることに注力しましょう。
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失業保険の活用を忘れずに
再就職までの期間が長引く場合、失業保険の申請を忘れずに行いましょう。会社都合の退職であれば、離職後1週間で受給が開始されます。
自己都合の場合は3ヶ月の待機期間が必要ですが、生活費の補填として重要な役割を果たします。
ただし、失業保険だけに頼るのは賢明ではありません。再就職に向けた行動と並行して活用するようにしましょう。
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まとめ
早期退職後の再就職では、自分の市場価値を正しく理解し、柔軟な働き方を選択することが重要です。
年齢が高いほど転職は難しくなりますが、派遣や業務委託、フリーランスなど、雇用形態にこだわらず経験を積むことで道は開けます。再就職支援制度や失業保険も活用しつつ、”転職”ではなく”働き方”を変えるという発想の転換が、長期失業を回避し、新たなキャリアへの一歩となるでしょう。