50歳を目前にした独立には自分の中の”意識改革”が必要

独立を検討している50、60代の方の中には、「独立後に仕事を得られるのだろうか」と不安に感じる方も多いかと思います。

今回、お話いただいたのは、24年以上にわたり大手ゼネコン企業の株式会社竹中工務店に勤務し、海外駐在を経験した後、外資系企業などに転職し、建築設計及び不動産開発に携わってこられた石川洋さんです。  

会社員から独立する不安はありつつも、独立伴走アカデミーに参加して「このままでは終われない」と意識を変え、現在はやりがいのある仕事内容で自由度の高い働き方をしていると語ります。独立後、仕事の獲得方法やできるだけ長く業務委託契約を継続するために工夫しているポイントについてお伺いしました。

石川 洋 

東京工業大学大学院卒業後、株式会社竹中工務店入社、設計部にて多種多様な用途の建築設計に従事し、5年間のドイツ駐在、ベルリン日本大使館、ハノーバー万博日本館などの設計統括を経験。その後、総合不動産サービス会社のジョーンズラングラサールを経て、Pembroke Real Estate Japanに転職、フィデリティー投信の不動産開発部門の子会社にて日本における主要なプロジェクトの企画開発から設計、施工、管理、運営までを主導。現在は建築・不動産アドバイザーとして独立。

グローバルな仕事にやりがいを覚えたドイツ駐在

ーこれまでどのようなキャリアを歩んで来られましたか?

元々子供の頃から図面や分解図を書くことが好きで、自分でいうのもですが、空間把握能力に長けていたと思われます。そのような背景から建築学科に入学し、就職活動の時にも建築系を軸に会社を探していました。

建築といっても様々ですが、その中でもメインストリームである、「意匠設計」をやりたいと考え、株式会社竹中工務店に就職しました。竹中工務店は少し特殊で、完成した建物を「作品」と呼ぶような会社です。当時から挑戦的で、業界内ではそのデザインの優位性を保っており、そこに希望通り入社することができました。

入社後は設計部にて24年ほど多種多様な用途の建築設計に従事し、ドイツ駐在ではベルリン日本大使館、ハノーバー万博日本館などの設計統括を経験しました。

ー設計部で印象に残っているプロジェクトは何ですか?

竹中工務店では多種多様な建物の設計を経験できたので、1つに絞るのは難しいのですが、強いて言うなら一番規模の小さい箱根の茶室と一番大きかった横浜港北阪急デパートですね。

箱根美術館の茶室は四季折々、苔庭の風景を眺めながら、立礼席で季節のお菓子と抹茶を楽しめる設計になっており、港北阪急デパートは土地区画整理事業の一環で駅前の一等地にデパートを作りました。

それ以外に、思い入れが深く苦労したプロジェクトとして印象に残っているものは、外資の不動産開発で経験した六本木のトライセブンです。

こちらは土地探しや所得交渉から行政折衝、設計者選びや地権者対応はもちろん、神社との交渉、工事業者選定、施工管理、テナント工事対応、各種運営などに至るまで、さらに隣接道路の電線類埋設化まで一気通貫で9年かけて携わることができました。

ードイツ駐在もご経験されていらっしゃいますが、海外のご経験はキャリアにどのような影響を与えましたか?

結果的には私のキャリアはもちろん、帯同していた家族にとっても海外での暮らしは何ものにも変えられない良い経験となっています。

ドイツでの仕事は少数精鋭で、設計だけをやっていればよいわけではありませんでした。

建築設計のみならず小さい所帯で、各国の行政にあたるところから始まり、土地を探して仕事をつくっていく初期段階から、建物が出来上がるまでに関与できたのはいい経験だったと思います。

ー24年間勤め上げた会社から転職をされた経緯は何でしたか?

ドイツ駐在から日本に帰国してから、海外での経験を活かすようなチャンスになかなか恵まれなかったのが、転職を考えるきっかけになりました。

自分の少し上の世代を見渡してみたところ、活気がないように見えたんです。どこの会社でも言えることですが、50歳を過ぎれば社内でのキャリアは先が見えてきますよね。

役員になれるのはわずかな人間のみ、出世コースから外れた人たちが社内でどう振る舞っているのか、50歳を目前に今後について考えるようになりました。

数回の転職を経て、より自由な働き方を求めて独立

ー転職に対しての不安はありませんでしたか?

もちろん、不安はありました。私が初めて転職をした17年ほど前は我々の業界で転職をする人が珍しい時代だったので、側から見ると「キャリアを捨てている」と思われていたかもしれません。

ただし、転職も実際にその会社に入ってみなければわからないことも多く、中には半年や1ヶ月で辞めた会社もありましたが、最終的に落ち着いた会社では14年ほど在籍しました。

そして、複数の会社で働いた後、64歳で個人事業主として独立することになりました。

ー雇用ではなく個人事業主を選択した理由を教えてください。

年金の関係もありました。フルタイムで働く雇用の場合は、給与と受給している老齢厚生年金の月額合計が48万円を超えてしまうと、支給される在職老齢年金の一部または全額が支給停止されます。

つまり、月収が2、30万円を超えると年金額が減少し、収入がさらに高くなると、年金はゼロになるんです。

私の場合、フルタイムで働いて得られる給料と、週に3、4日働きつつ年金を受け取る場合の収入が、ほぼ同じになることがわかりました。この2つの選択肢を比較した際に、週3、4日働いた方がいいだろうと考え、雇用ではなく個人事業主として業務委託契約を選びました。

現在は、業務委託契約をしている会社で、不動産開発の業務以外に採用業務も担当しています。

自身が採用業務をやっていると、求人応募が多数ある中で60歳以上の方はよほどの経歴や実績がない限り書類審査で次に進めたいとは思わないもので、60歳以上でフルタイムとして採用されるのは難しいと改めて実感します。

もちろん個人事業主として業務委託契約で働いている場合も、短くて数ヶ月、半年で契約が終わることもあり、不安定な状況ですが、今後もこのスタイルで続けていきたいと考えています。

ー独立後、個人事業主としての最初の案件はどのように獲得されたのでしょうか?

