役職定年を迎えると、一定額の給与が減額されることが一般的です。役職定年で給与が減ることについて、不安に感じる人も多いのではないでしょうか。
給与が減額されると年収が減り、日常生活に大きな影響を与えるため、「役職定年の年齢」と、「どれくらい給与が減額されるのか」については、早めに把握しておくことが大切です。
そのうえで、役職定年後のキャリアについても、早めにイメージしておくようにしましょう。
この記事では、役職定年時で給与がどれくらい減額されるかということや、役職定年前に考えておくべきポイント、役職を外れた後のキャリア形成について解説します。
伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆。
役職定年時の給与減額はどれくらい?
役職定年の際の給与減額の幅はどれくらいになるのか、不安を感じる人も多いでしょう。
役職定年とは、管理職についている社員が一定の年齢に達した時、部長や課長といった役職から外れることを言います。
役職定年になると、役職や肩書によって受け取っていた報酬がなくなるため、その結果として給与が少なくなります。
また、役職手当だけでなく、基本給や賞与の支給日数を減らす企業もあります。
公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団 「50 代・60 代の働き方に関する調査 報告書」によると、「役職定年前の年収を100%」とした場合の、役職定年後の年収は以下のとおりです。
役職定年後の年収 | 60歳~64歳 | 65歳~69歳 |
元の年収の25%未満 | 7.7% | 15.5% |
元の年収の25~50%未満 | 31.1% | 26.9% |
元の年収の50%~75% | 32.6% | 33.4% |
元の年収の75%~100%未満 | 21.7% | 17.5% |
元の年収の100%(変わらない) | 5.9% | 5.8% |
元の年収の100%超 | 1.0% | 0.9% |
60歳~64歳で最も多かったのは「役職定年前の年収の50%~75%」ですが、「役職定年前の25~50%」と応えた人も、31.1%とほぼ変わりません。
このことより、役職定年前の年収の「25%~75%」に減ってしまう人が多いといえます。
ここで、役職定年時の給与減額に大きな影響を及ぼす、「役職手当」についてみてみましょう。
「令和5年 賃金構造基本統計調査」によると、男性の役職別の賃金は以下のようになっています。
男性 | 部長級 | 課長級 | 係長級 |
賃金 | 60万4,100円 | 50万700円 | 38万2,300円 |
役職・非役職間賃金格差 | 19万3,700円 | 16万500円 | 12万2,600円 |
これらのデータを元に考えると、役職定年時の1ヶ月あたりの給与減額幅の平均は、部長級の人は約19万円、課長級の人は約16万円、係長級の人は約12万円ということがわかります。
次に、女性の役職別の賃金を見ていきましょう。
女性 | 部長級 | 課長級 | 係長級 |
賃金 | 52万1,000円 | 43万800円 | 38万2,300円 |
役職・非役職間賃金格差 | 20万200円 | 16万5,500円 | 12万2,600円 |
賃金そのものは男性よりも低くなっていますが、非役職者の賃金も少ないと考えられることから、「役職・非役職間賃金格差」としては、女性も男性とあまり変わらない結果になっています。
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中小企業における役職定年時の給与減額はどれくらい?
次に、中小企業に焦点をあてた、役職定年時の給与減額幅を見てみましょう。
「中小企業の賃金・退職金事情(2022年/令和4年版)」を見ると、中小企業の役職手当の平均は以下のとおりです。
役職 | 支給額 |
部長 | 460,000円(最高)87,470円(平均)6,000円(最低) |
課長 | 370,000円(最高)60,098円(平均)1,700円(最低) |
係長 | 190,000円(最高)25,597円(平均)3,000円(最低) |
役付者平均 | 55,239円 |
このように、役職による支給額は、企業によって大きな違いがあることがわかります。
役職についている人は、まずは給与明細で「役職手当」や「管理職手当」の欄を確認しましょう。
役職定年になると、これらの手当の額がゼロになるため、どれくらい月収が下がるのかを大まかに把握できます。
ただし、役職手当の廃止と平行して基本給や賞与が減額されるケースも多いため、役職定年後の給与水準を正確に知りたい場合は、人事部や総務部に問い合わせると良いでしょう。
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役職定年制度の導入企業数はどれくらい?
