70歳からの起業への挑戦「誰でも自信を持てば挑戦できる」

人生100年時代。多くのビジネスパーソンが50代、60代で直面するのが、「この先のキャリアをどう描くか」という問いです。会社員人生のゴールが見え始める中で、起業や起業に漠然とした憧れを抱きつつも、「年齢の壁」や「資金の問題」、「失敗への不安」から、次の一歩を踏み出せずにいる方も少なくないでしょう。

そんな中、70歳を新たなスタートラインとし、長年の夢だった自分のお店を開業した女性がいます。山梨県で洋服のお直し店「ステッチ工房」を営む、谷田部真弓さんです。

大手お直しチェーンでの8年間の勤務で得た経験と、3年間にわたる入念な準備期間を経て、起業という大きな挑戦に挑みました。

この記事では、起業を決意した背景から、融資や店舗探しといったハードルの乗り越え方、大手を知るからこその差別化戦略、そして挑戦を支えた「自信」と「計画性」の重要性まで、谷田部様ご自身の言葉で詳細に語っていただきました。

谷田部様のプロフィール
70歳で洋服お直し店を開業した起業家。大手チェーンで8年勤務後、3年間の入念な準備を経て起業。「価格」と「スピード」を強みに、自信を持って挑戦を続けている。

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起業のきっかけと経緯

― まず、谷田部様が洋服のお直しの仕事を始められた経緯について教えていただけますか?

もともと若い頃から洋裁が好きで、自宅にもミシンを何台か置いていました。孫が生まれた時は、2人が年子だったものですから、まるでお揃いのように上から下まで全ての洋服を私が作って着せていたくらいです。洋服を作ることそのものが、昔からずっと好きだったのだと思います。

そんな「好き」という気持ちが高じて、趣味で洋裁教室に通っていました。今日も行ってきたところなのですが、その教室に通っているうちに、壁に貼ってあった求人票が目に留まったんです。

それが、イオンモールに入っていたお直しチェーンの「マジックミシン」の募集でした。洋服を作るのも好きだけれど、お直しの仕事も面白そうだな、やってみようかな、という気持ちでそこに応募し、勤めることになりました。それが、この道に入る最初のきっかけです。

― 長年お勤めだった「マジックミシン」から、70歳を節目に起業を決意された背景には、どのようなお考えがあったのでしょうか?

マジックミシンでは8年弱お世話になりました。そこで働くうちに、この「お直し」という仕事は、世の中から非常に需要がある仕事なのだなと日々感じていました。

起業を具体的に考え始めたのは、今から3年ほど前です。その時、「あと3年で自分も70歳になるんだ」ということを意識しました。勤めていた会社の定年が70歳でしたので、「70歳で退職した後の人生、私は一体何をすればいいのだろうか」と真剣に考え始めたんです。

人生100年、最近では120年とまで言われる時代です。この長い残りの人生をどう過ごすかと考えた時、「そうだ、自分で起業しよう」という考えに至りました。

自分の好きなこのお直しの仕事であれば、定年もありませんし、お客様と関わることで社会との繋がりも持ち続けられます。それが自分のためにもなるのではないか、と。そう思い立ってから、3年後の起業を目標に、真剣に準備を始めました。

― 起業という選択肢の他に、別のお店で従業員として働くといった選択肢は検討されなかったのでしょうか?

そうですね、他のお店で働くという選択肢には、やはり年齢の壁があると感じていました。例えば50代であれば、転職してもまだ先があると思えます。しかし、私の場合は70歳です。70歳で転職して、あと何年働けるのだろうかと考えた時、それほど長くはないだろうと思いました。

それならば、定年のない「自分でやる」という形を選んだ方が良いと考えたのです。個人事業主として自分のお店を持てば、自分の元気な限り働き続けることができます。

何より、社会との関わりを持ち続けることは非常に大切なことだと感じていました。お店を開けば、10代からご高齢の方まで、本当に幅広い世代のお客様が毎日いらっしゃいます。

そうした方々と会話ができることも、社会との繋がりを保つ上で大きな魅力でした。そういった理由から、他で雇われるのではなく、自分で起業する道を選びました。

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3年間の入念な準備と計画

― 3年後に起業するという目標を立ててから、具体的にどのような準備を進められたのでしょうか?

「3年後に起業する」と心に決めてからは、日々の仕事への向き合い方が大きく変わりました。まず、起業してお客様からお金をいただくためには、どんなご依頼にも応えられるだけの確かな技術が必要だと考えました。

ですから、職場の先輩の仕事ぶりを注意深く観察し、その技術を「盗む」ような気持ちで一生懸命勉強しました。給料をいただきながら、起業のための修行をさせてもらっているという感覚でしたね。

同時に、経営に関する準備も始めました。すぐに地元の商工会へ相談に行き、そこで経理のことから銀行融資、店舗探しのノウハウまで、様々なことを教えていただきました。

商工会が主催していた起業家のための勉強会にも参加し、今後の経営をどうしていくべきか、具体的な知識を学びました。

そして、オープン1年前となる去年からは、いよいよ本格的に店舗探しを開始しました。このように、技術、経営知識、そして物件探しと、段階を踏んで3年間かけて入念に準備を進めてきた形になります。

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最初の起業の壁となった店舗探しと融資

― 起業準備の中で、特にご苦労されたのはどういった点でしたか?

