早期退職後の挑戦。59歳で独立し、120社と契約できた理由とは

定年を控えた50、60代の方の中には「独立・起業を考えている」という方もいるでしょう。しかし、「独立して成功するためには何が必要なのか」「どのような準備をすればいいのか」と不安を感じる方も少なくありません。

今回は、キヤノン販売株式会社(現キヤノンマーケティングジャパン株式会社)を55歳で早期退職後、転職を経て59歳で独立し、現在は累計120社以上のコンサルティングを手がける小野さんにお話を伺いました。

「独立を考えるなら、50代前半のうちから覚悟と準備を」と話す小野さん。シニアの独立・起業を成功させるためのポイントを教えていただきました。

小野隆士さん
キヤノン販売株式会社(現キヤノンマーケティングジャパン株式会社)に中途入社し、コピー機の飛込み営業で実績を上げキャリアをスタート。40歳過ぎに映像事務機の企画センター長、50歳前には医療機器事業本部長を務める。55歳で早期退職し、医療機器分野の企業へ転職。その後、59歳で独立し、2014年に合同会社オフィスTを設立。現在は120社以上のコンサルティングを手がけ、シニアの独立・起業支援にも注力している。

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「65歳までの10年をどう働くか?」50代で迎えた転機

ーこれまでのご経歴について教えてください。

私はキヤノン販売株式会社(現キヤノンマーケティングジャパン株式会社)に中途入社し、コピー機の飛込み営業で実績を上げ事務機の販売推進から始まり、40歳過ぎに映像事務機の企画センター長を務めるなど、キャリアを重ねてきました。50歳前に医療機器事業の本部長に抜擢され、眼底カメラや放射線機器など、レンズ技術を活かした医療機器を扱いました。

その後、55歳で早期退職を決意し、医療機器の分野で取引のあったエルコーポレーションに転職。老体に鞭を打って、ドラッグストアや調剤薬局など、50社近くの飛び込み営業を1人で行いました。その結果、2年ほどで20数社と取引口座を開設することができました。

しかし、キヤノンマーケティングジャパンがTOB(株式公開買付け)を行ったため、再びキヤノンに戻りましたが、59歳の2013年12月に退職しました。

翌年2014年12月に合同会社オフィスTを設立し、今年(2025年)で設立10年を迎えました。この10年間で累計約120社の企業を担当してきました。

ー55歳で早期退職したのですね。動機は何だったのでしょうか。

3年後に事務機のITソリューション本部長に戻ることになったのです。そのときに「自分は医療機器関係の仕事がしたい」と強く考えるようになりました。

55歳のときに「あと10年、65歳まで気持ちよく働くにはどうするか?」を真剣に考えた結果、早期退職を選択肢として考えるようになりました。

長年お世話になった会社ですが、一度覚悟を決めて決断しなければ、何も変わらないと考えました。

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53歳の時に独立を決意。「市場価値は年収の半分」ヘッドハンターの言葉も後押しに

ー独立を考え始めたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。

53歳ごろから「今後どうしていこうか」と、自分のキャリアについて考え始め、行動していました。実は、55歳から65歳までの10年間は次のステップに進みたいという想いがあり、キヤノンを辞める選択肢も視野に入れていたのです。

当時、ヘッドハンティング会社が流行しており、その会社の常務に直接相談しました。

ところが、「キヤノンの本部長職で、高い報酬も名誉もあるのに、何が不満なんだ」と怒られてしまいました。さらに「小野さんの市場価値は、現在の年収1,500万の半分、750〜800万円ほどです」とも言われ、正直ムカッとしましたが「社内での評価と市場での価値は違うのか」と気づかされました。

こうした出来事もあり、いずれは独立してコンサルティング会社を立ち上げたいと考えるようになったのです。

ー独立は勇気がいると思うのですが、なぜ決意できたのでしょうか。

一番大事なのは「時期が来たらタイミングを逃さず覚悟を持って決断すること」だと考えていたからです。

どれだけ準備をしても、最後は覚悟を決めて一歩踏み出さなければ、ずっと同じ状態が続いてしまう。すると、60歳の再雇用を迎え、給料が3分の1に減る可能性もあるかもしれません。

とはいえ、本部長という役職を途中で投げ出すわけにはいかず、役職定年が近づく内示のタイミングを見計らっていました。

ーその後、独立に向けてどのように準備を進めていったのですか?

53歳から55歳にかけて、独立の決意を固めていきました。具体的には、次の内示のタイミングで「転職して退職します」と言えるかどうか、そこまで覚悟を決めていたのです。

キヤノンという恵まれた環境を一旦リセットし、800万円ほどの年収になっても構わない、と腹をくくりました。

そこから新たな道が開け、「コンサルティングで独立する」という大きなプランを描きました。

結局、55歳で内示があったときがちょうど良いタイミングだったので早期退職を決断し、医療機器関連の仕事を続けるために、一度転職したのです。

会社員が独立を目指すなら、まず覚悟を決めることが何より大切だと思います。

ー決断するにあたって迷いや不安はありましたか?

