早期退職をすると失業保険をもらえますが、早期退職の種類によって、失業保険の金額や給付日数、給付制限期間が異なります。
この記事では、早期退職でもらえる失業保険の金額や給付制限期間、給付日数や手続きの注意点について解説しますので、早期退職をご検討中の方は、自分が受けられる失業保険について、しっかりと確認しておきましょう。
伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆。
早期退職制度は大きく2種類ある
早期退職制度は「選択定年制度」と「希望退職制度」の2種類があり、制度の目的や実施条件に違いがあります。それではくわしくみていきましょう。
選択定年制度
「選択定年制度」とは、就業規則に定められたある一定の年齢に達したとき、退職するか継続勤務するかを選べる制度です。
選択定年制度を利用すると、企業が定める定年よりも早い年齢で退職する形になるため、退職金の割り増しなどの優遇措置があります。
会社にとっては、一定の年齢を迎えた人が退職することで、若い社員に活躍の場が広がるため、組織の新陳代謝につながるというメリットがあります。
選択定年制度は、就業規則にあらかじめ盛り込まれている通常の制度であり、条件に合えばいつでも利用できます。
優遇措置の内容は就業規則や規約に明記されていますが、そもそも優遇措置がない会社もありますので、条件をしっかり確認するようにしましょう。
希望退職制度
「希望退職制度」は、会社が業績悪化などの理由で、早期退職の希望者を募る制度です。
いつでも利用できる制度ではなく、会社が必要と判断したタイミングで不定期に募集されます。
募集の人数・募集期間などを社内で公表し、その条件で退職しても良いと思った人が手を挙げる仕組みです。
早期退職を選択するメリットとは?
早期退職の中でも「選択定年制」を利用した場合、以下のようなメリットがあります。
- 退職金の割り増しなど、優遇を受けられる
- 気力・体力がある時期から次のキャリア形成がでできる
- 会社からキャリア支援など前向きなサポートを受けられる
選択定年制度は、強制的に社員を解雇する「リストラ」とは異なり、社員の多様な考え方・働き方を支援するための制度という位置づけのため、会社の福利厚生の一環として運用されています。
近年は定年後に再雇用を選択する人が増える一方、「早期に会社を退職して新しいことにチャレンジしたい」「自分の生き方を尊重した仕事のスタイルに変えたい」など、仕事に対する価値観も多様化しています。
選択定年制度は、このような社員の考えを尊重し、サポートする制度といえるでしょう。
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失業給付の「自己都合」と「会社都合」の違い
早期退職制度を利用して退職すると失業給付を受けられますが、「選択定年制度は自己都合」「希望退職制度は会社都合」となり、失業保険の受給条件が異なります。
それぞれの失業保険の条件について、くわしくみていきましょう。
選択定年制度は自己都合退職で給付制限期間あり
選択定年制度を利用した早期退職では、失業保険は自己都合となり、基本給付を受け取るまでに一定の期間(給付制限期間)が必要です。
以前は自己都合による退職では3ヶ月の給付制限でしたが、令和2年10月1日からは、給付制限が2ヶ月になるケースが新たに設定されています。
条件 | 給付制限期間 |
5年間のうち2回まで自己都合による退職をしている | 2ヶ月 |
5年間のうち3回以上自己都合による退職をしている | 3ヶ月 |
自己都合の退職では、失業保険でもらえる保険金額は被保険者の期間によって違いがあります。
失業保険の被保険者期間 | 給付日数 |
1年未満 | なし |
1年以上10年未満 | 90日 |
10年以上20年未満 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
失業保険では、自己都合・会社都合に関わらず、退職日から7日間の待期期間があります。
そして以下のように、給付制限期間が終わった翌日から認定日の前日までの給付金分が、制度明けの認定日後に入金されます。
希望退職制度は会社都合退職で給付制限期間なし
希望退職制度は、会社都合となるため給付制限期間はありません。最初の7日間の待期期間の後に、すぐに受給を開始できます。
給付日数は以下のように細かく設定されており、年齢と被保険者期間によって違いがあります。
失業保険の被保険者期間 | |||||
年齢 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
希望退職制度では、以下のように待期期間の7日間がすぎるとすぐに失業給付が支給されます。
待期満了日の翌日から最初の認定日の前日までの失業保険分が、最初の認定日の後に入金される流れです。
参考:https://www.kango-roo.com/career/guide/article/79/
このように、選択定年制度と希望退職制度では失業保険の給付制限期間や給付日数に大きな違いがあります。
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早期退職でもらえる失業保険の1日あたりの支給金額は?
