80代で10件以上の案件を担う西澤さん。現役で活躍できる秘訣とは?

シニア世代の起業が増えています。しかし、50代、60代の方の中には、「自分のキャリアやスキルが通用するのだろうか」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、日本S&T㈱代表の西澤民夫さんにお話を伺いました。

西澤さんは、中小企業金融公庫や山一證券での企業支援の経験を活かし、54歳の時に起業。80歳を超えた現在も、M&Aキャピタルパートナーズ社外取締役や(独)科学技術振興機構起業支援室推進プログラムオフィサーなど多方面で活躍中です。

シニア世代が輝き続けるための秘訣は「自分にできることを発信し、相手のニーズを満たして励まし続けること」だと語る西澤さん。積み上げてきたキャリアの活かし方や支援先の信頼を得るポイントについて伺いました。

西澤民夫 

1943年、東京都中野区生まれ。早稲田大学高等学院・早稲田大学第一政経学部経済学科卒業後、中小企業金融公庫を経て、山一證券(株)に入社。山一ファイナンス・アメリカ・インク社長に就任し、米国にて5年間、日本にて18年間ベンチャーキャピタリストとして活躍する。1998年に日本S&T(株)を設立。その後も(独)中小企業基盤整備機構にて本部統括プロジェクトマネージャーを15年間歴任した後、現在は(国研)科学技術振興機構スタートアップ出資・支援室推進プログラムオフィサーやM&Aキャピタルパートナーズ社外取締役等を務める。オープンイノベーションフォーラム「ローマの市場にて」を主宰。

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山一證券から飛び込んだベンチャーキャピタルの魅力

―これまでのご経歴について教えてください。

私は1943年に東京都中野区で生まれ、早稲田大学第一政経学部経済学科を卒業後、中小企業金融公庫に入社しました。19年間勤務し、主に融資や審査、そして大蔵省や経済産業省への予算要求といった業務に従事しました。

山一證券ではアメリカでのベンチャーキャピタル業務に興味を持ち、渡米を決意。5年にわたる海外生活を送りました。

帰国後、山一証券が経営破綻。その後、日本S&T(株)を立ち上げました。現在では他に、科学技術振興機構スタートアップ出資・支援室推進プログラムオフィサーなどの役割もいただいています。

ー錚々たる企業でご活躍されていますが、学生時代に打ち込んだことは何でしたか?

フェンシングです。早稲田高等学院に進学した理由も、実はフェンシング部があったからです。

フェンシングには「三銃士」というイメージがあって、当時はかっこよく見えました。しかし、実際始めてみると、非常に厳しいスポーツだったのですが、それでも続けられたのは、部員数が少なく、私が辞めると部がなくなってしまう状況だったからです。

結局そのまま7年間、フェンシングを続けました。特に印象に残っているのは、大学3年生の時に全日本学生選手権のエペ団体戦で優勝したことですね。

しかし、4年生の時にはチームが2部リーグに降格。4年生のギリギリまで部活動に力を入れていたため就職活動はしていませんでした。そんな私を友人たちが「どこに就職するんだ?」と心配し、勧めてくれたのが、中小企業金融公庫だったのです。

―キャリア全体を通じて、ベンチャー支援を中心にご活躍されています。その理由は何でしょうか。

ベンチャー企業の設立が、アメリカを中心に盛んになった時期がありました。私自身も浮かれっぽい性格だということもあり、興味をもっていました。

当時私は中小企業金融公庫にいたのですが、私が融資した企業の多くが一部上場を実現していました。自然と「企業の支援に関わって一緒に成功を分かち合いたい」という気持ちが強くなりました。

それが、山一證券への転職を決めた理由のひとつです。

―長いキャリアの中で多くのハードシングスをご経験されていると思いますが、会社員時代の印象的な出来事は何でしょうか?