覚悟を決めていたので、独立そのものに対する迷いや不安はありませんでした。ただ、いざ独立すると、次の日からふっと仕事がなくなるわけですよね。

そこで、エージェントの顧問名鑑やサーキュレーションなどに登録して、「オファーが来るのかな」「ドラッグストアと調剤薬局の人脈もあるし、何か案件が来るかな」と考えていました。

ちょうどその頃は、顧問業の草分け的な時期で、スタートしたばかりだったのですが、意外にも早く1件目の顧問業務が舞い込んできました。

そのため、仕事が来ない状態で半年過ごすことはなかったです。実を言うと、キヤノンにいた時期から、すでにオファーはかかっていたのですけどね。

そういう意味では、独立スタート時には「なんとかやっていけるのかな」と感じていました。

ーご家族や周囲からの反応はいかがでしたか?

私は自由人なので、周りの意見にはあまり耳を傾けません。そのため、家族からは「体に気を付けて頑張ってね」という言葉をかけてもらい、見守ってくれていました。

ー独立前の準備として、事業内容はどのように決められたのでしょうか。

事業内容はコンサルティング業、つまり顧問業で、創業時に「元気を届け、元気をもらう」というスローガンを掲げました。

事業目標としては、大きく3つを掲げてスタートしました。

1つ目は、お世話になっている業界、特に「ドラッグストアと調剤薬局のお役に立つこと」。2つ目は「中小企業を中心とした活性化に貢献すること」。そして3つ目が「新しいシニアの働き方、独立を含めた啓蒙活動を行うこと」で、私の事業を通してお役に立ちたいという想いから掲げました。

この3つの事業目標を軸に、コンサルティング業をスタートさせたのです。

ーこの10年間で120社以上の顧問先を担当されたそうですが、独立後、新規顧客の開拓はどのようにされたのでしょうか?

新規顧問先の開拓にあたっては、顧問エージェントに登録して、オファーが来るのを待つという形でしたね。取引先の9割がエージェント経由で、それ以外の方法は特に取っていません。

主要な顧問エージェントには登録し、現在は5〜6社に登録しています。BEYOND AGEさんもその1社です。

ー顧問エージェントに登録後、月に何件ぐらいスカウトがきて、成約に至るのでしょうか。

私の経験だと、2〜3件の面談を経て、1件ほどの割合で実際の契約に至るという感じでしたね。

自分の専門分野や強みをアピールして、顧問エージェントに登録します。私の場合は、ドラッグストアや調剤薬局での人脈を付加価値にしていました。

すると、エージェント側から「化粧品をドラッグストアに置きたい」とか「店舗の清掃を請け負いたい」といった依頼が来るのです。興味のある案件であれば、エージェントが間に入って、依頼主との面談の場を設定してくれます。

ー最初に顧問先が決まったときの心境を教えてください。

提示されたフィーが思った以上に高く、正直、嬉しさよりも驚きのほうが大きかったですね。

会社員時代とはまったく桁の違う金額に、「これは本当に頑張らないと」という気持ちになりましたね。プレッシャーというよりは、むしろ気合いが入った瞬間でした。

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密なコミュニケーションで信頼を築き、長期契約を実現

ー独立後、最初に直面した壁や課題はありましたか?

独立後、特に大きな壁はありませんでしたが、1つの課題として、顧問業がまだ世の中に浸透していないことを感じました。

新規契約時に、顧問の役割や立ち位置への理解が低いことがありました。例えば、営業支援はすぐに結果が出るものではありませんが、クライアント側は早期の成果を求めることもあります。

エージェントを含めて、顧問業務の立ち位置がまだ確立されていなかったので、そこに少し難しさを感じましたね。

ー顧問業の認識のズレから、契約が途中で打ち切られるようなこともあったのでしょうか?

今はほとんどありませんが、以前は2〜3ヶ月で契約解除のケースがごく一部ありました。通常は1年ほどの契約を結んだり、IT系のベンチャー企業であれば3ヶ月単位で更新していったりするなど、スムーズに進むことが多いですね。

営業支援の案件だと、契約期間は平均4〜5ヶ月ほどという話も聞きますが、私の場合はおかげさまで1年以上お付き合いいただいております。

―顧客と長くお付き合いいただけるための秘訣は何だと思いますか?

密なコミュニケーションを取ることだと思います。

クライアントはもちろん、クライアントを紹介してくださる顧問先ともタイムリーに情報共有しながら進めていくことが重要ですね。

たった1〜2ヶ月では成果は出ませんが、半年ほど経てば大体成果が見えてきます。成果が見えてきたら、また次の案件につなげ、回していくのです。その過程で、お互いに良い形で事例やノウハウも蓄積されていきます。

おかげさまで順調だったので、不安や孤独感はありませんでしたが、独立した約4年後に副代表を迎え入れ、事業の幅を広げていく体制も整えました。

ー副代表の方とはどのような経緯で出会われたのですか?

