50代以降で転職活動をする多くの方が、「希望する条件で再就職できるだろうか」「50歳以降になっても企業で活躍できるだろうか」と不安を抱いています。シニア人材の採用経験が豊富な製造メーカーの採用担当者・Aさんに、50代以降のシニア人材の強みや、転職を成功させるポイントについてお話を伺いました。
消費財業界の老舗製造メーカーで15年間のキャリアを持ち、現在は事業部長としてスタッフの人材管理および育成を担当している。自社工場を有する中小製造業において、技術職人材の確保や育成に尽力しており、採用戦略から社内教育まで幅広い人事業務を統括している。特にシニア人材の活用や技術継承に関する取り組みに力を入れている。
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「従業員の4割がシニア」製造メーカーが直面する人材不足のリアル

―御社の事業内容について教えてください。
当社は食品、化粧品、サプリメント、日用品の製造販売を行っています。自社工場を持ち、海外や日本国内で幅広く販売しています。基本的に従来型の工場で、人手を多く必要とする製造メーカーです。
―現在、シニア人材の採用はどの程度行っていらっしゃいますか。
若手人材の採用が困難になり始め、10年前ほどからシニア人材の採用を本格化させました。現在は従業員の約4割が50〜60代です。一方で20〜30代はごく少数にとどまっています。
特に我々のような製造メーカーでは、技術職が必要不可欠ですが、担い手不足が深刻化しています。あらゆる求人サイトを活用していますが、なかなか人材が見つからず、採用活動に多大な時間と労力がかかっているのが現状です。
そのため、社内のシニア人材の活用を進めており、60歳以上の方を業務委託という形で再雇用したり、外部からキャリアと技術を持った方を積極的に採用したりと、様々な取り組みを行っています。
―シニアを中途採用する場合、どういった役職の方が多いのでしょうか。
55〜60歳で応募してくる方は、企業での部長職や、ベンチャー企業の社長を経験された方が多い印象です。そういった方を採用するには、ある程度の役職を用意して募集しないと、なかなか応募が集まりません。最低でも主任職、課長職、あるいは部長職といった待遇が必要になります。
ただし、60歳を超えている方は、管理職待遇での雇用は難しいと理解されていて、選考が進みやすい傾向にあります。当社でも、基本的には部長職であっても60歳以降は再雇用となり、給料が4割減となったうえで一般社員として働いていただいています。
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シニア人材だからこそ発揮できる強み

―若手層の採用が難しいのはなぜでしょうか。
若い人たちには、製造業というと「きつい」「給料が安い」というイメージがあるようです。工場が僻地にあるため、アクセスが悪いという問題もあります。特に専門分野となると、人材獲得はさらに難しくなります。本当は若い人材も欲しいのですが、年齢が高くても技術のある人を採用した方がいいだろう、という状況です。
―若手層も採用したいとのことですが、その理由をお聞かせください。
製造業は工場での作業があります。例えば20キロの荷物を持って移動したり、一日中工場内を歩き回ったりすることもあります。熱中症や怪我のリスクもあるので、体力的に安定している人が望ましいです。
営業も1日に何十件も商談をこなす必要があり、アクティブに動き回れる人材が必要です。フットワークの軽さが重要なので、どうしても若い方が適しています。また、会社として人材の循環も必要で、若手を一定数育てて技術を継承していくことも、重要なKPIの一つなんです。
―採用されたシニアの方も同様に、工場勤務や外回り営業をするのでしょうか。
技術やノウハウがあっても、体力的に懸念がある場合は、マネジメントに特化していただいたり、知識を共有していただいたりする形で、週2〜3日などの勤務形態を取ることもあります。
体力面で問題がない場合は、他の社員と同じように営業や工場での業務をお願いすることが多いですね。
―シニア人材に期待している強みや役割について、具体的に教えてください。
シニア人材を採用する場合、他社で豊富なマネジメント経験を積んできた方が多いですね。
例えば、大企業で20人規模のチームを取りまとめていた方などは、営業の知識やノウハウ、新規顧客開拓のテクニックを持っています。我々のような中小企業にとって、そのような経験は非常に貴重ですので、大いに期待しています。
また、当社は海外展開もしており、英語力や海外とのコネクションを持っている方は重宝されます。特にシニアの方は、年齢を重ねるほど企業間のネットワークが強く、国内外での人脈を活かした紹介的な役割も担っていただけます。そういった点は、年を重ねてこそ得られる強みとして期待しているポイントです。
―若手人材と比較して、シニア人材ならではの強みを感じることはありますか?
団塊の世代でいろいろなふるいに落とされてきた世代だけあって、会議での稟議を通すような高度なテクニックや、部署の人を巻き込む力に長けていると感じます。
若い方は提案が却下されるとモチベーションが下がりやすい傾向がありますが、シニアの方々はそれを当たり前のこととして受け止めてきた方が多いですね。
そのときにうまくいかなくても、モチベーションを落とさずに次の課題へと切り替えられる姿勢は、非常に素晴らしいと感じます。やはりそういった粘り強さは、シニアならではの強みだと感じます。
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「この人なら採用したい」企業が求めるシニア人材の条件

