地域活性化の仕事は「現場目線」で一緒に課題に取り組むことが重要

日本国内で地方創生や地域活性化が課題となっている現代では、50〜60代のセカンドキャリアとして、これらの活動に取り組むのも魅力的な選択肢の1つです。しかし、「地方創生・地方活性化については興味があるけど、実際どんな働き方になるのか?」と疑問に感じる方もいらっしゃるでしょう。

今回は、山形県戸沢村の地域活性化に取り組む、勢古口信子さんにお話を伺いました。

勢古口さんは、大手百貨店での勤務や会社経営などの経験を活かし、現在は山形県戸沢村の地域活性化アドバイザーとして活躍中です。地域活性化の取り組みには多くの課題がありますが、勢古口さんはこれまでの経験を糧にして、地域の方々を巻き込んで地域創生に取り組んでいます。

地域活性化の活動には「現場の方と同じ目線で取り組むプレイヤーとしての姿勢が重要」だと強調する勢古口さん。シニア人材が地域活性化に携わる意義や活動の様子、活躍のポイントについて伺いました。

勢古口 信子

1993年に大手百貨店三越に入社し、婦人服販売や外商部での法人営業に従事。その後、販売促進部の媒体広報の戦略担当や豪華客船のショップ運営を経て、2009年に早期退職し、翌年に株式会社ロコ・プロモーションを設立。大手アパレル・エステ会社などの制服プロデュースやスタートアップ支援などに携わる。現在は山形県戸沢村の地域活性化アドバイザーに着任し、ふるさと納税の拡大や地方活性化に関わる幅広い業務を担当している。

戸沢村の地域活性化に携わった理由「過去のリベンジでもあった」

ーまずは、これまでのご経歴についてお聞かせください。

私は1993年に大手百貨店三越に入社し、担当は婦人服販売でした。しかし、1995年の阪神大震災で店舗売り場が崩壊したため、外商部に配属となります。そこでは、企業ユニフォームやセールスプロモーション用品などの企画・販売に従事していました。

その後は婦人服売り場に戻り経験を積み、2003年に販売促進部の媒体広報の戦略担当になりました。2005年に大阪店の閉店を経験し、最も大変な仕事となりましたが、この経験は現在の戸沢村での仕事にも通ずるものがあり、財産になったと感じています。

続いて東京本社の婦人服セントラルバイヤーに配属となり、本支店14店舗のニット・カットソー売場を担当。その後は商社に出向となり、豪華客船のショップ運営に携わり大きな売上を上げました。

2009年に三越を早期退職し、翌年に東京で株式会社ロコ・プロモーションを設立。大手エステ会社の制服プロデュースや商品企画、新規事業のコンサルティングも行いました。

そして、戸沢村の地域活性化アドバイザーに応募し、これまでの経験を評価いただき、地域活性化アドバイザーに着任、現在に至ります。

ーなぜ、戸沢村の地域活性化に取り組もうと決意したのでしょうか?

仕事内容そのものに大変魅力を感じたからですね。以前から地方の課題解決に関心はあったのですが、大きな理由には先述した三越時代の経験があります。

当時、私が配属された大阪の店舗は、立地も良いとは言えず、業績が伸び悩んでおり、本社会議に出ても業績が良くないため、肩身が狭く、非常に悔しい思いをしたことを覚えています。

そのような中、私たちは「どうすればお客さまを呼び込めるか」「売上目標を達成できるか」などを必死に考え、さまざまな企画を打ち出して、なんとかV字回復を果たしました。

今回の戸沢村の仕事も、大阪の店舗での経験と大きく重なるものがあったんです。都心と比べて立場が弱い地方だからこそ、「ここからもっと良くしてやるぞ」と、三越の大阪の店舗で働いていた時のようなやる気が湧いてくるんですよね。

ー着任にあたって、心がけていたことや率直な心境をお聞かせください。

地方の方々が求めているのは、アドバイザーや顧問ではなく、プレイヤーとして現場に立つ人材です。そのため、着任にあたり、現場の方と同じ目線に立つことが不可欠だと意識していました。

私の経験上「本社から偉そうな方が店舗に来ては口出しだけして帰る」ということがよくあり、その度に現場は混乱し現場の人間は少し煩わしく感じることがあったからです。

もちろん、豊富な経験を持つ人材が地方に関わること自体、非常に有意義だと実感していますが、「アドバイスをして終わり」という取り組み方は避けるべきだと思います。

ー戸沢村の地域活性化に対して、不安や葛藤などはありましたか?