転職エージェントからの紹介です。基本的にはフルタイムの求人がほとんどで、現在業務委託契約で働いている会社からも、フルタイムで働くことを前提にスカウトをいただいたのですが、話を重ねる中で「業務委託契約で週3日でもいいから働いてほしい」と言っていただき、現在に至ります。

独立している先輩の体験談を聞いて「自分にもできるかも」と意識改革に

ー独立するタイミングで「独立伴走アカデミー」を受講されたとのことですが、なぜ受講しようと思われたのでしょうか。

独立伴走アカデミー自体は、転職エージェントからの紹介で知りました。「エージェントに登録しても希望に合う求人は少ないでしょう。独立伴走アカデミーを受けてみてはどうですか?」とアドバイスがありました。

提供元である株式会社BEYOND AGE代表の市原さんがおっしゃることは、私自身の腑に落ちるところがありましたので、独立後に仕事に対する見方を変えられるようなチャンスがあるのではと考え、受講することにしました。

独立伴走アカデミーの詳細はこちら

ー独立伴走アカデミーの1期生として学んだことで、実際に役立ったレッスンは何でしたか?

一番大きいのは、自分の意識の改革ができたことです。

独立している先輩の経験談を聞いて「自分にもできるかも」と考えるようになりました。また、30万円という決して安くはない受講料でしたので、この機にものにしなければと思っていたのもあります。

独立伴走アカデミーの特徴は、独立ノウハウは教わらないことです。

というのもそれは他でも学べる内容だからだそうですが、実際には自己PRの書き方や対話レクチャーなどを受けて、独立伴走アカデミーに参加していなければ知らなかったこと、やらなかったことをたくさん学べました。

ー独立に向けての準備期間はどのくらいで、どのような準備をしましたか?

私の場合は独立に向けての準備に時間はかかりませんでしたが、転職エージェントに登録して自分に合った仕事を獲得するまでに半年以上かかっています。

本音を言うと当時は毎日が不安で、その間はハローワークにも通って、独立伴走アカデミーにも参加し、不安はありつつも、「このままでは終われない」と自分に強く言い聞かせていました。

ただ、焦って仕事を得て何でもやれるかというとそうではありませんし、チャンスが来たときにすぐ掴めるように充電期間のようなものだったのでしょう。

ー現在は、複数の企業と業務委託契約をしているとのことですが、できるだけ長く案件を継続するために意識していることはありますか。

とにかく会社の役に立つことですね。これは建築・不動産業界で何十年と働いてきた経験が生きていると思います。個人的には大したことは助言できないと思っていますが、これまで大きなプロジェクトで失敗も成功も経験し、さまざまな判断をしてきた経験が社外から求められていると感じます。

結果的に会社の役に立ちながら、お金をもらえるのでなるべく長く働きたいですね。

また、信頼関係を構築した上で可能になることですが、現在働いている会社ではきたんなく意見を述べることを意識しています。そのようなフィードバックなどは許される雰囲気がありますし、求められていると感じます。

もちろん、やるべきことをやって、信頼を積み上げてきた中でできることなので、まずは信頼関係から構築するのが重要でしょう。

発注する側と作る側の関係性をより良くする”緩衝材”になることが目標

ー建築・不動産アドバイザーとしての今後の目標はありますか?

常に”いい物”をつくる仕事に関わっていたいと思いますし、建築や不動産を開発したいという方や困っている方をできる限りサポートしたいですね。

私は作る側にもいましたので、モチベーションを高めて良いものを作ってもらうには発注する側と作る側の関係性が大切だと感じてきました。

その点において、建築・不動産アドバイザーとして両者の関係をより良くする緩衝材になるのではと思います。

ー現在、独立や転職に悩んでいる同年代の方に向けて、メッセージをお願いします。

今でも大企業を辞める際に不安だったことがときどきよみがえります。独立後は大海を子船で漕ぎ出すような感覚でした。おかげであのままでいたら経験できなかったようなある意味波乱の経験ができましたし、結果的には何の後悔もありません。

もちろん独立には、いい時もあれば悪い時もあります。私自身も行き詰っていろいろな神社で開運祈願もしました。

自分の人生ですから、失敗したらやり直しもききますし、いろいろなチャレンジをして有意義に楽しく生きていってほしいと思います。

そのためには若い頃からアンテナを張って、さまざまな経験を積み、資格を取得するなど自己研鑽をして、いろいろな人と会い影響を受け、それを次の世代につなげて、皆がより幸せになれるよう努めていくしかありません。

また60歳で定年を迎えて再雇用で働き続けるのもそれはそれでいいと思います。再雇用を考えていないのであれば、計画を立てて早めに動き出していく必要があります。

私も50歳を過ぎてから建築・不動産の分野の資格を3つ取得しました。まずは挑戦をして自分の実績を作っていくことが重要です。

一度きりの人生、楽しまなきゃ生まれてきた意味がないと私は考えています。ぜひ50代、60代の方々には挑戦して欲しいと思います。