在職老齢年金制度とは、60歳以上の人が働きながら老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給する際、給与と老齢厚生年金の合計額が一定の基準を超えると、老齢厚生年金が一部もしくは全部が停止される制度のことをいいます。
在職老齢年金の支給停止基準額とは、その「基準となる金額」のことで、2025年度は51万円に変更され、2026年度以降も上がる予定です。
支給停止基準額を超えると働き損になってしまうこともあるため、在職老齢年金の基準額変更については、毎年きちんと把握しておく必要があります。
この記事では、2025年度の在職老齢年金の支給停止基準額の変更や、今後の基準額の見通しなどについて、詳しく解説します。

伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆。
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在職老齢年金制度とは?

在職老齢年金制度とは、働きながら年金を受給する人の所得調整をするための制度です。
具体的には、企業等で働いて給与所得を得ている人の「収入(賞与含む)と老齢厚生年金(比例部分)の1ヶ月あたりの合計額」が支給停止基準額を超える場合、超えた額の半分の年金が支給停止になる仕組みです。
年金は、すべての国民が受給できる「老齢基礎年金」と、現役時代の給与や勤続年数によって受給額が決まる「老齢厚生年金(報酬比例部分)」の2種類があり、2ヶ月に1度の年金支給日に、まとめて支給されます。
老齢厚生年金の対象の人は、会社員や公務員などが加入する「厚生年金保険」に加入していた人です。
年金を受給しているシニア層が働いて給与所得を得る場合、老齢厚生年金(報酬比例部分)と給与の合計が一定額を超えると、受け取る年金額が減らされてしまいます。
そのような状況に陥らないためにも、老齢厚生年金(報酬比例部分)を受け取りながら働く場合は「支給停止基準額」を超えないように、意識して働くことが大切です。
この「支給停止基準額」は令和4年4月の改正により「60歳以上65歳未満」も「65歳以上」も同じ額となっています。
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【2025年4月から】在職老齢年金の支給停止基準額が51万円に変更

2025年4月から、在職老齢年金の支給停止基準額が47万円から51万円へ引き上げられました。
これにより、月収と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計が51万円以下であれば、年金を減らされることなく、全額受給できます。
これは、政府が掲げる「70歳まで働ける社会づくり」に向けた一環として、高齢者の就労を後押しする制度改正のひとつです。
「70歳まで働ける社会づくり」とは、高齢者が70歳まで意欲と能力に応じて働けるよう、就業機会を確保するための社会全体の取り組みです。
少子高齢化が進む中で、社会の活力を維持するための重要な政策とされています。
また、高年齢者雇用安定法の改正により、すでに企業には70歳までの就業機会が努力義務として課されていることから、今後も65歳以上で働く人は増えると考えられています。
そのような人達にとって、在職老齢年金の支給停止基準額の変更(引き上げ)はプラスに働くと言えます。
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そもそも在職老齢年金制度の目的とは

在職老齢年金制度の目的は、働いて給与を得ながら老齢厚生年金(報酬比例部分)を受け取る人の所得調整を行うことです。
そして、近年の在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げは、「働き損」を改正して高齢者の就労を促し、社会の人手不足の解消につなげることにあります。
「令和6年版高齢社会白書(全体版) 内閣府」によると、以下のように近年は高齢になっても働く人が増えています。
| 2013年 | 2018年 | 2023年 | |
| 65~69歳の就業率 | 38.7% | 46.6% | 52% |
| 70~74歳の就業率 | 23.3% | 30.2% | 34% |
| 75歳以上の就業率 | 8.2% | 9.8% | 11.4% |
また、年金の受給時期を前倒しすれば、60歳から受給することも可能なため、60歳から年金を受け取りつつ働く人も一定数います。
このように、近年は年金を受け取りながら働くケースが増えているものの、老齢厚生年金(比例部分)と給与所得を合算した額が基準額を超えると年金が減らされるため、「働き控え」が起こっていると考えられます。
在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げは、このような働き控えを減らし、シニア層の就労促進を図ることが目的です。
支給停止基準額は、名目賃金の変動によって毎年4月に改訂されます。2025年度の支給停止基準額は51万円となっており、過去からの変更の推移は以下のとおりです。
| 年度 | 支給停止基準額 |
| 令和4年 | 47万円 |
| 令和5年 | 48万円 |
| 令和6年 | 50万円 |
| 令和7年 | 51万円 |
このように、在職老齢年金の支給停止基準額は年々変更され、上がってきています。
また、社会保障審議会年金部会により、今後については以下の案が検討されています。
- 在職老齢年金の制度の撤廃
- 支給停止基準額を61万円、もしくは71万円に引き上げ
今後は支給停止基準額が大幅に引き上げられたり、在職老齢年金の制度そのものが廃止される可能性もあるため、変更内容をこまめに確認することが大切です。
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在職老齢年金の基準額の計算方法

