50代は今後のキャリアだけでなく、老後資金についても悩み始める時期です。特に、これまで十分な貯蓄ができなかった人は、さまざまな要素を考慮してキャリアを決める必要があります。
今回は、4回の転職を経験し、現在は人事部門で従業員のモチベーションアップやスキル育成に取り組むAさんに、老後資金やキャリア形成について詳しく伺いました。
新卒で日本企業に入社後、5年5ヶ月で退職。その後海外でライターとして活動し、帰国後は日本企業に再就職。転職を4回経験し、現在は人事部門で社員のモチベーション向上や、海外のグループ会社の人材育成に携わっている。
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1. 現在の仕事とキャリアについて

ーこれまでのご経歴を教えてください。
新卒入社した会社で約5年5ヶ月働いた後に退職し、8年ほど海外でフリーライターとして活動していました。その後日本に戻って就職し、数回の転職を経て、現在は人事部門の仕事をしています。何度か転職しており、今の会社は4社目です。
勤務している会社では65歳定年ですが、60歳以降は給与が減るため、皆やる気を失ってしまいます。そのような中、シニア社員がやる気を失わず、モチベーションを上げるような施策を考える業務に取り組んでいます。
ただ、そのような仕事を担当しているものの、60歳以降に直面する現実を目の当たりにしているので、自分自身は「60歳以降は会社に残りたくない」という気持ちがあります。
―海外では、どのようなことをされていたのですか?
海外では、フリーライターとして各地を巡りながら記事を書いていました。
私は小さいころは海外で育ったので、いずれ日本ではなく海外に住みたいという考えがありました。
そのため、若いうちに各国を体験しておこうと、新卒入社した会社を退職を決意し、海外のさまざまな場所をめぐりながらフリーライターとして原稿を書いていました。
その後、結婚して子どもが生まれ、「今後はお金がかかるし、安定した仕事を見つける必要がある」と思い、帰国して日本企業に再就職しました。
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2. 老後資金とリタイアメントへの不安

―60歳までに退職されたいとのことですが、早期退職を検討されているのですか?
所属する会社は定年が65歳ですが、早期退職制度があり、60歳までに辞めると一時金がもらえるので、その制度を利用して、海外移住に挑戦したいと考えていました。
現在53歳ですが、早期退職制度を利用するなら、55歳か56歳頃までには辞めたいと思っています。ただ、一時金の額はそれほど多くありません。おそらく、年収1年分くらいです。
このような状態で55、6歳で辞めると、経済的に厳しくなるのではという不安があります。
また、収入や年齢に加えて、家族の事情もあります。
先ほどお話ししたように早期退職後すぐに海外に行き、新たな挑戦をしたいと考えていました。
しかし、母が老人ホームに入居したため、計画を変更せざるを得ない状況になっています。
また、老人ホームの費用は10年入居すると持ち出しが約2,000万円くらいになることがわかり、想像以上に金銭的負担がかかることを実感しました。
母の場合は、父が早くに亡くなったため、二人分用意していた老後資金を使って老人ホームに入れました。しかし、自分達はそこまでの貯蓄はないため、今の経済状況では、母のように老人ホームに入ることは難しいと思います。
我々夫婦も、子どもにはなるべく迷惑をかけたくないという気持ちがあります。
老後にお金がかかる現実を見て「老後のための貯蓄をしっかりしておかないといけない」という考えになり、早期退職するかどうか迷いが生じています。
―他に、早期退職を迷っている理由はあるのでしょうか?
早期退職を迷っているもう一つの理由が、会社の制度変更です。今までは60歳以降は給与が減らされていたのですが、これからは65歳まで給与が変わらない、給与を減らさないという方針でいくようです。
今までは60歳までに早期退職して、一時金をもらって辞めるという計画でしたが、65歳まで給料が減らないとなると、金銭的な面を考えて「残ったほうが良いのかな」と悩んでいるところです。
―60歳以降も給与が減らないという企業は増えているのでしょうか?
はい、給与を減らさない会社が増えていると思います。以前は60歳以降の再雇用では、今までとは別の仕事を割り当てられるケースが多くなっていました。
しかし今は人手不足で、同じ仕事をそのまま65歳までやる、というケースが増えたんですね。皆さん60歳を越えた後も、第一線で同じ仕事を継続されています。
今は「同一労働、同一賃金」という考え方なので、「60歳以降も今までと同じ仕事をしているのに、給与が減ってしまう」という矛盾を是正しようとする流れがあります。
このような流れで65歳まで給与が下がらないとなれば、早期退職するべきかどうか、かなり迷います。
早期退職して海外に行きたいという希望はあるのですが、過去の経験上、お金が減ってくると不安になり、いろいろなことが楽しめなくなってくるんです。
そのようなことを踏まえると、ある程度安定した収入をキープしつつ海外に行く方法や、日本で働きつつ、旅行として海外に行く方法を検討したほうが良いのではと考えています。
ー他に老後の出費についての不安はありますか?
老後も今の家に住み続けられるのか、リフォームが必要なのかという不安もあります。また、持ち家ではありますが3階建てなので、老後は階段を登れるのか、もしかして住み替えが必要なのではないかと考えることもあります。
もし家を売ってマンションを買うとなると、手数料だけでも数百万円かかるため、やはり大きな負担になります。
もう一つは、健康面ですね。もしも大きな病気をしたら、大きなお金がかかるだろうという不安もあります。
―老後2,000万円が必要と言われていますが、計画的に貯蓄できていますか?
7年くらい前から、計画的に貯蓄を始めています。細かい帳簿をつけると疲れてしまうので、月末に残っている貯蓄残高をエクセルに入力し、大まかな資産額を把握するようにしています。
年間の貯蓄額がわかるので、60歳までに貯まるであろう額もだいたいわかります。
ただ、夫婦それぞれが老人ホームに入れるような額を貯めるのは、かなり大変かなと思います。
老人ホームの価格にも雲泥の差があって、主に立地によって価格が大きく変わるんですね。
ものすごく郊外の、山の中にあるような老人ホームであれば入れるかもしれませんが、その場合はいつも通っている病院に行けなくなるといったデメリットを受け入れる必要があります。
ーもしご家族が郊外や別の県で老人ホームに入る場合、仕事にどのような影響が出てきますか?
今は都内にある母の老人ホームの近くに住んでいるのですが、手続き関係であったり「母が言うことを聞いてくれないので、ちょっと来てくれませんか」というように、頻繁に老人ホームに呼ばれるんですね。
もし、夫婦どちらかが郊外の老人ホームに入るとしても、呼び出しがかかることなどを考えると、誰かが老人ホームの近くに住む必要があると考えています。
仮に転職するとなった場合も、郊外の老人ホームの近くに住むという条件がある場合、選択肢は限られると思います。ただ、介護離職だけは絶対したくないと思っています。
ー介護離職をしたくない理由は何でしょうか?
介護離職すると、そこでキャリアが終わってしまうからです。
介護が理由で離職して、その後に郊外で再び仕事を見つけようとしても、今まで自分がやってきた経験を活かせる仕事があるとは限りません。
もし郊外に引っ越したとしても、介護離職せずに今の会社で働き続けたいと思います。
ーお金の問題やキャリアについて、ご家族やご友人に相談はされるのですか?
家庭のお金はすべて自分が管理していますが、貯蓄額についてはきちんと妻と情報共有しています。
また、会社の福利厚生の一環で、ファイナンシャルプランナーの方に相談できるサービスがあるので、老後の資産作りについてアドバイスをもらっています。
ー老人ホームでどれくらいお金が必要かなど、情報はどのように調べましたか?
老人ホーム探しでは、老人ホームに特化したポータルサイトを利用しました。地域の老人ホームを網羅しているので、金額や受けられるサービス、相場などをまとめて調べられるので助かりました。
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3. キャリアの選択肢:再雇用か新たな挑戦か

