50歳以降で起業するときは、誰しも不安を感じますが、それをどのように乗り越えて成功につなげているのでしょうか。長年A国の銀行で働き、帰国後起業をしたKさんに、50歳で起業にチャレンジした理由や直面した問題、それをどう乗り越えたのかなどについてうかがいました。
大学卒業後A銀行に入行し、外国為替や法人営業などを経験。海外大学院で学んだ後、国際審査部のアメリカ担当を経て、A国の出資先銀行へ出向する。約6年間勤務した後、出資先の銀行に転職。合計約16年半のA国での勤務の後、帰国して独立する。現在は、A国進出を目指す日本企業のコンサルティングや、社員の英語力アップのためのノウハウなどを提供している。
大学卒業後、大手銀行に入行。東南アジアのA国に出向
大学卒業後は大手銀行に入行し、外為や法人営業などを経験しました。途中で業務を離れて、英語学院で3ヶ月、朝から晩までの英語特訓を受け、その後社費留学で海外大学院に行き、約1年間政治や経済などを学びました。
帰国後は支店で法人業務をした後、国際関係の業務を担当することになり、アジア担当や国際審査部のアメリカ担当を経て、ある東南アジアのA国の大手銀行に出向しました。その国では主に日本から現地に進出する日系企業をサポートしていました。
その後、その出向先の銀行に副頭取として転職しました。結果的に約16年半その国で働いたことになります。
50歳で起業を検討したきっかけは「親の健康に対する不安」
Q. 50歳を機になぜ起業をしようと思ったのでしょうか。
銀行でまだまだ働くという選択肢もありましたが、50歳を過ぎた頃から、親の健康に関する不安が出てきました。
忙しい日々の中、年に1回くらいは帰国していましたが、親に認知症の症状が出てきたりして、今後について色々と考えるようになりました。
兄弟の中で男は私一人で、いつかは帰らないといけないだろうという漠然とした思いもありましたね。
働いていた東南アジアのA国でそのまま60歳くらいまで働くか、東京に戻って仕事をするかと迷ったのですが、そういったさまざまな事情をふまえ考えた結果、帰国して日本で仕事をすることにしました。
もともと「社長になって海外関係の仕事をし、自分の思うような経営をしたい」という夢を学生の頃から持っていたため、これを機に独立しようと考えました。
Q.起業以外の転職も考えていたのでしょうか?
外資系の銀行からオファーがあったので、どうするか悩みました。帰国後に銀行に転職して、60〜65歳の定年まで、雇われ銀行員として働く選択肢も良いなと思っていましたね。
銀行から離れて独立してやっていくのか、外資系の銀行で日本支社長のポジションでやっていくのかという選択で色々考えて悩みましたが、社長をやってみたいという夢を以前から持っていましたし、親の健康問題を考えると、自由な働き方ができる方が良さそうだと思いました。
今は月1回施設に入っている両親の面会に行けますし、毎週実家に帰って庭掃除など、家の管理もできています。
30〜40代でがむしゃらに働いても、50代になると、「このまま定年まで同じ会社で働き続けて良いのか」「別の人生があるのではないか」と不安になることもあるでしょう。今回は大手電機メーカーで28年間勤務したのち、50歳で早期退職を決意し、個人[…]
転職という選択肢があった中で、起業を決意した決め手とは
Q.起業に踏みだせた理由は何でしょうか?
「この分野においては誰よりも優れている」と自信を持って言えるスキルがあったことです。
英語は人よりもできるという自信がありましたし、英語を使って海外の金融機関で十数年働いてきた経験があったので、英語とこの海外業務の経験を活かし、何かできるのではないかということは前々から考えていました。
独立するときには「英語」と「海外金融の経験」を活かす仕事として、「日本人向けのTOEIC集中講座」と「海外進出のコンサルティング」を2本の柱に据えました。
まず、クライアントの社員にTOEIC集中講座で短期間で英語力をつけてもらい、その上で、すでに持っている専門知識を活かして海外で活躍してもらうという流れです。
Q. 起業する前に、何か不安はありましたか?
顧客獲得に関する不安はありました。しかし、何とかいけるだろうという自信もありました。
例えば、時間の使い方に関しても、独立したら余計な会議などをしなくても良くなります。無駄なことを削ぎ落とし、限りある時間を「営業」や「専門分野を深めるための勉強」など、必要なことだけに集中できるので、熱量を持ってがんばればどうにかなるだろうと考えていました。
これまで1,500名以上の50、60代の方から相談を受けてきた中でも、独立後に失敗するパターンについて多くの質問が寄せられています。 「独立後、どのような行動を取ってはいけないのか」ということについて、知識として知っておくだけでも独[…]
50歳で起業に一歩踏み出して直面した課題
Q.起業をする上で直面した課題は何かありましたか?