山一証券に転職した際のことは、今でも心に残っています。すでにお話したように、私は中小企業金融公庫で、企業への融資を通じて成長を支援することにやりがいを感じていました。

しかし、山一証券に転職してからすぐに気づいたのは、証券会社は法律の関係上、リスクのある企業への資金提供が簡単にはできないということでした。

「この転職は間違いだったのでは」と、辞めることも考えました。

そこで私が見出した打開策は「アメリカへ行くこと」。会社を説得し、辞めることなくアメリカでベンチャーキャピタル業務に携わるチャンスをつかみました。

当初は英語が話せませんでしたが、問題は全くありませんでした。なぜなら、背後に資金があると相手はこちらの言うことを一生懸命理解しようとしてくれるからです。

5年経って、このまま永住しようとグリーンカードを取得した矢先、会社から帰国命令が出ました。お世話になった方が説得のためにわざわざアメリカまで来てくださり、泣く泣く日本に帰ってきたというわけです。

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50代で会社を設立。人とのつながりに、大いに助けられた

山一證券を退職後、会社を設立されていますが、起業を決意したきっかけは何でしょうか?

山一證券が破綻した時点で、私は54歳でした。日本中の企業(?)から「うちに来ないか」というオファーをいただきました。非常に魅力的な話が多かったのですが、一つの言葉が私に大きな影響を与えました。

それは、「西澤さん、もう54歳なんだから、サラリーマン生活を終わらせて自分で会社を作ったらどうだ」という、尊敬する友人からのアドバイス。この一言によって、私の経営者としての人生が始まったのです。

―起業に至るまでは、どのような準備をされましたか?

最も大きな課題はやはり資金調達でした。起業するためには資本金として1000万円が必要でしたが、当時の私は家のローンを完済したばかりで、貯金がなかったのです。

しかし、友人が助けてくれて無事会社設立ができました。

また、意外な方からサポートしていただきました。その方はある講演会でお会いした講師の先生なのですが、講演の内容にとても感動し、その先生に「これからも教えてほしい」とお願いしたのです。その3ヶ月後、山一證券が破綻。改めてその先生に「起業をしたいけれど、資金がありません」と相談すると、「毎月20万円ずつ出してあげるよ」と助けていただきました。このような形で支援してくれる人たちが現れ、最終的に年収は2500万円を超えるほどになったのです。

設立した会社は「日本S&T」と名付けました。名前の由来をよく聞かれます。「S&T」は「Strategy(戦略)」と「Tactics(戦術)」の略です。経営コンサルタントとして戦略と戦術が重要だと考え、この名前にしたのが一つの理由です。

しかし、交流があった大学の先生方に紹介する際には「Science(科学)」と「Technology(技術)」の略だとも説明していました。

また一番大事な妻には違う説明をしています。妻の名前の「澄子」と私の名前の「民夫」の頭文字をとって「S」と「T」。妻には、「あなたの会社だぞ」と言っています。笑

―起業前には不安などはございましたでしょうか?またその不安はどのように払拭されましたか?

日本では会社が破綻すると、職を失った人が社会的に信用されなくなる傾向があります。江戸時代の浪人のような見方をされてしまうのです。

その不安を少しでも解消するため、私はロータリークラブに入会しました。社会的な信用を得ることができると考えたのです。

このロータリークラブ、日本の中小企業の社長たちも多く入会しており、ビジネスシーンでの信頼感が格段に違いました。バッジを付けているだけで、エレベーターで知らない人から声をかけられるくらいです。

私にとって、ロータリークラブは「ゲートウェイ・トゥー・ザ・ワールド(世界への入口)」。日本だけでなく世界中の人々ともつながることができましたし、NPO法人の理事長など多くの役割も担うようになりました。

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企業を応援する立場で、生涯現役を貫く

―現任されているお仕事でも10件以上ございます。80代になっても現役でご活躍されている秘訣は何でしょうか?

まだ元気に働けているのはお陰様で少しだけ人並み以上の体力があるからかもしれません。

しかし、今後も健康を維持し、働き続けるために、昨年10月から合気道を始めました。私は「人生100年時代」ではなく、「人生120年時代」が来ると考えています。

実際、スタンフォード大学の教授と話していたときに、「これからの時代、人の寿命は120歳になる可能性がある」と聞いたのです。アメリカで製造される膝関節や股関節などの人工関節も、今では120歳までもつように設計されているのだといいます。

この話を聞いてから私は、「自分もあと40年は生きるかもしれない」と真剣に考えるようになり、長く健康でいるためには、体を動かし、元気でい続けることが必要です。

―引退をお考えになられたことはありますか?

