50歳を迎え、子育てが落ち着いたと思った矢先に、「これから何のために働けばいいのだろう」と仕事へのモチベーションが下がる人も少なくありません。子どもとの予定がなくなり、休日の楽しみがなくなったと感じる方もいるでしょう。
今回は、大手メーカーに30年以上勤めているGさんに、50歳前後で仕事や家庭で直面した葛藤についてお話を伺いました。
大手メーカーで30年以上勤務し営業からマーケティング、デジタル領域の業務など幅広い業務に従事。子育てが落ち着いた後、仕事や週末の寂しさを感じるように。現在は地域のボランティア活動や副業に取り組みながら、第二の人生に向けた準備を進めている。
50歳を迎えて感じた「物足りなさ」
Q. 50歳を迎えた際に仕事や子育ての環境も大きく変わりますが、Gさんはどのような心境の変化がありましたか?
今年で23歳になった娘が一人いるのですが、娘が大学生になったあたりから教育にあまり手がかからなくなりました。教育費もそろそろ支払い終える中で「子どものために働く」という必要性が薄まり、何を仕事のモチベーションにすべきか分からなくなってしまいました。
1992年に大手メーカーに入社して以降、仕事がどれほど辛くても「家族や子どものために」と頑張ってこれたと思います。
しかし、娘が独立して「何のために働くのか」、「仕事にどう向き合うべきか」と悩むようになり、1〜2年ほどモヤモヤしていました。週末も家族と過ごすことが多かったのですが、それもなくなってしまったので寂しいですね。
「夢中になれることを見つけたい。機会を待っている」
Q. 娘さんが独立された後、週末の過ごし方を見つけられましたか?
比較的穏やかに過ごしている一方で、本当は「週末が楽しみだ」「週末はこれをがんばろう」と思えるものがほしいです。
スポーツや音楽など、何か趣味があれば、週末が楽しみになるのかもしれません。学生時代は剣道をしていましたが、今は一人でふらっとできるスポーツもないですからね。
日常的に仲間とスポーツを楽しんでいる方を見ると、正直「羨ましいな」と思ってしまいます。今は「何か良い機会があればな」と待っているような状況ですね。
Q. 現在はどのように週末を過ごされているのですか?
月に1〜2回、地域のボランティアに参加し、残りの週末は犬と散歩したり、家でゆっくり過ごしたりする時間が続いています。
ただコロナがきっかけで、以前より出かける頻度が減りました。これらをきっかけに、仕事もプライベートも「〇〇がしたい」というエネルギーが少し減ってきたのかもしれません。何か新しいものを見つけるためにインプットして「好奇心を失わないようにしないと」という気持ちだけはあるのですが、なかなか行動に移せません。
Q. 50歳前に、健康面で大きな変化はありましたか?
ここ数年は老眼も進み、目が疲れるようになりました。目のピントが合いにくくなり、パソコンやスマホを見るのも疲れてしまいます。
ただ、少なくとも何か大きな病気をしてるわけではないですし、家族も深刻な問題を抱えているわけではありません。小さな悩みはありますが、家族みんなと幸せに過ごせていると感じます。
50歳以降は「世の中への還元」を意識するように
Q. 50歳を機にどのようなモチベーションで過ごされるようになりましたか?
娘が独立して仕事のモチベーションについて悩んでいるうちに「自分の経験を活かして社会に還元できないか」「何か世の中にお返しがしたい」と思うようになりました。
その結果、先ほど話したように定期的に地域のボランティアやコンサルティング業務の副業を始めました。
地域ボランティアでは主に2つのボランティアに取り組んでいます。一つは、同じ地域の高齢者支援です。妻が高齢者支援のコミュニティ活動をしていて、私は手伝いとして参加するようになりました。週末に高齢者の方が集まって話をしたり体操したりするのをサポートしています。
もう一つは、国際交流支援のボランティアです。日本に来ている留学生さんの生活を支援しています。少しでもよい経験をして、母国に帰れるようサポートしてあげられたらいいなと思っています。
今までの自分の経験を誰かに教えることで喜んでもらえるのはうれしいですね。それが今の人生の中でのやりがいにつながっていると思います。
第二の人生以降のキャリアへの価値観
Q. 50歳以降に転職活動などを検討されたこともあったのでしょうか?
はい、一時期転職を検討していたので、転職サイトに登録したり、情報収集をしたりしましたが、面接などの本格的な転職活動はしませんでした。
というのも、今の会社でも何年かおきに仕事が変わり、新しいチャレンジをする機会があったからです。
これまでメーカーで営業やマーケティングを担当していたのですが、ここ10年ぐらいはデジタル関連の仕事をするようになりました。
元々ITリテラシーがあったわけではなかったのですが、「ITを使って何かができる」というスキルが増えました。そういう意味で言うと、同じ会社にいながら、ITの会社に転職してスキルアップした感覚に近いかも知れません。
45歳から10年間ほど経験したデジタルの仕事はすごく刺激的で、新しい学びも多くありましたね。
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Q. 今後のキャリアについてはどのようにお考えでしょうか?