着任当初は、戸沢村の皆様が私を受け入れてくれるのか、不安でした。ミッションを達成するためには私1人の力では無理ですからね。

というのも、過去に戸沢村とは別の仕事で地方を訪れた際、馴染めない雰囲気があり、自分の力を存分に出せなかったのです。私が都会から来た人間だからなのか、構えられているような、見えない壁を感じました。

これはどの地域の仕事にも同じことがいえると思います。やはり「都会から来た」というだけでも、現地の方は身構えてしまうものなのです。その事実を意識しながらどうコミュニケーションを取るべきかを考えることが重要です。

過去の売り場経験が、返礼品開発に活きる

ー戸沢村では、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

ふるさと納税の拡大に関する業務がメインですが、加えて空き家対策や関係人口、移住促進など、地方創生に関わる幅広い業務を任されています。

当初はふるさと納税の拡大に関する業務だけが担当範囲と聞いておりましたが、多岐にわたる業務を任されて結果的に良かったと思っています。

ふるさと納税の拡大と言っても、他の業務・部署を切り離しては仕事になりません。例えば、ふるさと納税を拡大するためには新規事業の部門と協力しながら、どういう返礼品を提供するのかを一緒に考えなければならないのです。

「それぞれの部署が力を合わせて初めてふるさと納税の拡大を実現できる。」こうした話をすると、役場の上席者の方々も理解を示してくれて、部署を越えて多様なアイデアを一緒に推進してくださいます。この環境のおかげで、戸沢村の地域活性化の仕事も円滑に進められていると感じますね。

ー戸沢村の活動メンバーは理解のある方が多いのですね。どのように現地の方と関わっているのか聞かせてください。

戸沢村の仕事は調整役のような立場として取り組んでいます。

例えば、問題が発生した際には、外部からきた私が率先して動けば、その役所で働くメンバーの負担が軽くなる時もあります。「必要に応じて、うまく活用してください」と同じチームで働くメンバーの方に伝えています。

組織の性質上、直接言いにくいことや、物事を前に進めにくいことも多いでしょう。私はそのような時のために雇われているわけですから、現場のプレイヤーとして多少のしがらみには惑わされず前に進んでいきたいと思っています。

また、最近では、村長や副村長にも率直な意見を伝えられるようになり、信頼関係が築けてきたように感じています。

ー現在のお仕事の目標やミッションは何ですか?

戸沢村でのミッションは、ふるさと納税の返礼品の数を3年後に現在の3〜5倍に増やし、寄付額も3倍に増やすことです。そのためには、返礼品を扱う事業者さんの発掘と育成が欠かせません。

今の返礼品は98%が米であり、他の事業者さんが参入しづらいという状況なので、米に合うセット商品を開発するなどの工夫が必要です。

例えば、米と地元の特産品をセットにした「戸沢の旨い米に合う ご飯のお供セット」を企画し寄付者の興味を引くと共に、米以外の特産品の訴求を図り寄付額の増加にも繋げていきます。

民間のノウハウや経験を活用し、考え方のギャップを埋めつつ、私が旗振り役になって戸沢村のふるさと納税を盛り上げていくことが、私の責務だと考えていますね。

ー地域活性化の取り組みの中で、過去の経験が活かされている場面などはありますか?

ふるさと納税の仕事では、三越時代の大阪店での経験が特に活きています。売上目標達成のために、お客さまを呼び込むイベントや企画を必死に考えたり、お客さまの声に耳を傾けたりしたこと。あの頃培った姿勢が、ふるさと納税の返礼品開発にもつながっているんです。

一番わかりやすいのは、商品の見せ方や提案でしょうか。例えば、婦人服売り場で喪服を担当していたときは「ブラックフォーマル」という言葉を使うことで、「縁起が悪い」という喪服のイメージを払拭しました。

また皇室のファッションのように、帽子や手袋など装飾品を組み合わせて「結婚式にも着ていける」とプレゼンしたら、売上も右肩上がりになりました。

こうした経験が、今のふるさと納税の業務に役立っています。

行政と民間では組織の原理が異なる

ー戸沢村での地方活性化の取り組みで感じた課題やギャップなどはありましたか?

行政と民間では、特に予算に対する考え方に大きな違いがあると感じています。行政は必要な予算を確保することが重要である一方で、民間は設定した目標予算を達成することを重視する傾向が強いと感じています。ふるさと納税の業務では売上や商品の見せ方など、民間的な発想や考え方が重要となってきます。

こうした行政と民間の違いを理解した上で、ギャップを埋めるのも私の役割だと感じています。

ー実際に地方創生をやってみて、生活スタイルはどうですか?変化や様子を教えてください。

月の半分は戸沢村役場に出所し、東京との行き帰りには夜行バスも利用しています。東京でも仕事があるため、生活面での負担は大きいですね。

また、戸沢村は豪雪地帯のため「雪道は危ないので、車の運転は控えてください」と言われているのと車を所有するのも月に半分レンタルするのも経費的に非効率なため、お隣りの新庄市に部屋を借り、公共交通機関と徒歩で通勤しています。戸沢村では車を所有していないことは珍しいため、道を歩いていると住民の方によく振り返られますね。

ー地域活性化の仕事をする上で大切にしていることは?

