近年、早期退職を募る企業が増えています。この状況を受けて、「定年を待たずに退職し、新たなキャリアに踏み出すべきか」と悩む方も少なくありません。
今回は大企業で女性管理職として活躍したのち早期退職し、転職活動をしている50代女性Oさんに、早期退職を選んだ経緯や50代の転職活動で直面する現実について伺いました。
大学卒業後、大手総合電機メーカーA社に入社。海外現地法人の設立などに携わり、女性管理職として活躍する。2024年に早期退職制度を利用して退職。現在は転職活動をしながら、今後のキャリアを模索している。
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社内でも数少ない女性管理職として、海外現地法人の設立をリード

ーこれまでのご経歴について教えてください。
総合電機メーカーA社で女性管理職としてのキャリアを積み重ねてきました。2002年からは、海外関連の仕事に従事。海外現地法人の設立をリードし、事業計画の策定やマーケティング、海外現地法人設立の社内外認可取得を通じて、事業が軌道に乗るまでのプロセスを担いました。
海外現地法人といっても海外赴任はなく、国内での業務です。会社の方針で、財務、生産技術、製造部などのキーマンを出向させる形で運営しました。
2024年に会社の早期退職制度に応募し、退職。現在は、会社が契約した再就職支援制度を利用しながら、次のキャリアを模索しています。
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会社の将来性に疑問を感じ、早期退職制度を利用

ー「早期退職制度を利用しよう」と考えたきっかけは何でしたか?
会社の将来性に疑問を感じたことがきっかけです。A社はとある機器の製造販売を取り扱っていました。しかし時代の変化を見据えると、市場が縮小傾向にあることは一目瞭然でした。会社はアジアや欧米など海外展開を見据えていましたが、果たして、この事業一本で将来も収益を上げ続けられるのか、不安を感じていました。
ちょうどその頃、早期退職制度の告知があったので、「そろそろ潮時では」と感じて手を挙げたというわけです。
制度の案内が始まったのは昨年の冬で、従業員一人ずつと面談が行われました。私の場合は募集開始から早々に面談をスタートしたものの、なかなか退職希望に応じてもらえなくて…。結局、3回の面談を経て、ようやく早期退職制度を通じての退職が承認されました。
―早期退職制度の面談では、早期退職の理由は何と伝えたのですか。
会社には「体調に不安がある」、「親の介護」、「家庭と仕事の両立が難しい」といった理由で退職したいと伝えました。しかし、実際はそれに加えて当時の上司と折り合いが悪かったのです。
しかし、会社には全ての理由を伝えませんでした。上司への不満を会社に伝えてしまうと、万が一退職できなかった場合に困ると考えたためです。
―早期退職制度に応募した社員に対して、何らかの優遇制度はありましたか。
退職金の上乗せ制度がありました。年齢を考慮すると条件は悪くないと判断しました。もちろん得られる総額は目減りしますが、定年まで働くよりも、退職して収入を得る方が魅力的です。
応募者の顔ぶれを見ると、50代半ば以上の応募者が多かったですね。私もその一人でした。
ー50代という年齢での退職に、不安や迷いはありましたか?
私の場合は、再就職せずこのままリタイアしても生活に困らない程度の蓄えはありましたので、不安や迷いはありませんでした。「自分のスキルが活かせる仕事があれば働いても良いかな」というくらいの考えです。
他の早期退職制度応募者の状況はさまざまでしたね。55歳以降の人はリタイアを検討している人が多かったように思います。
一方、比較的若年層は現在の仕事に不満があって退職を選び、すでに次の就職先の目星をつけている傾向がありました。
55歳で早期退職したいと思った場合、いくらあれば安心して退職することができるのでしょうか。近年は早期退職制度を利用して、会社を辞めた後に新しいステップを踏み出す人が増えていますが、そのためには老後のための資金計画が必要不可欠です。 […]
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50代が直面する転職の壁 「未経験OK」「59歳までOK」の実像