早期退職制度を利用したときにもらえる失業保険の1日の支給金額は、以下の式で求められます。
それでは、計算の仕方をくわしくみていきましょう。
失業保険の基本手当日額の計算方法
基本手当の日額の計算式は、「基本手当日額=賃金日額×給付率(80~50%)」です。「賃金日額」は、退職前6ヶ月間の賃金(ボーナスは除く)の総額を180で割った金額です。
給付率は50%~80%で、離職時の年齢と賃金日額によってかわります。45才以上で離職した人の給付率は以下となっています。
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
離職時の年齢が45~59歳 | ||
2,746円以上5,110未満 | 80% | 2,196円~4,087円 |
5,110円以上12,580円以下 | 80%~50% | 4,088円~6,290円 |
12,580円超16,980円以下 | 50% | 6,290円~8,490円 |
16,980円(上限額)超 | ー | 8,490円(上限額) |
離職時の年齢が60~64歳 | ||
2,746円以上5,110未満 | 80% | 2,196円~4,087円 |
5,110円以上11,300円以下 | 80%~45% | 4,088円~5,085円 |
11,300円超16,210円以下 | 45% | 5,085円~7,294円 |
16,210円(上限額)超 | ー | 7,294円(上限額) |
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/001125522.pdf
失業保険の1日あたりの支給金額には下限・上限がある
早期退職制度でもらえる失業保険の金額は「基本手当日額=賃金日額×給付率」で求められますが、「基本手当日額」と「賃金日額」にはそれぞれ上限額・下限額が設定されています。
【上限額】
年齢 | 賃金日額の上限 | 基本手当日額の上限 |
29歳以下 | 13,890円 | 6,945円 |
30~44歳 | 15,430円 | 7,715円 |
45~59歳 | 16,980円 | 8,490円 |
60~64歳 | 16,210円 | 7,294円 |
【下限額】
年齢 | 賃金日額の下限 | 基本手当日額の下限 |
全年齢 | 2,746円 | 2,196円 |
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/001125522.pdf
このように、賃金が低くても一定以上の給付がある一方で、高額な賃金であっても、一定額までしか失業保険をもらえない仕組みになっています。
【例】55歳で賃金日額が18,000円の人の基本手当日額と受給金額は?
例として、大学卒業後22歳から55歳まで同じ会社で働き、賃金日額が18,000円の人の失業保険を計算してみましょう。
賃金日額が18,000円だった場合、自動的に基本手当日額の上限額の8,490円を適用することになります。
この人の失業保険の総支給額は「8,490円×所定給付日数」で計算できます。
所定給付日数は、選択定年制度(自己都合)か希望退職制度(会社都合)かということや、年齢、被保険者期間によって以下のようにかわります。
利用する早期退職制度 | 条件 | 給付日数 | 失業保険の総受給額 |
選択定年制度(自己都合) | 被保険者期間20年以上 | 150日 | 127万3,500円 |
希望退職制度(会社都合) | 45歳以上60歳未満、かつ被保険者期間20年以上 | 330日 | 280万1,700円 |
これを見ると、希望退職制度の方が給付制限期間もなく、給付日数も多いことから、退職者にとってメリットが大きいといえます。
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早期退職後にすべき失業保険手続きの流れと注意点
早期退職制度を使って離職したら、住居を管轄するハローワークに行き、失業保険の給付金をもらうための求職申し込みの手続きを行いましょう。
ハローワークで手続きができる時間は月~金の8:30~17:15ですが、混んでいることが多く、求職申込みにもある程度の時間がかかるため、16時までに行くことをおすすめします。
失業保険の手続きに必要なものは?
