年金のポータビリティ完全ガイド|転職・退職後の不安を解消する仕組みを徹底解説

近年は終身雇用にとらわれず、キャリアの途中で転職をするなど、柔軟な働き方をする人が増えてきました。その社会の変化に合わせて、積み立ててきた年金資産を転職先に持ち運べる「年金のポータビリティ制度」の整備が進んでいます。

年金のポータビリティ制度を使うと、今まで積み立てた年金資産を非課税で転職先に移換でき、老後のために継続して資産形成を行えるというメリットがあります。

しかし、ポータビリティ制度の仕組みを把握せずに転職してしまうと、年金の運用に空白期間が生まれてしまったり、思わぬ損失が出てしまうことがあるため注意が必要です。

この記事では、年金のポータビリティ制度の対象となる年金制度の種類や移換の方法、注意点まで詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

この記事の執筆者
伊藤久実

伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆。

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年金のポータビリティとは?

年金のポータビリティとは、転職や退職などで職場が変わった際に、それまで積み立ててきた年金資産(場合によっては脱退一時金)を受け取らずに、そのまま新しい勤務先の制度(企業型DCやiDeCo、企業年金連合会など)に持ち運べる制度のことをいいます。

年金資産を移動することで、空白期間を作らずに継続して運用できます。また、非課税で持ち運べるため、課税されて年金資産が減ることもありません。

今までは、「一企業に定年まで継続して勤める」という働き方が一般的で転職が想定されていなかったため、企業ごとに独立した年金制度が多く、転職時に年金資産を持ち運べないケースが多くありました。

しかし、近年は働き方改革が進み、転職も一般的なものになってきたため、年金のポータビリティ制度の整備が進んできたという経緯があります。

転職してキャリアを重ねながら、老後の資金形成を継続し、将来の年金受給額を確保できるこの年金ポータビリティ制度は、非常に重要な制度といえます。

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年金のポータビリティの対象となる年金の種類と特徴

年金のポータビリティ制度の対象となる年金の種類は、大まかに分けて以下の4種類です。それぞれ詳しく解説します。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員のために一定額の掛金を拠出し、その資産を従業員本人が自己責任で運用する制度です。

将来受け取る年金額は、個人それぞれの運用結果によって変動します。転職や退職時には、転職先に企業型DCがあれば、そのまま移換できます。

転職先に企業型DCがない場合は、個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換が可能です。基本的には、企業型DBや通算企業年金には移換できませんが、転職先の企業の規約によっては、移換できるケースもあります。

企業型確定給付年金(企業型DB)

企業型確定給付年金(企業型DB)とは、将来受け取る年金額があらかじめ決まっている制度です。年金資産の運用は企業側が行い、その運用の成果に関わらず、約束された給付が受けられます。

企業型DBは、長期雇用を前提とした制度であり、従業員にとっては安定性が高いことがメリットです。しかし、運用の成果が悪くても従業員に約束した年金を支払わなければならないため、企業側の運用リスクや負担が大きいといえます。

近年は転職が一般的になってきたため、企業型DCと併用されることも増えています。また、企業型DBは、年金のポータビリティの自由度が限られています。

転職先に企業型DBがある場合はスムーズに移換できますが、それ以外では、移換できなかったり、制限があったりするため注意が必要です。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

個人型確定拠出年金は、加入者が自ら掛金を拠出し、運用商品を選んで資産を積み立てていく、私的な年金制度です。

転職や退職に関係なく、自分で継続して積み立てていけるのが大きなメリットです。また、iDeCoは個人事業主やフリーランス、専業主婦、公務員など幅広い人が加入できるため、キャリアの変化にも柔軟に対応できます。

ただし、運用商品を自分で選んで運用するため、運用の成果は本人の選択次第です。運用成果が大きいケースもあれば、見通しよりも資産額が少なくなったり、損失が出る場合もあるため注意が必要です。

iDeCoは60歳まで引き出せないことがデメリットですが、逆に長期的に資産形成をしやすいともいえます。

通算企業年金

通算企業年金とは、企業年金連合会が運営する制度で、確定給付型年金(企業型DBや旧厚生年金基金など)に加入していた人が退職後に資産を移換できます。

そして、受給開始年齢まで資産を保有・運用する仕組みです。転職先に企業型DBに加入しない場合や、年金資産の移換先がない場合に、この通算企業年金が「受け皿」として機能します。

通算企業年金の加入者は、原則として60歳以降に終身または有期で年金を受け取れます。

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年金のポータビリティの仕組み

年金を持ち運べる「ポータビリティ」は働く人々にとって利便性が高い制度ですが、以下のように持ち運べる先は限定されています。

ここでは、「企業型DC」と「企業型DB」、「個人型確定拠出年金」の3つのケースを詳しく解説します。

企業型DCからのポータビリティ

企業型DCから移換できるのは、以下の4つです。

企業型DCからの移換先特徴
企業型確定拠出年金
(企業型DC)
加入資格対象者であれば、転職先の企業型DCに移換できる
個人型確定拠出年金
(iDeCo)
①企業型DCの加入者が「公務員」「自営業者」「専業主婦(夫)」「任意加入被保険者」になる場合
②企業型DCのない会社に転職する場合①②の場合、企業型DCで形成した資産をiDeCoに移換できる
企業型確定給付年金
(企業型DB)
転職先の規約に「企業型DCからの移換を受け入れることができる」と定められていれば、移換できる場合がある(厚生年金基金は対象外)
通算企業年金移換が可能(令和4年5月1日からポータビリティ拡充)

