50代の転職が厳しい理由は正社員へのこだわり?選択肢を増やすためのヒントとは

今回の記事では27年にわたり雇用調整および再就職支援を行ってきた髙松さんが、セカンドキャリアにおいて選択肢を増やす方法や、年齢に捉われないキャリア形成のヒントについて解説します。

役職定年を目の前に新たなキャリアを模索している方、転職に挑戦しているが思うように進まない方、そしてこれからのキャリアについての選択肢を増やしたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

Talent Fine Tuning 代表
髙松 健司
27年間にわたり人材の出口戦略、特に雇用調整および再就職支援を積む。
これまでに約10,000人以上の方の再就職を支援してきた。

希望退職、事業所閉鎖、事業譲渡時の社内コミュニケーションのアドバイザリーも担当。合併、工場・事業所閉鎖、事業譲渡、会社分割、事業清算など、多岐にわたるプロジェクトを成功に導く。また、企業内でのキャリア相談の経験も豊富で、これまでに約2,000人以上の対象者とのキャリア相談を実施している。転職8回、出戻り1回、一人称でシニアのキャリアを語れる67歳。現在、個人事業主(Talent Fine Tuning 代表)

55歳以上の転職者は2割以上!50代の転職の実態とは

50代の転職が厳しいといわれていますが、総務省が公表している調査によると、過去1年間に転職した人のうち、55歳以上の割合は約22%にものぼります。

出典:総務省「労働力調査 令和3年平均結果の概要Ⅱ詳細集計」

「転職が厳しい」と言われながらも実は50、60代の労働人口は流動化しています。しかし、注意すべきは、転職を望まない人も流動化している点です。これには早期退職や定年退職により転職を余儀なくされているといった背景があります。

また、企業から内定をもらえても、希望する待遇を得られるというわけではありません。

以下の2020年に厚生労働省が発表している資料では年齢別の転職後の賃金を示していますが、50歳を越えると転職後に賃金が減少する傾向があり、55歳を越えるとその傾向はより顕著になります。

出典:厚生労働省「-令和2年雇用動向調査結果の概況- 」

また、多くの企業では55歳前後で役職定年になることが多いですが、役職定年になってから転職するよりも、まだ役職がある状態で転職する方が有利に働くケースがあります。

例えば、「来年ポストオフになる予定で、その後の活躍の場が今の会社にはないので、新しい活躍の場を求めています」と転職の経緯や働く意欲を企業に伝えることができます。

それらも踏まえると、役職定年を迎える55歳までに転職を考えても良いのではないでしょうか。

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50代の転職が厳しいと感じる理由は「マインドセット」にある

先ほど紹介したように、50、60代の労働人口は流動化していますが、それでも転職が厳しいと感じる理由は求職者のマインドセットにも原因があります。

特に大企業出身の方は苦戦する傾向があります。大企業は企業価値が高いので、「笑点」に例えると座布団が最初から10枚積まれている上に乗っている状態です。一方、中小企業出身の方は座布団2、3枚ほどと等身大のキャリアを把握しているので、スムーズに転職できる傾向にあります。

つまり、上図のように大企業で働いている方は企業価値(上図青色部分)の上に自分の人材価値(上図赤色部分)があるということを認識していない方が多くいらっしゃいます。そのため、転職先の企業価値が低くなると、それに伴い年収も下がるということを受け入れられず、転職先が決まらないのです。要は自分の価値を把握できていないんですね。

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「正社員へのこだわり」が選択肢を狭めている原因に

「転職活動しているものの選択肢が少ない」と悩む原因は「正社員へのこだわり」が考えられます。実際に50代の多くは正社員に対して強いこだわりを持っています。正社員以外にも契約社員の選択肢もありますが、それに対して不安に感じる方が多くいらっしゃいます。

契約社員は1年や2年など、期間が定まっており、その期間内に解約することは正社員よりも難しいとされています。それについて認識していない方が多く、「正社員=安定」という世間のイメージに引っ張られて、正社員採用にこだわる方が多くいらっしゃいます。

また、企業側の目線で考えると、50代の正社員を積極的に採用したいわけではありません。ストレートな表現になってしまいますが、労働市場において、50代は賞味期限が近い商品と同じであり、企業はあえてそれを買わないでしょう。

また正社員として採用することは結婚と同じで、結婚すると離婚する時が大変、つまり企業が採用した後に何らかの理由で解雇しようとしても簡単にはできません。

このように50代の正社員採用に慎重な企業と、正社員にこだわる求職者の間には深い溝があり、これらが50代の転職を難しくしている一つの要因でもあります。

50代で転職を検討している方が考えるべきことは

  • 正社員としての身分が欲しいのか
  • 働いて報酬が欲しいのか

ということです。「正社員で採用されると65歳まで働けるじゃないか」と思うかもしれませんが、逆に言えば65歳よりも先の道はないのです。行き止まりの道を進むために正社員を選ぶかどうか、改めて考えてみましょう。

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選択肢は「転職」だけではない。業務委託という選択肢も視野に入れることが重要