―Oさんが利用された再就職支援サービスとは、どのようなものだったのですか。
エージェントがさまざまな求人を紹介してくれるサービスです。費用は会社負担でした。
最初に職務経歴書や履歴書の添削・作成支援を受けます。その後、通勤時間や仕事内容などの希望を伝えると、条件に合った求人を探してくれました。また、月に1回キャリアカウンセラーとの面談があり、現在の状況を確認した上でアドバイスしてくれます。
―現在の転職活動の状況はいかがですか。
これまで6社に応募しましたが、内定には至っていません。そのほか、さまざまな求人をご紹介いただいていますが、条件に合わずこちらからお断りすることも多いですね。
キャリアカウンセラーとの月1回の面談で応募を促されるので、応募しないと申し訳ないという気持ちもあり、少しずつ動いている状況です。現在、書類選考を通過した企業が1社あり、面接に臨むところです。
―転職先の企業規模や職種についてご希望はありますか。
会社の規模は特に気にしていません。もし再就職したとしても、これまでのように20年、30年と働き続けるわけではありませんから。
それよりも、重視しているのは通勤時間と残業時間です。なるべく自宅から近い職場を選びたいと考えています。また、これまでのような「月60〜80時間残業」という働き方は絶対に嫌で、残業の少ない仕事を探しています。
職種にこだわりはありません。これまで見た中では営業職の求人が多かったですね。「未経験OK」と謳っているものも多いですが、そのような求人は比較的若年層の育成を前提としています。シニア世代にはある程度の経験が求められるケースが中心です。
ーこれまでのキャリアを活かせるような転職先は見つかりそうですか。
これまで担当してきた経営企画などの仕事は、大企業のA社だからこそ経験できた仕事でもあり、中小企業ではそのようなキャリアは逆に活かしづらいと感じました。特に地方の企業では、そのような部門を持っていないことが多いのです。
もちろん基本的な仕事の進め方などは、多くの企業で活かせると思いますが、企業にはそれぞれの専門性があり、他社では活かしづらいスキルも存在します。その上、即戦力になりにくいと判断されると一気に転職活動の難易度は上がってしまうのです。
個人的には、A社で身につけた英語力を活かせる仕事もいいかなと思っています。また、私の専門外ではありますが、財務や総務など、どの会社にもあるような職種の方が転職しやすいと感じますね。
―転職が難しい理由は何だと思いますか?
やはり年齢が大きな壁になっていると感じます。先日キャリアカウンセラーから「Oさんが希望する条件に合致するのは地元の中小企業が多いから」と、ハローワークでの相談を勧められたので行ってみました。そこで窓口の方のお話を聞いてみると、年齢制限を設けている求人が多いことがわかりました。
雇用対策法により年齢制限を記載できないため、求人票には「59歳まで可(定年60歳の場合)」などと書かれています。しかし実際には、企業が求めているのはもっと若い人材というのが実情。50代、特に50代後半になると、求人を探すのは一気に難しくなります。転職しやすいのは、おそらく30代から40代くらいまででしょう。
ただ、海外出向経験や総務・経理の経験は、年齢に関わらず一定の評価を得られるように思います。財務関連で言えば、財務本部長のような役職よりも、係長レベルの財務の実務担当者の方が、転職市場では需要が高いと感じました。財務諸表を読める能力よりも、決算業務ができるといった実務能力を求められることが多いようです。
―なかなか転職先が決まらず、精神的にきついと感じる瞬間はありますか。
私はあまりそのようなことはないですね。リタイアしてもよいと考えているからかもしれません。
同時期に早期退職した男性の同僚は、再就職を強く希望されているため、焦っている様子でした。彼は転職活動スタート当初は希望年収を掲げていたのですが、現実の厳しさを感じたようで、どんどん設定額を下げながら転職活動を続けています。
―いつまで転職活動を続けるといった見通しはお持ちですか。
転職活動は、あと2ヶ月ほどで辞めようかと考えています。
エージェントから紹介していただいた求人案件は一通り確認し終わりました。新しい求人案件が出てくる可能性はありますが、仕事のタイプは大体同じようなものではないかと思います。
転職活動を終えた後は、失業給付金を受給しつつ、次のキャリアを考えるつもりです。
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「自分の生活を楽しみながら、好きなことをする生き方」にシフト