転職先に企業型DCがある場合は、企業型DCにそのまま移換できます。

転職先に企業型DCがない場合や、「公務員」や「自営業者」、「専業主婦(夫)」「任意加入被保険者」になる場合は、企業型DCをiDeCoに移換できます。

確定給付型の企業年金(企業型DB)からのポータビリティ

確定給付型の企業年金(企業型DB)から年金ポータビリティを活用できるのは、以下の4つです。

企業型DBからの移換先特徴
企業型確定拠出年金(企業型DC)加入資格対象者であれば、転職先の企業型DCに移換できる
確定給付型の企業年金(企業型DB)転職先企業の規約に「他社のDBからの移換を受け入れることができる」と定められていれば、移換できる場合がある
個人型確定拠出年金(iDeCo)退職によってDBの一時金を受け取る権利がある場合、一時金として受け取らずiDeCoに資産を移換できる
通算企業年金企業型DBで積み立てた資産を通算企業年金に移換することができる

企業型DBから企業型DC、iDeCo、通算企業年金には、スムーズに移換できます。企業型DBから企業型DBへの移換は、受け入れ先に規定がある場合に可能です。

iDeCoからのポータビリティ

iDeCoからポータビリティできる先は、企業型DCと企業型DBの二つです。

iDeCoからの移換先特徴
企業型確定拠出年金(企業型DC)①iDeCoの加入者であったものが、企業型DCの企業に就職・転職し、加入対象者となる場合②iDeCo加入者の企業で、企業型DCを導入して加入対象者となる場合
①②の場合、iDeCoで形成した資産を移換できます
確定給付型の企業年金
(企業型DB)
転職先の規約に「iDeCoからの移換を受け入れることができる」と定められていれば、移換できる場合がある(厚生年金基金は対象外)

iDeCoの場合、企業型DCにはスムーズに移換できます。企業型DBへ移換したい場合は、移換先の規約に規定が定められている場合に可能です。

また、iDeCoから他の金融機関のiDeCoに変更することもできます。

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年金のポータビリティ制度を利用する手続き

年金のポータビリティ制度を利用して、他の年金制度に移換する場合は、転職や退職のタイミングに応じて、適切な移換手続きを行うことが大切です。

年金のポータビリティ制度を利用する手続きは、以下のとおりです。

  1. 退職時に企業年金制度の説明を受ける
  2. 移換先を決定する
  3. 必要書類を揃えて申請する
  4. 手続き期限を守る
  5. 移換完了の通知を確認する

企業型DCや企業型DBに加入していた場合、退職時に説明があります。この時に、年金資産の受け取り方や移換先を選ぶ必要があります。

移換せず一時金として現金を受け取る場合は、非課税ではなく「退職所得」として課税されます。次に転職先の企業年金制度を確認し、移換できるかどうかを確認しましょう。

その後、移換先から「移換申出書」を入手・記入のうえ、移換手続きをします。

多くの場合、退職後6ヶ月以内に手続きを行う必要があるため、早めに進めることが大切です。期限を過ぎると「自動移換」となり、利息がつかない状態で保管されてしまうため、注意が必要です。

移換が正しく行われると、移換完了通知が届きますので、内容をしっかり確認するようにしましょう。

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年金のポータビリティの注意点

年金のポータビリティ(持ち運び)では、いくつか注意点がありますので紹介します。

運用していた金融商品は一旦現金化される

年金のポータビリティを利用して年金資産を移換する際は、運用商品はいったん現金化されます。そして、移換先で新たに運用商品を購入することになります。

運用商品によっては、現金化や再購入する際にコストが発生する場合があるため、確認しておくようにしましょう。

一定期間移換手続きをしないと自動移換されてしまう

退職後(資格喪失後)、ポータビリティを利用せずに6ヶ月ほど経過してしまうと、年金資産は「国民年金基金連合会」へ自動的に資産が移換されます。

これを「自動移換」といい、自動移換されると以下のようなデメリットがあるため、注意が必要です。

  • 資産が現金化され、無利息で保管される
  • 確定拠出年金の通算加入者期間に通算されない
  • 毎月の管理手数料が差し引かれる

60歳からの受給には、通算加入者期間が10年以上必要のため、加入者期間が通算されないと受給開始期間が後ろ倒しになる可能性があります。

通算加入期間が短いと不利になるため、自動移換されないように注意しましょう。

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年金のポータビリティでよくある質問

ここでは、年金のポータビリティについて、よくある質問を紹介します。

転職先に企業年金制度がない場合、年金資産はどうなりますか?

転職先に企業型DCや企業型DBがない場合でも、心配することはありません。年金資産は、個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換できます。

iDeCoは個人が加入・管理できる制度のため、転職や退職をしても継続的に運用できることがメリットとなっています。

企業型DBから企業型DCに移換することはできますか?

企業型DBから企業型DCへの移換は、転職先に企業型DC制度があり、その企業の規約で、「外部からの資産移換を受け入れる」等と定められている場合に限り、移換が可能です。

一方で、企業型DCがない場合は、iDeCoや通算企業年金へ移換できます。

自動移換されてしまった年金資産は、後から取り戻すことはできますか?

自動移換されてしまった年金資産を、iDeCoに移換することは可能です。

また、転職先の企業型DCが自動移換資産の受入れを許可している場合は、移換が可能となります。

移換する場合は「加入・移換申請書」をすみやかに提出するようにしましょう。

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まとめ

転職や退職が一般的になっている今の時代において、年金のポータビリティ制度は、老後の資産形成を途切れさせないための重要な仕組みです。

企業型DC・DB、iDeCo、通算企業年金といった各制度の特徴と移換ルールを理解しておくことで、不安なく転職や退職ができますし、機会損失を防ぐことができます。

特に、退職後に何も手続きをしないままでいると「自動移換」となり、資産が減るリスクもあるため、早めの移換対応が重要です。

ご自身のキャリアの変化に合わせて年金資産を賢く管理し、老後の安心につなげていきましょう。

 

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