私自身、シニアの転職相談を受けながらも、業務委託という選択肢も推奨しています。

50代で転職のような「雇用契約」にこだわるということは、魚がほとんどいない池で釣りをしているようなものです。しかし、釣りをする場所を変えることで、魚が釣れる確率が大幅に上がります。

言い換えれば、雇用契約へのこだわりを捨てて、業務委託契約で仕事を受託することで、複数の会社から仕事を獲得できるチャンスが増えます。

また転職となると「年齢」という問題がつきまといますが、業務委託契約はその年齢から解放されます。企業が業務委託先を探す理由は「人」ではなく「解決策」を探しているため、何歳であろうとその企業の課題を解決できる人であれば仕事を依頼します。

そのため、年齢関係なく働き続けるためには業務委託という選択肢も視野に入れるべきでしょう。転職だけにこだわると、年齢が上がるにつれてどんどんハードルが上がり、後々苦しい状況になります。

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シニア社員の独立を支援する企業が出始めている

在籍中から、シニア社員の65歳以降のキャリアを支援する企業も出始めてきました。例えば、トヨタ自動車九州では社員の兼業を認め、トヨタ自動車九州が他の会社の仕事(課題)をBtoBで受託して、その課題をトヨタ自動車九州の社員が兼業という形ですすめるという制度を始めました。

参考:日本経済新聞「トヨタ九州のベテラン、中小企業の課題解決 兼業で支援」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC276I90X21C22A2000000/

このように社内労働市場の流動化と社外市場へのアクセスを作る動きも今後積極的になるでしょう。国としても労働人口不足が進む中で、就業規則に兼業に関する規約を含めることを推奨しています。会社に所属しながら他の会社でも仕事をするという動きはより積極的になっていくと考えられます。

選択肢を広げるためにも社外で「弱いつながり」をつくることが重要

セカンドキャリアの選択肢を広げるためにも、社外で「弱いつながり」を作ることも重要です。Strength of weak ties (弱い絆の強さ)という論文がアメリカで発表されていますが、弱いつながりを社外で持つことには、自分の市場価値への理解、キャリア開発、人脈形成、収入UPなど多くのメリットがあります。

トヨタのようにコストをかけて独立支援をやってくれる会社は現状まだ少ないでしょう。しかし、キャリアは自分で作るものであり、会社がアクションを起こすのを待つのではなく、主体的に動くことが重要です。

例えば、会社の名刺ではなく、自分の個人の名刺を作り、提供できる価値を資料にまとめて社外の人と話すなど、行動に移してみましょう。

また弱いつながりを広げる中で、クライアントから課題をヒアリングして、仕事をとってきてくれる、いわゆる「ギルド」のような方とつながることも重要です。そういった方と知り合いになっておくことで、仕事が回ってくることもあるでしょう。

ただ、「自分のスキルは本当に社外で役立つのか?」と思う方もいます。特に大企業で働いている方はそのように感じている傾向があります。実は大企業はTo Be(あるべき姿)の基準が高いのですが、中小企業では、赤の実線のように、昨日と比較して、10%の改善の連続で良いわけです。人、物、お金が十分に無いのです(要は求めるレベルが違うのです。) 

そう考えるとハードルが下がりませんか?

またどのような仕事を受託するべきかわからない方もいらっしゃると思いますが、労働市場では、「マイナスから0にする力」や「0を1にする力」、また「1から9にする力」が求められています。

大企業がやっている仕事の大半は9を10にしたり、数字を下げないグレーの色の部分ですが、労働市場ではこのスキルはあまり求められていないので、この土俵で勝負することはおすすめしていません。

もちろん上図のグレーの仕事もありますが、希望の報酬を得られない可能性があります。

多くの人は独立すると失敗するのではないかと不安に感じますが、アメリカの研究によれば、実際にはスタートアップの創業者の多くは40、50代です。その年代は長年培った経験やスキルを持っているため、ビジネスを始めるのに最適な時期であると考えられます。

出典:”Age and High-Growth Entrepreneurship” Pierre Azoulay, Benjamin F. Jones, J. Daniel Kim, and Javier Miranda*

会社に業務委託契約を打診することもできる

私は56歳の時にリクルートキャリアコンサルティングに8回目の転職をしており、当時は1年契約の雇用契約でしたが、60歳の時に会社に対して「業務委託の契約に変更してほしい」とお願いしました。というのも、私自身が自律を支援している立場にも関わらず、雇われていることに違和感を感じるようになったんです。

雇用契約ではA社で働くことを続けるか、辞めるかの選択になりますが、業務委託では例えばA社に8割、B社に2割のリソースを割くなど、バランスを取れるようになります。雇用契約だけを考えるのではなく、業務委託も含めた柔軟な働き方を視野に入れていくべきだと思います。

「そもそも会社に業務委託契約への変更を打診できるの?」と思っている方が多いですが、契約は本来対等なので、会社にそのような提案をしてもよいわけです。大企業でもそのような契約を受け入れるケースが増えてきています。

平均寿命もこれから伸びるので、会社が決めたことをそのまま受け入れずに自分でキャリアについて考えて動く必要があります。

視野を広く持ち、行動を起こすことで、セカンドキャリアの選択肢はこれまで以上に広がるはずです。