―「この人なら採用したい」と思うシニア人材の特徴を教えていただけますか?
まず求められるのは、ある程度の規模でマネジメント経験を積んだ人材です。
課長職や部長職の経験があっても、それがベンチャーなのか中小企業なのか大企業なのかでは、意味合いが全く異なります。ある程度大きな組織を取りまとめていた経験は、かなりの実績になります。マネジメントの規模と役割、経験年数などは重要なポイントです。
それに加えて、これまでの経験を活かしつつも、会社の方針を理解し、柔軟に対応できる人材です。これはシニア人材の共通の課題ともいえるかもしれません。特に大手企業出身の方に見られるのですが、「自分のやり方が正しいから、この会社でも同じやり方を通したい」と思い込んでしまう傾向です。
新たに入社した60代の部長が従来のやり方を変えようとすると、既存社員との間で軋轢が生じるケースがあります。そのため、コミュニケーション能力や柔軟性を兼ね備えた方であれば、安心して採用を検討できます。
―入社後、すぐに活躍するシニアの方の特徴を教えてください。
環境が変われば、自分から教わろうという姿勢でいられる方や、焦って改革を求めすぎない方が、入社後も活躍している印象です。そういった方はまず3~6カ月の間に現状やシステムをきちんと把握して、自分のキャリアを活かせるところがあれば少しずつ変えていく、というやり方を取っています。
うまくいかない例として、「半年以内に結果を出さなければならない」と焦り、達成できないような目標を立て、無理に実績を作ろうとしてしまうケースです。
このようなアプローチで失敗すると、社内全体にネガティブな影響が広がります。焦らず、まずは自分の部署の業務をしっかり把握することから始め、それから少しずつ現実的な目標を立てていただく方がうまくいくと思います。
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面接官に敬遠されるシニア人材の共通点とは

―採用で敬遠される求職者の特徴について教えてください。
採用で敬遠するのは、健康面やモチベーションに問題がある場合です。
特に工場などの現場勤務の場合、心身ともに健康であることがかなり重要です。そのため、前職での退職理由については、面接で細かく聞いていきます。健康上の理由で退職していたり、精神的なストレスに耐えられなくて辞めた場合もあるので、慎重に確認しています。
また、モチベーションについては、「60歳までの5年だけでいいから働きたい」という意識で応募する方もいます。そのため、本当に当社で働きたいと思っているのかを見極めることが重要です。これはシニアに限った話ではありませんが、当社を選んだ背景について、例えばホームページをしっかり読み込んでいるかなど、詳しく確認するようにしています。
―応募している企業のホームページを見ていない方もいらっしゃるのですね。
転職エージェントに勧められるまま多数の企業に応募している方だと、「当社のホームページを見てこられましたか」と聞いても、曖昧な返答しか返ってきません。逆に、数社に絞って応募している方は、ある程度事前調査していて、「この商品をこうすれば売れるのではないか」「この商品に興味がある」「御社のビジネスモデルの良さ」などの具体的な意見がすぐに出てくる印象です。そうすると、採用の判断がしやすくなります。
―「働きたい」というモチベーションはどのように確認されていますか?
働くモチベーションが低いと、離職率につながってしまいます。現在は65歳まで働く方も多いので、50代半ばの方を採用する場合、「60歳や65歳まで働く意思があるか」については必ず聞いています。当社としては長期雇用を希望しており、55歳で入社したとして10年程度働いていただけるのが理想なんです。
将来のビジョンとして、60歳で役職が外れ、一般社員になって給与が減ったとしても、継続して働く意思があるかどうかが気になります。
―求職者がどういったキャリアプランだと、ネガティブな印象になるのでしょうか。
年齢による待遇の変化に対して「懸念しています」といった発言があると、役職を外れた時点で辞めてしまうのではないか、あるいは60歳までの腰掛け程度に考えているのではないかという印象を与えてしまいます。
逆に、「御社の商品に携わりたい」や「営業が好きだから60歳以降も働きたい」というように、仕事への思い入れが感じられると、長く続けていただけそうだと感じます。
また「役職へのこだわりは強くないが、60歳まではマネジメント経験を活かし、その後も営業職として経験を活かしたい」といった答えだと、長期的に活躍していただけそうなイメージが湧きますね。
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履歴書で面接官が密かにチェックしているポイント