一番苦労したのは、やはり店舗探しです。お客様の目に付きやすく、かつ車の出入りがしやすい立地というのが絶対条件でした。しかし、そういった条件の良い場所はなかなか見つからず、見つかっても家賃が高額だったりして、本当に根気よく探す必要がありました。ここが一番の難関だったかもしれません。

ですが、本当にたまたま、いつも仕事で通っていたイオンモールへ向かう道中に、ちょうど良い貸店舗が急に空いたんです。

そこは人口も多く、需要が見込まれる地域でしたし、大きな道路に面していて、ヨーカ堂の駐車場からもよく見える場所でした。

これを見た時、「ここしかない!」と直感し、すぐに電話をして即決しました。それが去年の10月のことです。

― 70歳というご年齢で銀行から融資を受けるにあたり、ご苦労はありましたか?また、借入れをすることへの不安はありませんでしたか?

融資に関しても、やはり簡単ではありませんでした。自己資金も準備していましたが、店舗の内装やミシンの導入などを考えると、どうしても追加の投資が必要でした。

この時、本当に力になってくださったのは商工会です。事業計画書をはじめ、銀行に提出する書類はほとんど商工会の方々が作成を手伝ってくださいました。

融資の審査には結局1ヶ月以上かかり、結果が出るまではやはり落ち着かない日々でしたね。

最終的に、地元の銀行から融資の承認をいただくことができました。その際も、銀行単独ではなく、保証協会を付けた形での融資となりました。

また、国が設けている「シニア起業支援」という政策があったことも大きかったです。この制度の支援枠に乗っかる形で、融資を受けることができました。

借金をすることへの不安が全くなかったわけではありません。でも、私にとっては、その不安よりもプラスの側面の方が大きかったですね。

融資を受けたことで、「絶対にこの事業を成功させなくてはならない」という責任感と覚悟が生まれ、それが「やる気」に繋がりました。

もし、自己資金だけで始めていたら、どこかで「お客様が来なくても、まあいいか」という甘えが出てしまったかもしれません。「借りたお金は返さなくてはならない」という状況が、自分を律し、一生懸命にさせてくれるのだと思います。

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大手を知るからこその差別化戦略

― 以前お勤めだった大手チェーン店と、ご自身の個人店とを比較して、どのような「差別化」を意識されましたか?

イオンモールの中にある大手チェーンは、特に宣伝をしなくても、モール自体の集客力でお客様が来てくださいます。しかし、個人で事業をやるからには、それとは全く違う戦略が必要です。そこで、大手と真っ向から争うのではなく、明確な「差別化」を図ることを一番に考えました。

その最大のポイントは「価格」です。この時代ですから、お客様は少しでも安く、良いサービスを受けたいと考えているはずです。例えばパンツの裾上げ一つでも、大手より安価な価格で提供できれば、お客様に喜んでいただけるのではないか、と。

私のビジネスは、商品を仕入れて在庫を抱えるわけではなく、基本的には自分の技術、つまり「腕一つ」で成り立っています。

スタッフも雇わず、一人で運営しているため、経費を最小限に抑えることができます。だからこそ、この価格戦略が可能でした。この安価な価格設定が当たり、「ここが一番安いから」と口コミで来てくださるお客様が非常に多いです。

もう一つの差別化ポイントは「スピード」です。大手では、お直しに1週間から2週間ほど日数をいただくのが一般的です。

もし急ぐ場合は、追加で「スピード料金」が発生することもあります。私が勤めていたところもそうでした。しかし、私の店ではそういったことは一切せず、お客様にその場で少しお待ちいただいて仕上げる「スピード仕上げ」を基本にしています。

これがお客様に大変喜んでいただけて、「すぐ仕上げてくれるから助かる」という声が、また新しいお客様を呼んでくれるという良い循環が生まれています。

大手チェーンの内部にいたからこそ、お客様が何に不便を感じ、何を求めているかがよく分かっていました。この「価格」と「スピード」で差別化すれば、個人店でも十分に戦えるという確信がありましたね。

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デジタル時代の集客と周囲のサポート

― 集客に関して、Instagramやウェブサイトなどを活用されていますが、そういったインターネットでの集客はどのように学ばれたのでしょうか?

