定年退職後の税金はいくらかかる?住民税の支払いに注意

定年退職後にどれくらい税金がかかるのか、気になる人も多いのではないでしょうか。定年退職後に再就職する人、完全にリタイアする人などその後の人生は人それぞれですが、定年後もこれまでと同様に、所得に応じて所得税や住民税がかかります。

特に、退職翌年の住民税は高額になることが多いため、おおよその金額を把握しておくことが大切です。

この記事では、定年退職後の所得税や住民税などの税金について、くわしく解説します。

この記事の執筆者
伊藤久実

伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆。

定年退職後にかかる税金の種類

定年退職後にかかる主な税金は「所得税」と「住民税」です。くわしくみていきましょう。

所得税

定年退職した年は、退職した年度に得た給与収入に対して所得税がかかります。また、定年退職後は、再就職後の収入や年金収入に対して所得税が課税されます。

定年退職後に年金生活になるケースもあるかと思いますが、年金にも税金がかかるため注意が必要です。

また、定年退職時に退職一時金を受け取った場合、退職金にも所得税や住民税が課税されますが、勤務先企業に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すると、勤務先企業があらかじめ税金分を控除してくれるため、自分で納税する必要はありません。

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住民税

住民税は1月から12月までの所得を基に計算され、翌年の6月から納付を始める仕組みです。つまり、所得税と住民税を納めるタイミングにはずれがあり、住民税は約1年遅れで納めるかたちになります。

定年退職をした際に退職金を受け取った場合は、退職金にかかる所得税や住民税はあらかじめ控除されるため、翌年に住民税が請求されることはありません。

しかし、退職金を除いた収入に対しては、通常と同じように所得税や住民税がかかるため、翌年度に住民税を納める必要があります。

定年退職後の住民税は負担になることも

前述の通り、定年退職した年の所得を基に計算された住民税は、翌年度に支払う仕組みです。

例えば、年収800万円の人が定年退職した場合、年収800万円に対して計算された住民税を退職した翌年に納付しなければならないため、大きな負担になります。

再就職してある程度の収入があるケースはまだ良いものの、収入がない場合や年金生活の場合は、住民税が大きな負担になってしまいます。

定年退職する際には、翌年に納める住民税のことを念頭に置いておくことが大切です。

定年退職後に納める住民税はどれくらい?

定年退職後に納める住民税は、定年退職した年の所得によって変わります。住民税は、課税対象となる所得の10%なので、おおまかな課税所得金額が分かれば、翌年の住民税もわかります。

年収600万円の住民税のシミュレーション

例として、年収600万円の人の住民税を計算してみましょう。

条件は、以下とします。

  • 賞与については考慮せず、標準報酬月額50万円(600万円を12等分した額)とする
  • 年齢は60歳(介護保険第2号被保険者に該当)
  • 控除は、社会保険料控除・給与所得控除・基礎控除のみとする
  • 住民税は一律10%
  • 全国協会けんぽ・東京で健康保険料額を算出
  • 令和6年3月時点の保険料額表を基に計算

課税所得金額は、年収から「社会保険料控除」「給与所得控除」「基礎控除」を引くと求められます。まずはそれぞれの控除を計算しましょう。

社会保険控除

社会保険料控除は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料で支払った保険料の合計です。標準月額50万円のケースでは、それぞれの保険料は以下です。

種類保険料(年額)
厚生年金保険料約55万円
健康保険料約35万円
雇用保険料約4万円
合計約94万円

社会保険料控除は、上記3つを合計した約94万円となります。

給与所得控除

給与所得控除は、以下のように収入金額によって異なります。

給与等の収入金額給与所得控除額
1,625,000円まで550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上1,950,000円(上限)