最初は、既存のネットワークを活用すれば、ある程度顧客もできて順調にいくだろうと考えていましたが、そううまくはいかなかったですね。
独立すると決めたときには「銀行業界ではやり切ったという自負とノウハウがあるし、関係を築けているお客様も何百社とあるから、それらを使えば、ある程度契約が取れるだろう」と考えていました。
ところが、やってみると現実は甘くはありませんでした。独立してしまえば、以前の立場や肩書は関係ありません。正直、最初は厳しかったです。今までの経歴やネットワークがすぐに実績に結びつかなかったため、営業活動では厳しい日々が続きました。
Q. 肩書がなくなってしまうと、やはり厳しい面はあるのですね。
ただ、ビジネス上の顧客開拓は難しかったけれど、東南アジアのA国への進出に関して何か困ったことがあると私に質問が来たり、「社員の英語が上達しないけれど、どうすれば良いのか」というような話はちらほらとくるようにはなりました。
ただ、そこから契約して「対価として金銭をもらう」という段階までにはなかなか至らなかったです。
Q.そのような中、顧客獲得という課題をどのように乗り越えましたか?
顧客と契約を結び、お金を払ってもらわないとビジネスにはならないので、とにかく、さまざまなところを回りました。
私はA国に関しては「専門家」といえるので、A国関係の協会の会員になったり、「A国専門家ですが、良い話はないでしょうか?」という感じで大使館に足しげく通ったりして、とにかく足を使って営業しました。
また、既存のネットワークを活用し、銀行の同僚や先輩・後輩、また知人も頼りつつ「1日1社は営業でまわろう」とルーティン化して実践していました。とにかく、やれることは全部やろうと思い、営業活動を継続しました。
最初の半年くらいはまったく何もなかったのですが、半年を過ぎたころから少しずつ話が舞い込んで来るようになりました。講演の話も来るようになり、少しずつ商売ができるようになってきたという感じです。
このように、努力が少しずつ実ってきたなと感じてきたところに、コロナのパンデミックが起きました。
Q. コロナに対してはどのように対応されたのでしょうか?
誰も想像できないような不測の事態が起き、これはまずいなと思いましたね。TOEICの点数を上げることに関しては、対面の方が効率が良く、結果が出やすいのですが、最終的にオンラインに切り替えました。
しかし、コロナ禍でも案件自体はありました。皆、パンデミックは1、2年で終わると思っており、かつアジアは経済成長が著しい地域です。
A国でも現在の人口は増えており、近い将来を見据えてA国への進出を考えている企業は常にいます。そのような人たちと情報交換をしながら、何とか生き延びたという感じでした。
Q.事業のアイディアなどはどのように考えられたのですか?
事業は自分の長年の経験をスキルを生かせるものとして「英語」と「海外進出サポート」の2本の柱を据えました。
英語の事業は本も出して、ある程度人気も出たので、こちらは手堅くいけるだろうと考えました。
ただ、企業のA国進出のサポートの契約は、そう簡単にはいかないだろうと思っていたため、あらかじめ「楽観シナリオ」「普通シナリオ」「悲観シナリオ」の3つを描いていました。
最初は「最悪シナリオ」で6ヶ月ほど経過しましたが、その後は少しずつ話もきて状況が改善されていきました。
コロナ前までは「普通シナリオを少し下回る感じ」の感触でいけたと思います。資本金300万円で始めて、途中で増資して1000万円にして、無借金で今に至ります。普通シナリオでいけば上出来だなと思っていたので、いい感じで進んでいたと言えます。
人生100年時代、健康寿命が年々伸びていく中で、60歳を超えてもバリバリ働きたいと思っている方は多いのではないでしょうか。定年を気にせず働く上で独立という選択肢について検討している方も増えてきています。 しかし、長年サラリーマンとし[…]
50歳で起業を成功させるためには「確固たる信念」が重要
Q. これまでの経験を振り返って、起業において何が重要だとお考えですか?
起業をする人は、確固たる信念を持っていないとダメだと思います。「このスキルにおいては日本で自分以上の人はいない」というくらいの強い自負や自信を持つことですね。
実際に日本一ではなくても、そのように自分で思い込むくらいの信念が必要だと思います。
私の場合は、英語そのものはうまい人はたくさんいるけれど、「A国について、自分以上に知っている人はいない」と考えていました。自分でそう思い込むと、不思議と自信がにじみ出てくるんですね。
英語だけでは無二の存在にはなれないけれど「英語×A国」という2つのスキルを掛け合わせることで、他の人に負けないスキルを持った、特別な存在になれたと思います。
Q.圧倒的なスキルを複数持つことが大切なのですね
「自信があって、誰にも負けない」という確固たるスキルや経験を複数個持って、それを掛け合わせることで大きな力になります。
できれば、自分の得意とする産業分野において、自信があるスキルを2、3個持っておくと良いですね。
ただし、起業してもすぐに結果が出るとは限らないため、万が一失敗した場合の備えは必要です。失敗しても、路頭に迷うことはないという状態でトライする方が、良い結果を得られると思います。
Q.スキル以外に重要なものはありますか?