一度もありませんね。両親の影響が大きいかもしれません。晩年まで生き生きと社会に関わる姿を見ていましたから。

私の父は、武田製薬や帝人で働いていました。その後、歯科大学の設立にも関わり、77歳まで大学の教養学部の責任者を務めました。98歳で亡くなる直前まで元気で、環境問題の科学者として地域や社会に貢献していたんです。

母は高齢になってから薬剤師の資格を活かして働き始めました。地域の人々から愛され、89歳で亡くなる半年前まで現役でした。

―現在、お仕事において大切にしていることは何でしょうか?

「押し売りしない経営コンサルタント」を目指しています。以前は、こちらから「あなたにはこういう問題があるから、私がそれを解決してあげますよ」という形でアプローチしていました。

しかし、今は押し付けるのではなく、自分の経験やできることを共有することで、相手自身が「この人なら私の問題を解決できるかもしれない」と感じてもらうことを大事にしています。

実際、そういった方法で、役職のオファーや顧問の依頼が来ることが多いのです。

私がもう一つ大切にしているのは、相手を励ますことです。特に、事業を始めようとしている人や、課題に直面している人には、反対や否定をするのではなく、まず取り組みを励ますようにしています。

もちろん、本当に間違った方向に進んでいる場合はその旨を伝えますが、基本的にはポジティブにサポートする姿勢を貫いています。

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めざすは「一兆ドルコーチ」

―今後の仕事において目標や夢などはございますでしょうか?  

今まで経営コンサルタントとして数多くの企業を支援してきましたが、年齢を重ねていく中で「経営コーチ」をめざしたいと思うようになりました。

現在、私は80代ですが、将来的に90代やそれ以上になった時に、最新の技術や情報を取り入れてコンサルティングを行うのは少し難しくなるのではないかと考えています。例えば、今なら量子コンピュータや光コンピュータなどの最新技術について話せますが、90歳以降になっても同じように新しい技術を追い続けるのは現実的に難しいかもしれません。

一方経営コーチなら、経営者やビジネスリーダーに対して、経験をもとにしたアドバイスやサポートを提供し、会社のビジョンを一緒に描いていくという形で、長く活動を続けることができるでしょう。

発想の転換のきっかけとなったのは、古本屋で見つけた「1兆ドルコーチ」という本です。あるコーチが応援した企業の時価総額が合計で1兆ドル(約142兆円)を超えたという記述がありました。私も、これまで支援してきた企業の総額は1兆円を超えているはずです。それなら、自分も95歳ぐらいまで経営コーチをやり、ちょっと大変ですが、成長していく会社を応援していこうと考えています。

―プライベートでやってみたいことなどはございますか?

実は、95歳を過ぎたら、駅に設置されていて誰でも自由に弾ける「駅ピアノ」を弾いてみたいという夢があるのです。世界中の駅を巡りながらピアノを弾き、人々に感動を与えられたら素敵だなと考えています。

ただ、現時点ではピアノはまだ弾けないんです(笑)。夢の実現は、ゆっくりと進めていこうと思っています。

―50、60歳で今後のキャリアについて悩む方も多く、中には引退を考える人もいます。50、60代は今後どのようなキャリアを構築するべきでしょうか。

自分の強みやスキルを積極的に発信し、社外での交流を広めることが大切です。自分では「大したことがない」と感じるスキルでも、それを他者に知らしめておけば、誰かが自分を見つけてくれるもの。

SNSなどを活用して、社会との交流を増やし、自己発信をして欲しいと思います。私はFacebookを使っていますよ。

また、私自身多くの専門家を頼ってきましたが、専門家は自分ができることに相手を誘導しようとしてしまうのは専門家が陥りがちなこと。それよりも、相手のニーズを優先し、自分の得意分野に固執せず、最適な解決策を一緒に考え出することが信頼を生むポイントです。

最初から報酬やコストパフォーマンスを気にせず、相手が喜ぶかどうかを基準に行動すれば、自然と面白い仕事や新たな機会が増えていきます。

さらに、長期的な視点を持つことも大切です。小さなことでも嫌がらずに続けることで、最終的には大きな成果へと繋がります。わらしべ長者のように、少しずつ成長していけば良いのです。

先ほど説明したように人生120年になる可能性があることを考えると、50、60歳は社会人人生の終わりではなく、むしろこれからなのです。60-70歳で終わりと考えるのではなく、120歳まで生きることを前提にキャリアプランを練り直すことで、日々の生活を充実させて欲しいと思っています。

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