今は57歳以降のキャリアをどうするかを考えています。会社の制約では、60歳で定年、もう一歩手前の57歳で役職定年という仕組みになっているからです。
そのため、57歳の役職定年後に、今の仕事を続けるのか、別のキャリアを歩むのかはこれからしっかり人生設計していきたいですね。そのため、去年から副業を始めました。「自分のキャリアが世の中のどこにニーズがあるのか」を探しています。
これからは、57歳に向けて情報収集したり、トライ&エラーをくり返したりして、後半の人生を支える軸みたいなものを見つけたいです。
ただ、30数年間同じ会社で働いてきたため、違う会社に勤める姿を想像できないないですね。それでも「会社員以外の働き方をしてみたい」という漠然とした願望はあります。コンサルの副業や地域ボランティアをやっているのも、そういう願望があるからだと思います。
断言できることは、会社員にこだわっていないこと。むしろ会社以外の働き方をしてみたいです。
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Q. 長く働き続けるために、新しい知識のインプットをされていますか?
自分の知識や経験が陳腐化しないように、常に新しい情報をキャッチする努力はしています。デジタルの仕事は、どんどん新しいサービスやソリューションが出てくる領域でもあるため、余計に意識しているのかもしれません。
同業他社など、いろいろな方との接点を大事にしたり、デジタル領域の事業者が集まる会合に参加して話を聞き、情報の引き出しを増やしています。
コロナの期間中はオンライン英会話をやっていました。しかし、今は体系的に勉強していることはありません。本当は軸になるようなテーマをもって勉強したいのですが、どうすべきかがわからないのが正直なところです。
60歳以降に実現したい生活と感じる不安
Q. 60歳、70歳以降の人生に対する不安はありますか?
経済的な不安はあります。毎月一定の給料をもらえる生活を30年以上過ごしてきましたが、今のレベルの収入が定期的に入ってくる生活はあと数年で終わるでしょう。毎月定額のお金がもらえない生活は、想像がつきません。
また、今の会社では多くの方が再雇用で働き続けています。実際に話を聞くと、経済的な理由から再雇用を選んでいるようです。
57歳の給料よりは圧倒的に下がるため「再雇用後は給与を全然もらえないよ」と愚痴をよく聞きます。やはり過去の自分よりも収入が下がることへのダメージが大きいのかなと感じますね。
Q. 60歳以降はどのような働き方を考えていますか?
「いつまで元気に働けるのか」を想像しなければならないと感じています。
先輩方のアドバイスから考えると、体力的に70歳ぐらいまでは何らかの仕事ができるのではないかと想定していますが、それ以降はどうすべきか悩むところです。
「70歳以降も仕事をするのか」、「仕事ができなくなった場合どうすべきか」という二つの軸で考えなければならないと感じています。
Q. 今後、仕事においてどのような目標や夢を持っていますか?
一つは講師業への挑戦です。実務経験がある人が大学の非常勤講師をする話を聞き、転職先や副業の選択として大学講師を考えるようになりました。
しかし、今の仕事をリタイアしてからスタートすると手遅れになるため、今の仕事をしながら、できるだけ準備はしておきたいですね。
具体的な段取りをしていませんが、実務家教員の仕事内容に関する情報を集めたり、必要なスキルを習得したりしたいと考えています。今の仕事を辞めたときに、次のステップに進む準備がある程度は整っている状態が理想です。
Q.プライベートではどのような生活を過ごしたいですか?
美味しいものを食べて飲んで元気に過ごせればそれでいいと思います。強いていうならば、海外も含めて歴史的なお城やお寺など、何か歴史を感じさせるようなものを見て回れたらいいなと思います。昔から歴史物が好きで、大河ドラマは毎週真剣に見るほど大好きですから。
趣味を楽しむためにも歩くなど、ある程度の運動も続けていきたいです。とくに肥満はいろいろな病気を招く要因になるため、若いとき以上に太りすぎないように気をつけようと思います。
また一番は家族も含めて健康でいてほしいことです。1人でいるのはつらいですから。
また、80代の両親がまだ健在なので、同居はしていませんが、少しでも人生を幸せに終えられるためにできることはしたいと思っています。
まとめ
今回は、大手メーカーで働く50歳を迎えたGさんについて紹介しました。この事例からもわかるように、子育てがひと段落したことで、仕事のモチベーションが下がったり、週末の楽しみを失ったりすることも少なくありません。
自分は何にやりがいを感じるのかを見つけるために、ボランティアや趣味など新しいことにチャレンジする努力が求められるでしょう。60歳、70歳で叶えたい目標を見つけることも大切です。