ネットワークをたくさん持つことも大切です。1、2年うまくいかなかったとしても、努力を続けていけばどこかから繋がって、思いもよらないところからご縁をいただいたりします。
例えば、私は起業して色々なネットワークを頼って営業していましたが、健康維持のためにゴルフをしていて、そこで知り合いができました。そのような時には、常に車に置いている自分の本を渡したりして、営業を欠かしません。
それがきっかけで「10冊本を送ってほしい」とか「若手に英語を教えてほしい」というような話も実際にきています。いつチャンスがあるかわからないので、車にはいつも10冊ほど本を置いています。
このように、人脈を積極的に広げたり、コツコツ地道な営業活動をするなど、色々手を広げてやっていると、どこかで繋がってくるなと実感しています。
Q. そうした地道な活動を継続されてこその成果なのですね。
はい、「途中でやめないこと」も非常に大切です。いつかどこかで繋がっていくと信じて、やめないで努力を継続してください。
起業してもすぐに結果が出ないことも多いと思いますが、「いつかどこかで繋がり、役立つことがある」と考えて、すべてにおいて根気強く継続しましょう。
最初はうまくいかなくて当たり前です。でも、「今までの経験と実績とスキルがあるから、絶対に成功するはずだ」と信じて、日々のルーティンや営業を欠かさずやり、ネットワークを広く浅くもってつきあっていけば、周りの色々なことが繋がっていきます。そして、そのようなタイミングではチャンスを逃さず、契約に結びつけてほしいです。
Q.逆にどのようなことを避けるべきだとお考えですか?
確固たる自信が持てるような知識やスキルがある場合は、それらに特化し、あまり手を広げないことが大切です。
得意じゃないことをやると失敗します。ボランティアであれば良いのですが、お金をもらう段階になった時に、専門ではない分野のことをやってもうまくいかないことが多いので注意が必要です。
Q.起業する際にこんなサービスがあれば良かったな、というものは?
世の中には色々な産業や業種がありますが、起業時に「実際にこんなニーズがある」というものがわかると良いですね。
具体的なニーズがわかれば、独立したいと考えている人は「自分のアイデアで考えた仕事を7割、このニーズに対する仕事を3割の方向でやっていこう」などと、より具体的に業務内容を考えられます。
このように、事業アイデアを考えるサポートや、第三者目線から強みを見つけてもらえて、並走してもらえるようなサポートがあれば良いなと思います。
また、起業後の収支計画についても、第三者目線からアドバイスをもらえると良いですね。
例えば、「初年度は給料は月50万円で、会社としては利益が出なくても良い」「二年目は、月60万円給与をもらいつつ、会社としても100万円の利益を出したい」など、独立したい人がどのような考えを持っているかということを理解したうえで、第三者がアドバイスしてあげることが可能であれば、本当に助かりますし、参考になると思います。
不安はみんなあるけれど、実績と得意分野があればなんとかなります。
そういう意味では、45歳であってもべテランで専門知識は相当もっているので、45歳
〜60歳頃までが独立適齢期ではないかと思っています。
50歳でも積極的に起業に挑戦するべき
Q.50歳で独立起業を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
まず自己分析をして、自分の強みを洗い出してみてください。専門分野が2つ3つあれば、自信を持って、どんどん独立して良いと思います。ただし、専門以外のことは絶対やってはいけません。
成功までの道のりは、遠回りする人もいるし、直線でいく人もいるけれど、自分のネットワークをフルで使ってやれば、いずれ色々なところで繋がってきて、成功します。
1回失敗しても全く問題ありません。2回、3回とやればやがて成功します。自信があって起業家精神がある人は、50代は好機です。
50代は気力・体力がまだまだ充実している時期です。また、転職経験がある人は、複数の業界に詳しいことが多く、スキルも蓄積されています。知識と経験がある50代の人は、ぜひ独立してやってみてほしいです。応援しています。
少子高齢化により労働人口が不足する中、シニア世代も長く働くことが求められる「人生100年時代」が到来し、シニアの独立・起業がますます重要な選択肢となっています。 シニア層が独立を決意するきっかけや独立に向けて行った準備、独立後の状況[…]
まとめ
今回のKさんの事例からも分かるように、50歳で起業する際にはスキルだけでなく広いネットワークが重要です。また、努力を続けることで思いもよらない縁が生まれるため、確固たる信念と自信を持つことが、起業において重要だといえます。
人脈形成などは短期間では得られないものなので、将来的に独立している方は今からでも準備を始めるべきでしょう。