定年後再雇用で働いても厚生年金に加入できる。受け取る際の注意点は?

定年後も再雇用で働き続けた場合、厚生年金には加入できるのかを知りたいという人も多いのではないでしょうか。

定年を迎える60歳以降も長く働きたいという人が増えていますが、厚生年金に加入しながら働けるかどうかは大きなポイントです。

ここでは、再雇用で働く場合でも加入できる年金や、働きながら年金を受け取る際の注意点について詳しく解説します。

この記事の執筆者

伊藤久実
伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆。

 定年後に再雇用で働いても厚生年金に加入できる

定年後に再雇用で働く場合、一定の条件を満たせば、厚生年金に加入しながら働くことができます。

厚生年金保険料の支払い期間は最長70歳までです。そのため、60歳以降であっても条件を満たせば、70歳まで厚生年金の被保険者として働くことができます。

つまり、定年後も条件を満たせば病気療養中は傷病手当金がもらえるということです。また、被保険者である間に病気やケガを負うと等級に応じて障害年金が出るなど、手厚い保障を受けながら働けるため安心です。

定年後に再雇用で厚生年金に加入するための条件とは

令和4年に施行された改正高年齢者雇用安定法では、定年が60歳の会社であっても65歳までの雇用確保が義務付けられました。そのため、再雇用制度を利用して働く人は増加しています。

年齢別では、以下のように60歳から64歳の就業率が71.5%、65歳から69歳までは50.3%となっており、定年後も長く働く人が多いことがわかります。

年齢就業率
60~64歳71.5%
65~69歳50.3%
70~74歳32.6%
75歳以上10.5%
(出典:内閣府 令和4年版 高齢社会白書(全体版)

ただ、再雇用が義務化されたものの、会社は必ずしもフルタイムで雇う必要はないため、隔日勤務や短時間勤務で働く人も多くいます。

このような働き方の場合、被保険者数101人以上の企業で、週20時間以上働くという条件を満たせば厚生年金に加入することができます

令和6年4月以降は、より条件が緩和され、被保険者数51名以上の企業で、週20時間以上働く人は厚生年金に加入できるようになります。

このように、再雇用契約がパートやアルバイトなどの短時間勤務であっても、条件を満たせば厚生年金に加入できることを覚えておきましょう。

定年後も再雇用で働くと配偶者はどうなる?

世帯主が定年を迎えた後も厚生年金被保険者として働く場合、配偶者(60歳未満)が扶養内であれば定年前と同じく第3号被保険者になるため、国民年金保険料を支払う必要はありません。

ただし、厚生年金加入者が65歳になると、配偶者(60歳未満)は第3号被保険者の資格を喪失するため、第1号被保険者に切り替えをして、国民年金保険料を支払う必要があります。

このように、国民年金保険料の納付という点では配偶者の負担が増えることもありますが、健康保険面ではどのような変化があるのでしょうか。

会社で働く際の健康保険は、以下のように健康保険組合と協会けんぽがあり、どちらも後期高齢者制度が始まる75歳まで加入することができます。

健康保険組合協会けんぽ国民健康保険共済組合
運営元企業が設立した健康保険組合全国健康保険協会各自治体各共済組合
主な被保険者大企業など民間企業の従業員中小企業の従業員など自営業者やフリーランス公務員や私立学校の職員など

65歳以降も働き続けた場合

厚生年金被保険者の夫が65歳になった後も働き続けた場合、夫は会社の健康保険に加入し続けることになります。そのため、妻は第3号被保険者の資格は喪失するものの、条件を満たしていれば夫の健康保険に扶養家族としてそのまま加入できます。

会社で働き続けた夫が75歳になると、健康保険組合や協会けんぽを脱退し、後期高齢者医療制度に加入することになります。この制度には扶養という枠組みがないため、妻が75歳に到達していない場合、国民健康保険に加入しなおす必要があります。

65歳で退職した場合

夫が65歳で退職した場合、75歳までは夫婦ともに国民健康保険に加入する必要がありますが、申請をすれば「健康保険任意継続制度」を利用できます。

健康保険任意継続制度とは、退職前の健康保険組合もしくは協会けんぽに、最長2年間そのまま加入し続けることができる制度です。

扶養内の妻も今までと同じように、被保険者として保険料を支払うことなく利用できます。2年を過ぎた後は、夫婦ともに75歳までは国民健康保険に加入することになります。

注意点として、健康保険任意継続制度では、在職中は会社と折半だった健康保険料が、全額負担になります。場合によっては夫婦二人分の国民健康保険料のほうが安いこともあるため、保障内容や保険料を比較して、自分にあった方を選ぶと良いでしょう。

 定年後に再雇用で働くと年金は増える?3つのポイントを解説

定年後に再雇用で働くと、当然ながら、将来の年金を増やせる可能性があります。ただし、働き方によっては増えない場合もあるため、ポイントをしっかりと理解しておくことが大切です。

それでは詳しくみていきましょう。

定年後に厚生年金被保険者として働くと老齢厚生年金が増える

定年後に厚生年金の被保険者として働くと、将来受け取る老齢厚生年金を増やすことができます。

将来のおおまかな年金受給額は、定期的に送られてくる「ねんきん定期便」で確認できます。このねんきん定期便に記載されている「将来の年金額」は、60歳まで厚生年金保険料を納める前提でシミュレーションされています。