在職老齢年金の支給額は、「総報酬月額相当額(標準報酬月額+賞与の月割額)」と「老齢厚生年金(比例部分)の1か月分」の合計が基準額を超えた場合に調整されます。
調整される額(減らされる額)の計算式は、以下のとおりです。
調整額={(老齢厚生年金(比例部分)の基本月額 )+(総報酬月額相当額)ー51万円}÷2
たとえば、老齢厚生年金(比例部分)の基本月額が16万円、総報酬月額相当額が50万円、支給停止基準額が51万円の場合は、年金から減らされる金額は(16万円+50万円 – 51万円)÷2 = 7万5,000円となります。
老齢基礎年金の6万円は必ず受給できるため、収入額は「50万円+16万円+6万円ー7万5,000円」となり、64万5,000円になります。
年金が支給停止になる場合の例
在職老齢年金が支給停止になるのは、「総報酬月額相当額と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計」が基準額を大幅に上回る場合です。
たとえば、給与が80万円、老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額が15万円で合計95万円となる場合、計算式は以下のようになります。
51万円ー(80万円+15万円)÷2=22万円
このようなケースでは、差し引かれる額(22万円)が老齢厚生年金(報酬比例部分)を超えてしまうため、結果的に老齢厚生年金(報酬比例部分)は支給停止になります。(老齢基礎年金は受給できます)
逆に、年金が減額も停止もされないのは、給与と年金月額の合計が基準額以下の場合です。
たとえば、月収30万円、老齢厚生年金(報酬比例額)の月額が15万円で合計45万円であれば、計算式は
- 51万円ー(30万円+15万円)=6万円
となり、老齢厚生年金(報酬比例額)と給与の合計額が51万円を下回るため、年金は満額支給されます。
このように、支給停止基準額が50万円から51万円に変更されたことで、老齢厚生年金(報酬比例額)を満額受給できる人が増え、その結果就業意欲もより高まると考えられます。
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【令和8年4月】在職老齢年金の基準額を62万円に引き上げの予定

年金制度改正法案によると、2026年4月から在職老齢年金の支給停止基準額が62万円に変更されることが検討されています。
これは、2025年の支給停止基準額である51万円から11万円もの引き上げとなり、過去最大となる見通しです。
この変更により、現在年金を受け取りながら多くの給与を得ている層も、年金カットされない可能性が高まります。
政府は、高齢者の就労促進と年金制度の持続可能性を両立させるため、このような改革を段階的に進めています。
将来の生活設計やライフプランを考える際は、こうした制度変更を正しく把握しておくことが重要です。
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年金カットを防ぐには?働きながら年金を得るコツ

年金を減らされずに働くには、在職老齢年金制度を正しく理解し、対策を講じることが重要です。
たとえば、年金の繰り下げ受給を活用することで、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給停止を回避できます。また、就労形態を工夫することで、年金を受給しながら思う存分働けます。
2025年の支給停止基準額は51万円ですが、2026年の基準額引き上げ(61万円)を視野に入れた就労プランを立て、将来的な収入の安定につなげましょう。
ここでは、4つの対策を紹介します。
収入調整や報酬の見直しをする
在職老齢年金制度における支給停止は、「総報酬月額相当額」と「老齢厚生年金(報酬比例部分)の基本月額」の合計が51万円を超えると発生します。
そのため、報酬月額をわずかに抑えることができ、年金を減らさずに年金を満額受給できます。
年金の繰り下げ受給をする
年金の繰り下げをして年金と給与を同時に受け取らないようにすると、年金が減らされる可能性はなくなります。
また、繰り下げ受給すると将来の年金額を増やすことができます。繰り下げによって1か月ごとに0.7%増額され、最大で42%の増額となるため、収入が多い現役時代は繰り下げを活用するのが合理的です。
将来的に年金の額が増えることで、老後の生活の安定にもつながります。
就労形態を工夫する
企業で働くのではなく、フリーランスや業務委託など柔軟な就労形態を選ぶことで、厚生年金に該当しない形にするという手段もあります。
在職老齢年金制度の調整対象となるのは「在職老齢年金」と「給与所得」を得ている人です。
個人事業主として働き、事業所得を得る場合は、在職老齢年金の支給停止やカットの対象にはなりません。
たとえ高収入であっても、個人事業主であれば在職老齢年金の支給額が減らされません。
働きながら満額の年金を受け取りたい方にとっては、個人事業主という就業形態は大きなメリットがあります。
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まとめ
在職老齢年金の支給停止基準額は、2025年度は51万円に変更されたため、老齢厚生年金(報酬比例部分)と収入の合算額が51万円を超えない場合は、年金を満額受給できます。
働きながら年金を受け取るには、制度のルールを正しく理解し、自分の収入や働き方をうまく調整することが大切です。
報酬の見直しや年金の繰り下げ受給、個人事業主やフリーランスなど柔軟な働き方を取り入れることで、年金カットを防ぎつつ安定した収入を確保できます。
充実した老後のためにも、ライフプランに応じて最適な戦略を立てて働くようにしましょう。