―退職されてから8ヶ月ほどになりますが、生活に物足りなさはありませんか。
それが、全く物足りなさを感じないんです。キャリアカウンセラーからも「退職後3ヶ月ほどすると、仕事を始めたくなる人が多い」と聞いていたのですが、そんな気持ちは起きません。
今は庭の手入れや料理など、これまで出来なかったことに時間を費やしています。家事に集中できて充実した日々です。
もしかすると、これは女性と男性の違いかもしれませんね。男性は社会との繋がりや貢献意欲が強いためか、退職後ほどなくして次の仕事を探す人が多いようです。
そういえばA社在職中、「在宅勤務」に対する考え方も男女で違っていました。私は「オフィス用の服に着替えなくてもいいし、仕事が終わったら2分で台所に立てるから」と在宅勤務を気に入っていましたし、他の女性社員も育児や家事と両立しやすいと歓迎していましたが、男性は在宅勤務期間中でも家にいられず、出社したがる方が多かったように思います。
―リタイアした後にはどのような展望をお持ちですか。「また働きたい」という未来も考えられるでしょうか。
この先お金が必要になったら働くかもしれませんが、会社員として同じことを繰り返すのではなく、全く違うことをやってみたいですね。自分のスキルを活かせたらいいですが、それが難しいのであれば、自分がやりたいことに注力したいです。
今の私は、気の進まないことをするのは時間の無駄だと考えています。先日、とある民間法人の求人を紹介されたのですが、業務内容を見たところ、時代に合わないことをしていたため、応募を取りやめました。
私たちの年代はすでに人生の折り返し地点を過ぎています。嫌なことやつまらないことに時間を費やしたくはありません。これまで会社に尽くしてきた分、この先は自分のやりたいことを楽しみたいのです。
実は今、若い頃にやりたかった海外旅行添乗員に挑戦したいと考えています。昔から、年に2回は海外に行くほどの旅行好きでした。でも添乗員となれば一定期間家を空けることになりますし、収入もA社ほどは得られないので、あきらめていました。
子どもが成長し、収入を二の次にしてもよいと思えるようになった今なら、実現可能です。若い頃の夢を叶えたいと思い、先日説明会に行ってきました。
―「起業」という選択肢も検討されているのですか?
事業承継に興味をもって調べてみたことがあるのですが、ピンとくるものがありませんでした。起業には資本金が必要です。リスクも伴いますから、慎重にならざるを得ません。
資本金を回収できないリスクを考えると、投資の方が魅力的に思えます。以前、為替取引に挑戦したことがあるのですが、当時は仕事で忙しくて毎日レートをチェックできなかったため、うまくいきませんでした。今は時間があるので、ニュースを見ながら株取引などの勉強を始めています。
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「選ばれる側」であることを自覚しつつ、第二のキャリア構築を

―50 代以降の方で早期退職を考えている方、転職活動をしている方に向けてアドバイスをお願いします。
私たちは「選ばれる側」。求人の中から選ぶしかないという現実を受け入れることが大切です。前職にこだわって「こういう実績があるのだから給与は◯◯万円以上は欲しい」などと言っていては、50代の転職は難しいと思います。
働き続ける必要がある場合、次の仕事が決まっていないなら安易な早期退職は避けた方が良いでしょう。私たち50代には、慎重な判断が必要なのです。
―転職だけにこだわらずに、新しいステップを見つける生き方もありですね。
そうですね。例えば、地域に貢献することも一つの方法だと思います。定年退職した先輩は町内会の会長として活躍しています。「これまでは会社のためにがんばってきた。これからは地域に貢献する」という生き方も素敵ですね。
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まとめ
今回のOさんの事例からも分かるように、50代で早期退職後に転職を考えた場合、年齢による現実的な壁に直面することは避けられません。長年培ってきたキャリアが必ずしも次の職場で評価されないといった厳しい実情もあります。
しかし、自分の希望する働き方を見つめ直し、適性に合った生き方を選ぶことで、より充実した人生を送れる可能性も十分にあります。
早期退職や転職を検討する方は、まず転職市場の厳しい現状をしっかりと理解した上で、これまで培ってきたスキルを活かせる分野があるかどうかを考えましょう。同時に、転職だけでなく、セカンドライフや新しい分野への挑戦など、自分が本当に望む生き方を探っていくことが大切です。