はい。今の時代、やはりネットを活用しない手はないと考えています。お店のホームページを開設したり、InstagramやFacebookを始めたり、Googleマップへの登録も自分で行いました。

もちろん、最初から全て一人でできたわけではありません。ここでも、商工会が大きな支えとなってくれました。商工会にはIT専門の担当者がいて、定期的に来てくれては「こうやって投稿すればいいよ」「次はこういう広告を出してみましょう」と、運用の仕方を具体的に教えてくれるんです。つい昨日も来ていただいて、地域や年代を絞って広告を出す方法を一緒に試したところです。

InstagramやFacebookの運用だけでなく、オープン時に作成したチラシや、店舗の窓に貼った大きな看板のデザインなども、商工会の支援枠の中で専門家を紹介していただき、無料で作成することができました。起業する人への支援制度が色々あり、その枠をうまく活用させていただいた形です。

また、20歳と19歳になる孫たちが本当に心強い味方になってくれています。スマートフォンの操作で分からないことがあれば、すぐに「これ、どうやるの?」と聞きます。

そうすると、すぐに教えてくれますからね。Instagramに載せている、お直しのビフォーアフターが分かる写真も、孫のアイデアです。

「こうした方が、変化が分かりやすくて良いよ」とアドバイスをくれます。若い世代の発想や力も借りながら、なんとか時代の流れについていっている感じです。周りに助けてくれる人がいるので、本当に困ることはないですね。

― 実際に、ネットを見て来店されるお客様は多いですか?

はい、非常に多いです。特に若い方は、来店前に必ずと言っていいほどGoogleの口コミを見ていらっしゃいますね。

「口コミが良かったので来ました」と言われることも多く、情報発信の大切さを実感しています。また、意外とご年配の方でも「ネットで調べて来ました」とおっしゃる方がいて驚きます。

本当に、もうそういう時代なんですね。時代に沿ったやり方を取り入れていかないと、商売は成り立たないと痛感しています。

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起業して感じる仕事の楽しさとやりがい

― 会社員として働いていた時と、起業された後とで、働き方における一番大きな違いは何だと感じますか?

それはやはり、精神的な面が一番大きいですね。雇われているということは、良くも悪くも、その会社の方針に従わなければなりません。

自分自身が「お客様のためには、こうした方がもっと良いのに」と思っても、会社の方針と違えばそれは通用しません。そういったジレンマを感じることもありました。

しかし、起業すれば全てが自分の采配です。自分の信念に基づいた、自分が「これがベストだ」と思えるやり方でお客様に応対できる。その自由さが、起業して一番良かったと感じる点かもしれません。

― お仕事の中で、一番の楽しさややりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?

一番嬉しいのは、やはり仕上げたお洋服をお客様にお渡しする瞬間です。「わあ、綺麗にしてくれてありがとう」「上手だね」といった言葉を直接いただけると、本当に嬉しく、やりがいを感じます。「また来るね」と言ってお帰りいただけた時もそうですね。

そして、本当に感動してくださったお客様が、後でGoogleに良い口コミを投稿してくださることがあるんです。

まだ数件ですが、その口コミを読むと、「お客様はこんな風に感じてくれていたんだな」と分かり、明日への仕事の大きな励みになります。お客様からの感謝の声の一つ一つが、「起業して間違っていなかったんだな」という自信に繋がっています。

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今後の展望と健康管理

― 今後の事業の展望について、どのようにお考えですか?

2店舗目、3店舗目と事業を拡大していくことは、今のところ全く考えていません。この1店舗で、一人でも多くのお客様にご満足いただけるよう、目の前のお仕事に集中していきたいと思っています。

私もまだまだ元気に働きますが、将来的には、娘たちや孫がこの仕事に興味を持って、「お店を継ぎたい」と言ってくれたら、それはそれで嬉しいなとは考えています。

また、最近では地元の学生服を扱っている会社から、生徒さんの制服のお直しや寸法直しの仕事をいただけることになりました。こうして新しいご縁が広がっていくことにも、大きなやりがいを感じています。

― お忙しい毎日かと思いますが、健康面で気をつけていらっしゃることはありますか?

はい、健康管理は一番大切にしています。お店の営業時間は夜7時までと決めているのですが、その時間になったらきっちり閉めて、家に帰って体を休めるようにしています。

やはり、良い仕事をするためには十分な睡眠が不可欠です。この生活リズムを崩さずに、これからも元気に働き続けたいですね。自分で仕事量を調整できるのも、起業したからこそのメリットだと感じています。

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これから起業を目指す方へのメッセージ

― 最後に、これから起業を考えている50代、60代の方々へ、メッセージをお願いします。

私が一番お伝えしたいのは「自分に自信を持つこと」、そして「やるぞ!という強い気持ちを持つこと」です。この私が70歳でできたのですから、今の50代、60代の、気力も体力もまだまだある方々なら、絶対にできます。

ただ、その自信は、根拠のないものであってはいけません。自信を裏付けるための、入念な「計画性」が何よりも重要です。

もし、ご自身の専門技術で起業を考えているのであれば、誰にも負けないと胸を張れるくらいまで、そのスキルを磨き抜くこと。そして、漠然とした夢で終わらせないために、経営についてしっかり勉強し、専門家の力も借りながら、緻密な事業計画を立てること。この二つが揃って初めて、成功への道が開けるのだと思います。

ふとしたことでつまずいたり、怖いと感じたりすることもあるかもしれません。でも、最後は「自分を信じる」ことです。そうすれば、必ず道は拓けます。これからの長い人生をどう生きるか考えた時、「起業」は非常に素晴らしい選択肢の一つだと思います。ぜひ、勇気を出して一歩を踏み出してみてください。

 

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