先ほども少し話しましたが、現場目線に立ち、現場の声に耳を傾けることです。観光資源の保護や移住者の誘致のためには、現場の方々の困りごとや悩みを理解することが重要だと考えています。

着任当初は、全ての事業者さんを直接訪問して、ご挨拶回りをすることから始めました。ビニールハウスに長靴で入ったりもしましたよ。

訪問先では、ふるさと納税の話だけではなく、今困っていることを伺いました。多くの方は高齢化と後継者不足に悩んでおり、事業をやめようかと悩んでいる方もいました。しかし、事業をやめてしまったら戸沢村の特産品も失われてしまいます。

そのため私は、現場の声を拾い上げて、月末の報告書にまとめて提出し共有しています。

例えば、戸沢村の誇れる観光資源である「最上川の舟下り」は、船頭さんが高齢化で不在になりつつあります。そこで私は、空き家を活用して若い船頭さんを育成する事業を提案しているんです。

また、老舗の和菓子屋さんが廃業の危機に瀕しているため、そのレシピを村の財産として残すために、行政が仲介役となって他の事業者に買い取ってもらう提案も出しています。

ーそこまで徹底して取り組んでいる方は少ないのではないでしょうか。

そうですね。自分で言うのもなんですが、ここまで現場に入り込んでやっている人は多くないと思います。でも、私はこれが当たり前だと思っています。

自分がこの仕事で結果を残すことが、シニア世代全体の評価を高めることにつながると信じています。逆に言えば、私がここで失敗したら「シニア人材はいらない、使えない」となってしまう。そうなれば、次の世代のチャンスも奪ってしまうことになりかねません。

そう考えると、私にはシニア人材の活躍の場を広げる責任があるんですよね。

今後の課題は村の方々が戸沢村の魅力を再認識すること。「自信を持ってほしい」

ー今後、戸沢村の地域活性化の課題は?

村の方々には戸沢村の素晴らしいポイントを再認識して欲しいですね。村の良さに自信を持ってほしいです。

地方活性化には、住んでいる方々が自分たちの村の良さに気づくことが重要だと感じています。自分たちが地域の魅力を知り、好きでいなければ、他の人にもその魅力が伝わらないですからね。

村の方々だけでは、ずっと住んでいる村の良さに気づくことは難しいと思うので、職員さんたちと村を廻るときは「私がスマホで写真を撮るところは、すごく魅力的なので覚えていてね」と伝えています。

ー地域活性化の仕事の難しさについても教えてください。

私がアドバイスとしてお伝えしていることが、すぐに実践されるわけではない場面もあることです。

例えば店舗の売り場などは、私の得意分野なのでさまざまなアドバイスをするのですが、人手不足などの課題もあり、なかなか実行に移せない現状があるようです。

また、現地の方のマインドセットにも課題を感じています。全ての方が前向きに取り組んでいるわけではなく「何やっても変わらないよ」と、取り組む前から変革に後ろ向きの方もいます。

でも、ここで私が全て主導して取り組んだところで意味がありません。あくまでも村の方々が望んで自発的に動かなければ、本当の意味での地域活性化にはつながらないのです。

この村の未来を本気で考えているからこそ、時には厳しいことも伝えるし、時には身を引くことだってあります。それも地域の人たちを巻き込む上で大切なことだと思っており、そういう覚悟を持って、地域活性化の仕事に取り組んでいます。

過去の肩書き・こだわりへの手放しがカギ。地域の方と一緒に手を動かせるシニア人材は活躍できる

ーシニア世代で地域活性化の仕事をしてみたいという方に向けて、何かアドバイスをお願いします。

民間や大企業で活躍されてきた方には、ぜひご自身の経験を地方の課題解決に活かしてほしいと思いますね。これまでの経験は、必ず地方の課題解決に役立つはずです。

その際には、今まで培ってきた知見を、自治体の抱える問題にどう適用できるかを常に考えて行動することが大切です。自治体や課題を抱えている方たちの相談役や、心の拠り所になるように努めるといいと思います。

シニア世代の私たちが地域活性化に携わる際はプレイヤーとして、机上の空論ではなく、現場の人たちと一緒に手を動かして信頼を得ることが重要です。

例えば私は、戸沢村に赴任してから、村内で行われるイベントに出来る限り顔を出し、一緒に椅子を並べるなどして現場の手伝いをしています。そこで事業者さんに挨拶すると、顔を覚えてもらえますし。そうした地道な積み重ねが、地域に溶け込むために大切だと思っています。

もちろん、待遇面などのハードルは高いかもしれませんが、地方には実力を発揮できる場が多くあります。熱意があり地方活性化に貢献したい方は、ぜひ挑戦してみてください。

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