役職定年制度は、すべての企業が導入しているわけではありません。
「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が作成した資料「調整型キャリア形成の現状と課題」の資料の第8章によると、役職定年制度の導入企業割合は以下のとおりです。
企業規模 | 役職定年制を導入している | 役職定年制導入を検討している | 役職定年制を検討も導入もしていない |
全体 | 28.1% | 9.8% | 61.4% |
301人以上 | 35.2% | 11.0% | 53.6% |
101~300人 | 27.2% | 9.5% | 62.7% |
100人以下 | 20.3% | 9.7% | 68.2% |
このように、規模が大きい企業ほど導入割合が高くなっています。
役職定年制度そのものを廃止する企業もある
役職定年制度は、1980年代に定年が55歳から60歳に延長されることを受け、企業組織の新陳代謝、管理職のポスト不足の解消、人件費の抑制などの目的で導入され、一定の効果をあげてきました。
しかし、役職定年を迎えた社員のモチベーションが低下して働く意欲を失ってしまうこと、それによって職場全体の活力が低下し、生産性も低くなるという悪影響があることから、役職定年制度そのものを廃止する企業も出てきています。
また、年功序列ではなく実力主義・成果主義で評価する企業では、年齢に関係なく実力で評価されるため、役職定年制度の合理性が薄れているという現実もあります。
このように、役職定年制度のデメリット面を軽視できないと考える企業が増えています。現在、役職定年制度を導入している企業であっても、今後廃止する可能性があることを念頭においておきましょう。
給与減額以外に役職定年を迎える際に直面する状況
役職定年を迎えると、給与減額やモチベーションの低下などさまざまな問題に直面しますが、事前に問題を把握しておくことで、心の準備ができます。
ここでは、役職定年時に直面する事象について解説します。
上司が年下になるケースがある
役職定年で役職が外れた後は、年下の管理職の元で働くというケースも少なくありません。ついこの間まで部下だった人が、突然自分の上司になる場合もあります。
このようなケースでは、居心地が悪く仕事をやりづらいため、お互いにストレスがたまったり、モチベーションが下がることがあります。
役職定年は、管理職のポストを空けることで、若い人にチャンスを与えるという狙いもあります。「年下上司」になる可能性が十分にあることを理解しておきましょう。
仕事のやりがいがなくなる
役職定年を迎えると、今までとは違う仕事をするケースが多く、仕事のやりがいを感じられなくなることがあります。
「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が作成した資料「調整型キャリア形成の現状と課題」の第8章によると、役職を降りた後の主な仕事や役割は、以下のようになっています。
主な仕事内容・役割 | 割合 |
後進への技術・技能の伝承 | 47.2% |
現場の管理・監督 | 6.9% |
周囲からのよき相談相手 | 2.2% |
周辺業務のサポート | 5.3% |
通常業務の遂行 | 24.8% |
その他 | 1.1% |
役職がある時は、経営判断を行ったりプロジェクトを指揮したりと、大きな責任を伴うやりがいのある仕事をすることが多いでしょう。
しかし、役職定年後は上記のように「後進への技術・技能の伝承」や「通常業務の遂行」が主な仕事内容となっており、やりがいを感じられなくなる場合があります。
新たな職場になじめずストレスを感じる
役職定年を迎えると、職場が異動になったり、今までとはまったく違う業務を任されることがあります。
役職がなくなったという環境変化に加え、職場や一緒に働く人間が変わると、新しい環境になじめずストレスを感じることがあります。
役職定年を迎えるまでに確認すべき3つのこと
役職定年は、給与面でも環境面でも、大きな節目となるタイミングです。役職定年を迎えるにあたって、あらかじめ把握しておくべきポイントを3つ紹介します。
役職定年の年齢
役職定年を迎えると、働き方や仕事内容・職場などが変わり、心身に与える影響も少なくありません。あらかじめ役職定年の年齢を把握し、事前に次のキャリアの準備をしておくことが大切です。
多くの50代の方が「もっと早く準備をしておくべきだった」と後悔されています。今後役職定年を迎える可能性がある方は今からでも準備を始めておきましょう。
役職定年後の給与体系
役職定年後の給与体系を確認しておくことも大切です。多くの企業では、役職後の年収は2~3割減るとされていますが、企業や業種によってはそれ以上に下がる場合もあります。
役職定年で年収が下がると、日常生活や老後資金の貯蓄、住宅ローンの返済など、さまざまな影響が出ます。
役職定年後の給与体系や給与額について早めに確認し、それを織り込んで将来の計画を立てるようにしましょう。
役職定年が近づいた時に考えるべきことは?