副代表は、キヤノン時代に私が全国展開していた医療機器事業の部下の知人です。6年前からパートナーとして活躍してくれています。

ドラッグストアや調剤薬局で化粧品やサプリメントの店頭展開を進めるにあたり、知見が必要でしたが、私自身は詳しくありません。一方で、副代表の彼女は知見を持っていましたし、ドラッグストアの主婦層の真ん中に年齢的にもいます。そのため、オファーが来た商品について「この商品は下り坂だ」や「この商品はこれから付加価値が高い」など、的確なアドバイスをしてくれるのです。

独立して4年間は1人で進めていたので、いつでも事業を閉めることができると考えて

いました。でも、副代表がいることでより責任が生まれるのです。一緒に考えながら事業を進めていくのは、面白くもあり、やりがいも感じています。

もともと独立を決意したとき、キヤノンを辞めてから10年は事業に取り組もうと決めていましたが、副代表と出会っていなかったら、ひょっとすると65歳前後で事業を畳んでいたかもしれません。

―大きな転機ですね。ちなみに、独立後に1番大変だったことはありましたか。

独立してから事業は順調に伸びていたのですが、2020年だけは特殊な年で、売上が落ち込んでしまったのです。前年の3分の2の売上予想になるほど落ち込みました。

あのときは「これから先、簡単ではなくなるのかもしれない」と思いました。

ただ、そこから持ち直して、直近4年連続順調に黒字、対前年売上増を維持しています。結果的には、落ち込みは半年ほどで、一時的なものでした。

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独立から10年。変化に適応し続け、120社以上の企業を支援

―独立後10年が経過していますが、顧問先が120社を超えるまでに成長した秘訣は何だと思いますか。

世の中は常に変化しているため、自分もその変化に合わせて行動し、変わることが重要だと思っています。だからこそ、節目で事業の幅を広げたり、深めたりする行動を意識してきました。

例えば、エージェントとのミーティングを重ねて、顧問業界全体の方向性を議論したり、積極的に社外に出て人とのつながりを作ったりしています。

また、5周年や10周年という節目には、顧問先を集めた謝恩会を開催しています。お世話になった方々への感謝の気持ちを伝えるとともに、今後の関係性を深めるための重要な投資でもあるのです。

5周年の開催時では、顧問先だけでなく、ドラッグストアや調剤薬局の経営陣にも来てもらい、約100名が集まりました。「小野さんはこういう人脈を持っているのだ」と知ってもらう機会にもなったのです。

こうした地道な活動も、結果として顧問先からの信頼や応援につながっていると感じています。 

―独立後、仕事を継続的にいただく上で大切なことは何だと思いますか。

一番大切なのは顧問先の選定ですね。顧問先の付加価値や信頼が、そのままオフィスTの価値にもつながっていくので、どの企業とお付き合いするかは大切にしています。

また、コミュニケーションも重要です。例えば、顧問先からの紹介で新規の商談が入ったとします。商談に同行し、その後は見積もりを出したり細かな調整をしたりと、多くのやり取りが発生します。ときには私がクロージングまで行うこともあります。

そして、こうしたやり取りの中で、見積もりをもらったら必ずお礼を言う。さらに、契約が決まればまたお礼を伝える。そういう小さなコミュニケーションの積み重ねが、関係が続く秘訣なのだと思います。

普通の会社員の営業なら、10年間同じ顧客を担当し続けることって、部署異動などもあり、あまりないですよね。でも、私は10年間ずっと同じ顧客、キーマンの方々と関わり続けているので、3ヶ月後に電話しても「小野さん、久しぶり」って言ってもらえるのです。

こうしたやり取りは、日頃のコミュニケーションの積み重ねがあるからこそだと思っています。

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「引退」はない。可能性は自分で高め、健康である限り挑戦し続ける

―今後何歳まで働きたいとか、目標はありますか?

独立して10年が経ち、65歳も過ぎました。体が元気で動ける限りは仕事を続けたいと思っています。

以前は「65歳まで」とか「10年を一区切りに」といった目標がありましたが、明確な期限は考えていません。「元気で人のお役に立てるうちは頑張る」というスタンスですね。

―最後に小野さんから、シニアで独立を目指す方々にメッセージをお願いします。

シニアの方々は、これまでの経験で多くの可能性を秘めているのです。

再雇用になって給料が下がる道を選ぶか、「いや、そうじゃないぞ」と自分の可能性を高めてチャレンジしたい方は、50代前半頃に覚悟を決めて、時期がきたら決断できるようにすると良いでしょう。できれば、そのための準備もしておくとなお良いですね。

よく「定年後に第二の人生が始まる」と言われますが、私は幻想だと思っています。そもそも、人生が2つあるわけではなく、自分の人生は1つしかありません。この1つを大事にしてほしいと思うのです。

「引退」なんてないのですよ。残念ながら健康寿命がきて働けなくなったときに、その仕事ができなくなる、というだけの話です。それまでは、自分の可能性を自由に決めていけばいいと思います。

ただ、よく言われる「これまでの経験と実績を活かして」には注意が必要です。経験と実績だけでこれから食べていくのは難しい。むしろ、新しい経験と実績を積み、新しい付加価値を提供していくくらいの気概がないと、独立は厳しいでしょう。

ぜひ、これから自分の可能性を信じて、進んでほしいと思います。

 

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