ー早期退職と再雇用以外の選択肢として、転職は検討されていますか?
私は人事をしているので50代の転職事情がよくわかるのですが、50代の転職では結果がより強く求められます。
そのプレッシャーを考えると、転職はもうしないつもりです。
私たちの会社でも、50代の人がそれなりのポジションで転職してきますが、入社後うまくいく人は半分ほどです。
若い人が転職してきた場合は、言われたことをがんばってやれば良いのですが、50代ではそうはいきません。ある程度結果を出さないといけないんですね。
例えば、50代の人は「このような方策で会社のマーケティングを変えます」というように、会社を良い方向に変えられるとアピールして転職してきますが、最初の1年で結果が出なければ厳しい評価を受けることになります。
結果を出せなくても残る人もいますが、その一方で「全然結果が出せないので辞めます」と潔く辞める人もいます。このように、50代の転職はサバイバル的な面があるので、自分はここまで頑張れないなと感じています。
ーそれでは、定年の65歳まで働き続ける予定でしょうか?
早期退職の一時金の制度がどのように変わるかによります。60歳くらいで辞めるかもしれないですし、もう少し早く辞めて、今までのキャリアを活かす道も考えようと思っています。
今の会社では、得意な英語を活かして、社内にいる外国籍の労働者の環境整備などを行っています。
また、30社ほどある海外のグループ会社の社員のスキルアップを行ったり、オンラインのラーニングプラットフォームを立ち上げたりしています。また、オンライン上で集合して研究を行うということもしています。
―このような人事領域の育成部門は、副業でもニーズがありそうな領域ですね。
はい。このような経験を生かせるような仕事があれば良いなと思います。
海外人材の分野はまだ3年目で、今後も学ぶことが多いと思います。
さまざまな知識や経験を積んでから、将来につなげられれば良いなと思っています。
ー振り返って、老後資金のためにやっておけば良かったということはありますか?
若い時は比較的お金に無頓着でしたが、結婚して子どもができて、家を買うタイミングあたりでお金のことを意識しはじめました。
特に、子どもの進学では予想以上にお金がかかります。
40歳前後からは資金計画について、真剣に考え、取り組むべきだと考えています。
特に、iDeCoやNISAを始めとして投資については、もっと早くやっておけば良かったと思いますね。
―これから将来に向けて、取り組もうと思われている資金計画や準備はありますか?
ずっと会社の持ち株制度を利用していて、まとまった自社株を保有していましたが、それを半分くらい売却したところです。金を買いたいと思っているのですが、最高値を更新しているので、買うタイミングがわからずまだ買えていません。
ただ、昔、不動産投資で失敗したことがあるので、不動産だけはやらないと決めています。
ー最後に、50代以降で老後資金に悩んでいる方についてアドバイスいただけますか。
50代は、今から老後に向けて貯蓄しないと間に合わない、最後の10年だと思います。
私は40代から少しずつ始めましたが、もしも50代から老後資金を貯める場合は、60歳まで必死に、全力を注いで資産形成をしてください!