役職定年はひとつの節目です。自分がどのように働きたいのか、これからどのような人生を送りたいのかについて、さまざまな選択肢を比較しながら考えてみることが大切です。
ここでは、役職定年が近づいたときに考えるべきポイントについて解説します。
定年退職で給与が減額された後のライフプラン
役職定年後は給与が大幅に減額されることが多いため、役職が外れた後の生活を考えることも大切です。
役職定年後も今までと同じような生活をしていると、老後資金のための貯蓄ができなくなったり、支出超過で赤字になることもあります。
役職定年を迎える前に、給与減を織り込んだライフプランを立て直すことをおすすめします。
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役職定年後の働き方
役職定年後は、役職から外れるため、やりがいを感じにくくなるケースも少なくありません。
実際、役職定年で大幅に給与が減り、大きな役割を任されなくなったことに対して「以前とのギャップが大きく、みじめな思いをした」と感じる人も少なくありません。
また、モチベーションを保とうと努力したけれど限界を感じ、転職を決断したというケースもあります。
役職定年から数年たつと、定年となり、その後は、再雇用制度で65歳まで働くパターンが多くなっています。
役職定年のタイミングで一度立ち止まり、「定年や再雇用制度を利用して、最後まで同じ企業でやりがいを持って働けるかどうか」をじっくり考えてみることが大切です。
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役職定年前に転職や独立も視野に入れる
役職定年を迎える前に、「転職」や「独立」を検討するのもひとつの方法です。
役職定年後は、「努力をしたけれどモチベーションを保てなかった」「やりがいのない仕事をするのが辛かった」など、大きな壁にぶつかる人も多くなっています。
転職や独立をして、新たな気持ちで仕事にチャレンジすることで、やりがいを感じながら仕事ができます。また、日常の多くを占める仕事時間を「新しいことに取り組む、充実した時間」に変えることができます。
役職定年を迎える年齢は、気力・体力がまだまだ充実している人が多いため、転職や独立にチャレンジする年齢としては、決して遅くありません。
役職定年を勤務先でのひとつのゴールととらえ、実力を評価してくれる企業に転職したり、培ったスキルや人脈を活かして独立するなど、新しい働き方にチャレンジすることも検討すると良いでしょう。
まとめ
役職定年後の年収は、役職定年前の年収の約25%~75%というケースが多くなっています。年収の減り幅は企業によって違うため、役職定年前に確認しておくことが大切です。
役職定年を迎えると、モチベーションが低下したり、職場の上下関係で悩んだりと、さまざまな壁にぶつかるケースも多くなっています。
役職定年は人生におけるひとつの節目です。これまで培ったスキルや経験を活かし、やりがいを持って働くためにも、転職や独立を人生におけるキャリアプランのひとつの選択肢として、前向きに検討することをおすすめします。