年収600万円の場合は、

600万円×20%+44万円=164万円

なので、給与所得控除は164万円となります。

基礎控除

基礎控除は、年収2,400万円以下の場合は48万円と決められています。

年収600万円の課税所得金額と住民税額

上記で計算した控除を使って計算すると、年収600万円の課税所得金額は以下になります。

600万円 -(94万円+164万円+48万円)=600万円-306万円=294万円

課税所得金額の10%が住民税額となるため、

294万円×10%=29万4,000円

 となり、おおよその住民税額は約29万円と考えられます。

年収800万円の住民税のシミュレーション

年収が800万円(標準報酬月額67万円・諸条件は上記と同じ)の人の住民税額は、約44万円です。

まず、社会保険控除は以下になります。

種類保険料(年額)
厚生年金保険料約71万円
健康保険料約47万円
雇用保険料約5万円
合計約123万円

年収800万円の給与所得控除は、

(800万円×10%)+110万円=190万円

です。

また、基礎控除は48万円のため、控除の合計は以下になります。

123万円+190万円+48万円=361万円

これらの控除額を年収から差し引くと、年収800万円の課税所得金額は以下となります。

800万円-361万円=439万円

住民税は、課税所得金額の10%なので

439万円×10%=43万9,000円

となり、おおよその住民税額は約44万円と考えられます。

定年退職後の住民税の納付方法

住民税の納付方法は「給与天引き(特別徴収)」と「自分で納付(普通徴収)」の2通りがあります。

退職のタイミングによって、住民税の納付の仕方が変わりますので、それぞれ説明します。

1月1日から5月31日までに退職した場合

退職時に、5月までの住民税が一括で特別徴収されます。

6月分からは、前年度の所得に応じた新しい住民税額になり、納付状が自宅に送られてくるため、自分で納付します。

給与天引きの場合、住民税は月割りで給与から天引きされますが、普通徴収では多くのケースで年4回の分割もしくは一括徴収となっています。

給与天引きのときに比べて、1回あたりの納付額が大きくなるため注意しましょう。

6月1日~12月31日に退職した場合

退職月の住民税は給与天引きされ、以後の住民税は自宅に送付される納付書を使って納めます。

次の勤務先が決まっているときも、基本的には普通徴収となるため、自分で住民税を納付します。

住民税が払えない場合

定年退職後に再就職しないなど、収入が大幅に減った場合は、住民税の減免制度を利用できる場合があります。

減免制度は自治体によって違います。また、配偶者に一定の収入がある場合は、減免が認められないこともあります。

住民税の支払いが難しい場合は、まずは市町村に相談に行くようにしましょう。

退職金にかかる税金

定年退職時には、多くの人が退職金を受け取ります。退職金には退職一時金と退職年金があり、どちらか一方をもらうケースや、両方を併用してもらうケースがあります。

退職一時金

退職一時金は、退職時に一括でもらう退職金です。退職金は勤続年数に比例して金額が決まることが多く、長年働いてくれたことへの感謝という意味合いを持っています。

令和3年賃金情報等総合調査」によると、定年(満勤)で受け取る退職金額の平均は以下となっており、2,000万円ほどになるケースが多いと考えられます。

満勤勤続時の退職金
大学卒2,230万円
短大・高専卒2,155万円
高校卒2,017万円

このような多額の退職一時金をそのまま通常の所得としてしまうと、所得税や翌年の住民税額が非常に大きくなってしまいます。

これらの退職金の税負担を減らすために、「退職所得金控除」という仕組みがあり、通常の所得とは分離して税金を計算し、納めることとなっています。

退職所得控除の額は、以下の式で求められます。

勤続年数
20年以下40万円×勤続年数
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

例えば、勤続年数30年で2,000万円の退職金を受け取った場合の退職金控除の計算方法は以下です。

800万円+(70万円×10年)=800万円+700万円=1,500万円

退職金控除を適用した後の退職金額は、

2,000万円-1,500万円=500万円

となります。

この計算の結果、退職所得は500万円となり、500万円に対しての所得税・住民税が源泉徴収されます。

退職所得の受給に関する申告書について

退職するときには「退職所得の受給に関する申告書」を、退職金の支払い者(勤務先)に提出します。

この書類を提出することで、退職所得控除が適用されます。また、退職控除適用後の退職金額にかかる所得税や住民税を計算して源泉徴収し、本人のかわりに納付してくれます。

退職年金

退職年金とは、退職金を分割して年金のようにお金を受け取る方法で、企業年金とも呼ばれます。退職年金には、退職一時金に適用される「退職所得控除」のような税金の優遇措置はありません。

退職年金は「公的年金等に係る雑所得」となり、一定額を超えると課税され、所得税や住民税を納めることになります。

定年退職後に毎月支払う保険料は?

定年退職した後も「介護保険料」と「国民健康保険料」を納める必要があります。また、国民年金保険料や厚生年金保険料も納付するケースもあります。

国民年金保険料

日本では、20歳以上60歳未満の人はすべて国民年金に加入することになっています。60歳以降に定年退職した場合、支払い義務期間が終わっているため、国民年金保険料を支払う必要はありません。

ただし、納付期間が40年間を満たしておらず満額受給できない場合は、60歳以降も国民年金に任意で加入し、足りない国民年金保険料を納めることもできます。

任意加入した場合は、納付期間が40年に到達するまで、毎月保険料を納めるかたちになります。

厚生年金保険料

定年退職後に再就職をし、一定の条件を満たして厚生年金被保険者として働いた場合、毎月の給与から厚生年金保険料が天引きされます。

介護保険料

40歳になると自動的に介護保険に加入し、保険料を納めることとなっています。

40~65歳までは「第2号被保険者」とされ、介護保険料は健康保険料もしくは国民健康保険料と一体的に徴収されます。また、事業主が保険料の半分を負担する仕組みです。

65歳以上は「第1号被保険者」となり、介護保険料は原則年金から天引きされます。

国民健康保険料

定年退職した後は、国民健康保険に加入し、所得に応じた保険料を支払うことになります。

また、「健康保険の任意継続制度」を利用すると、退職した後も、退職前に加入していた健康保険に2年間引き続き加入できます。

ただし、在職中は勤務先企業と折半していた保険料を、すべて自分で支払わなければならなくなります。

定年退職後の収入によっては、国民健康保険に加入したほうが保険料を抑えられることがあります。定年退職をして収入が急に減った場合、減免制度を利用できることもあります。

迷った場合は、市町村に相談すると良いでしょう。

まとめ

定年退職をした翌年は、在職中の収入に基づいた住民税を納付しなければならないため、あらかじめ大まかな住民税額を把握し、事前に準備しておくことが大切です。

また、退職後も再就職した際の収入や年金収入に対して所得税や住民税がかかりますし、健康保険料や介護保険料を納める必要があります。

老後の資金計画を立てるときには、定年退職後の税金や保険料について把握しておくようにしましょう。

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