ー選考書類について、どのような特徴があればポジティブな印象を与えますか。
選考書類では、前職では長く継続して働いていたか、職歴に一貫性があるかなどを重視しています。
5、6回転職していても、同じ業界で着実にキャリアアップしていて、成長が見える場合はポジティブな印象を持ちます。逆に、これまで働いてきた職種や部署がバラバラで、営業をやったり事務をやったりしていると、どこにこだわりがあるのか疑問に感じます。
ただし、面接官は必ず1社目、2社目の退職理由を確認しますので、納得させられる理由があれば、それほど問題にはなりません。一方で、「会社の方針が変わった」とか「自分に合わなかった」といった、自分本位な退職理由だと、継続して働けるか不安になり、ネガティブな要素になってしまいます。
―面接ではどのような自己PRが、ポジティブな印象を与えますか。
前職での実績について、「自分が」という表現を避けて、チーム全体の成果として伝えてくれると非常に印象が良いです。フラットな立場で、「若手を育成しながら、プロジェクトを進めた」「自分はフォロー役としてプロジェクトの売上を上げた」というように、リーダーシップと謙虚さをバランスよく見せるのが効果的だと思います。逆に「自分がこれをやりました」「売上10億を達成しました」など、個人の実績を前面に出しすぎる方は少し危険かなと感じます。そういった方には、追加で質問をすることが多いです。
ー個人の実績を表に出すと、どのように違和感を感じるのでしょうか。
売上規模にもよりますが、何事も1人で達成するということは現実的ではないと思うんです。もちろんリーダーとしての実績はあるかもしれませんが、例えば「売上10億円」という数字を達成するまでには、そのプロセスや、具体的なチーム構成があるはずです。それらの細かい組織階層まで説明できないとなると、本当にマネジメントできていたのか、信憑性に疑念を抱かざるを得ません。そのため、数値や実績だけのアピールについては、慎重に判断しながら聞くようにしています。
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面接官が明かす「面接で評価を下げるシニア」の特徴

―シニアの方が面接時に無意識にしてしまいがちな、ネガティブな言動はありますか。
特に大企業出身の方に多いのですが、自己アピールが過度になりすぎて、かえってマイナス評価になってしまうことがあります。
多くのシニアの方が素晴らしい実績をお持ちですが、面接で全てを披露する必要はありません。当社が求めているところをきちんとフォローし、場合によっては余計な部分は省いた方がよいこともあります。
むしろ、募集要項の「求める人材像」の項目に絞って、的確に答えられるよう準備しておくことが大切です。業界や会社の概要は何となく分かるかもしれませんが、最近は企業のホームページも定期的に更新されていますし、トレンドも変化しています。
ホームページや資料、ホワイトペーパーなどをしっかり確認してから面接に臨んでいただくとよいですね。「当社のことをご存じですか」という質問にきちんと答えられることで、信頼度は高くなると思います。
―オンラインでの面接も実施されていると思いますが、注意点があれば教えてください。
やはり光の当たり方が気になります。画面越しでは、顔が暗く見えてしまうケースがあるんです。特に営業職の求人で、顔が薄暗く映っていたり、表情がよく見えない場合は、ネガティブな印象になってしまいます。
また、オンラインだからといって服装があまりにもラフすぎたり、背景が散らかっていると、だらしがない印象を与えてしまいます。もちろん、背景をモザイクにしていただければ問題ないのですが、特にシニアの方は設定がわからず、そのまま映ってしまう方もいらっしゃるんです。
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50代以降の転職者へのメッセージ

ー50代以降で転職を考えている方へ、アドバイスやメッセージをお願いします。
当社のような製造業の中小企業では、若手の採用が難しい状況です。外国人採用も検討していますが、教育面で課題があるため、シニアの方が望ましいケースが多いんです。
ただ、求職者の方が通勤のアクセスや給与面にこだわりすぎると、どうしても条件的に合わなくなってしまいます。ある程度柔軟に考えていただきながら、広く求職活動をしていただければと思います。
オンラインだけでなく地元の採用広告なども活用して、粘り強く探していただければ、必ずチャンスはあると思います。実際、65歳でもバリバリ活躍されている方が当社にもいらっしゃいますので、諦めなければマッチングする機会はあるはずです。