早期退職で退職した後は、以下の書類等をハローワークに持参して失業保険の手続きを行います。
雇用保険被保険者離職票-1 | 金融機関口座などを自分で記入して離職票2と一緒に提出 |
雇用保険被保険者離職票ー2 | 会社発行書類で、離職理由や離職前の賃金状況が書かれている |
個人番号確認書類 | マイナンバーカード、通知カード、個人番号記載のある住民票のいずれか1通 |
身元(実在)確認書類 | 運転免許証や運転経歴証明書、マイナンバーカード、官公庁が発行した身分証明書や資格証明書(写真付き)など |
写真 | 縦3cm×横2.4cmの写真を2枚。 |
本人名義の預金通帳もしくはキャッシュカード | 一部指定できない銀行あり。ゆうちょ銀行は可能。 |
「雇用保険被保険者離職票ー2」の書類は、退職後に会社から自宅に送られてくるもので、準備できるまでには退職から約2週間ほどかかります。
すぐに手続きしたくても、この書類がないとハローワークでの手続きができないため、自宅に書類が届いてから行くようにしましょう。
それでは、失業保険を受け取るまでの流れについて説明します。
ステップ1
失業保険の手続きに必要な書類がそろったら、ハローワークに行って、失業保険給付のための手続きを行いましょう。手続きがすべて終わると受給資格が決定され「雇用保険受給資格者のしおり」が渡されます。
ステップ2
失業保険の手続きをしてから1~2週間後に行われる「雇用保険受給者初回説明会」に参加しましょう。説明会の日にちは、失業保険の手続きをした日に通知されます。
失業保険の詳しい説明や案内があるため、指定された日に必ず出席しなければなりません。
この日に「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が渡され、第1回目の失業認定日が伝えられます。また、次回提出するための「失業認定申告書」も渡されます。
ステップ3
指定された初回の認定日にハローワークに行き、失業認定を受けましょう。持参するものは「雇用保険受給資格者証」「失業認定申告書」「求職活動実績証明書(必要な場合)」の3つです。失業認定を受けると、一週間以内に失業給付金が振り込まれます。また、この日に次の認定日も通知されます。
失業認定日は4週間に一度です。毎回次の認定日が指定されますので、必ずハローワークに行き、失業認定申告書(期間内に行った求職活動の詳細を記載する書類)を提出して失業の認定を受ける必要があります。
忘れていた等の理由で認定を受けられなかった場合、次回の認定は1ヶ月後となってしまいます。その際は失業給付の受け取りも1ヶ月後にずれ込みますので注意してください。
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早期退職で失業保険をもらうときに確認したいポイントまとめ
早期退職と失業保険について、確認しておきたいポイントをまとめましたので参考にしてください。
- 早期退職制度で退職すると、失業給付金がもらえる
- 「選択定年制度」は自己都合なので受給開始まで2~3ヶ月待たなければならない
- 「希望退職制度」は会社都合なので、すぐに受給開始できる
- 失業保険をもらえる日数は、雇用保険の加入期間や年齢、退職理由で決まる
- 一般的に給付日数は「選択定年制度」では少なく「希望定年制度」は多い
- 基本手当日額は、退職前6ヶ月分の賃金の平均額をもとに計算する
- 失業保険の手続きで必要な離職票は、会社から送られてくるまで約2週間かかる
- 認定日には必ずハローワークに行かなければならない
まとめ
早期退職制度には定年退職制度と希望退職制度があり、どちらも失業保険をもらえますが、定年退職制度は自己都合、希望退職制度は会社都合となります。
自己都合と会社都合では失業保険の給付制限期間の有無や給付日数が異なります。条件が良いのは希望退職制度ですが、退職後すぐに仕事が決まるとは限りません。
退職するかどうかや退職時期については、慎重に検討するようにしましょう。