したがって、定年後に厚生年金に加入しながら働きつづける場合は、60歳以降も保険料を納めることになるため、将来もらえる年金も増えることになります。

定年後の再雇用では色々な働き方がありますが、厚生年金の被保険者として働くと年金額が増やせることを覚えておきましょう。

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定年後、働いても老齢基礎年金は増えない

定年後に厚生年金被保険者として働いても、年金の1階部分である老齢基礎年金部分は増えません。

厚生年金の保険料支払い期間は最長70歳ですが、国民年金の加入期間は20歳から60歳までです。60歳以降に働いても保険料を納めることはできないため、その結果老齢基礎年金は増えないということになります。

60歳の定年までに40年分の保険料をすべて納めている場合、老齢基礎年金を満額受け取る権利を得ます。何らかの形で未納期間がある場合は、納めた保険料に応じた年金額が支給されます。

国民年金保険料の未納期間がある人は定年後老齢基礎年金を増やせることも

国民年金保険の加入は義務ですが、以下のような理由で未納期間がある人もいます。

  • 国民年金の未納・免除・猶予の期間がある
  • 学生時代に加入していなかった
  • 転職などで空白期間がある

このように、国民年金保険料を480ヶ月分支払うことができていない人は、定年の60歳以降に「任意加入制度」を利用して未納の保険料を納めることができます。

60歳~65歳の5年間で最大60ヶ月分の保険料を納めることができ、最終的に480カ月に到達すれば老齢基礎年金を満額受け取れるようになります。

480ヶ月に到達しない場合でも、10年以上の期間で保険料を納めていれば、納めた保険料に応じて年金が支給されます。

また、65歳まで保険料を納めた時点で加入期間が10年に満たない場合は、特例任意加入として70歳まで任意加入して保険料を納めることで、老齢基礎年金をもらう権利を得ることができます。

ただし、この「任意加入制度」には条件があり、厚生年金に加入している人は利用できないという点に注意が必要です。

60歳以降、厚生年金に加入しないで働く人(再雇用でも厚生年金の加入条件を満たさないで働く人や、フリーランスなど個人事業主として働く人など)のみが利用できます。

定年後に再雇用で働き続けると年金はどれくらい増える?

定年後に再雇用制度などを利用して厚生年金被保険者として働いた場合、増える年金額は以下の式でおおまかに計算できます。

月収(賞与を含む月換算の標準報酬月額)×60歳以降の加入月数×0.005481

例えば、月収が20万円で5年間働いた場合は

20万×60ヶ月×0.005481=65,772円

となり、概算ですが年額で65,772円、月額で約5,481円増えることになります。

月額にすると少なく感じるかもしれませんが、人生100年時代といわれる中、20年以上年金を受け取る可能性があると考えてみてください。

20年受け取ると、増額部分の合計は131万5,440円と大きな金額になります。

定年後も厚生年金に加入して働くメリットは大きいといえるでしょう。

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厚生年金の在職定時改訂で65歳以降の年金が毎年見直される

厚生年金に加入して働きつつ、老齢厚生年金を受給している65歳以上70歳未満の人は、基準日の9月1日において被保険者である場合、毎年年金額が見直されます。

これを在職定時改訂といいます。

以前は70歳到達時に初めて年金が増えるなど、働いて納めた保険料分が老齢厚生年金に反映されるまでにタイムラグがありました。

しかし、今は65歳以上で働いて厚生年金に加入している場合、こまめに毎年改定が入り、年金が増えていく仕組みになっています。

65歳以上になっても働く人にとって、年金が増えることを身近に実感できる仕組みとなっています。

厚生年金の経過的加算で年金を効率的に増やせる

定年後に厚生年金に加入して働く人は、将来の老齢厚生年金を大きく増やすチャンスがあります。

これが「厚生年金の経過的加算」と呼ばれるものです。

国民年金が1階、厚生年金が2階部分と考えると、経過的加算は60歳以降働くことでプラスアルファされる3階部分のようなもの、と考えることができます。

経過的加算とは、簡単にいうと「20歳前や60歳以後に厚生年金に加入した期間の、老齢基礎年金相当額」です。

厚生年金保険料には、実際には国民年金保険料も含まれています。

しかし、20歳前から働いていたり、逆に60歳以降も働いて厚生年金保険料を納めていた場合は、含まれているはずの国民年金保険料は老齢基礎年金の受給額に反映されません。

なぜならば、国民年金保険の加入期間が20歳~60歳となっており、そもそも保険料を納めることができないからです。

経過的加算は、本来払っているはずの国民年金保険料が反映されていない部分の老齢基礎年金相当額を支給するためのもの、と考えることができます。

経過的加算の対象となる条件は、以下の2つです。

  • 20歳から60歳になるまでの厚生年金の総加入月数が480ヶ月未満の人
  • 60歳以降も厚生年金に加入して働く人

厚生年金の経過的加算の計算方法

それでは、経過的加算の計算方法をみていきましょう。経過的加算の計算は、以下の式で求められます。

①特別支給の老齢厚生年金の定額部分 ー ②厚生年金の老齢基礎年金部分の金額

例えば、大学卒業後22歳で就職して25歳で結婚退職、45歳から60歳定年まで働いた人が、再雇用で65歳まで働いた場合を考えてみましょう。

厚生年金の総加入期間は276ヶ月、20歳から60歳までの厚生年金加入期間は216ヶ月です。

計算は以下のようになります。

①:1,621円(令和5年)×276ヶ月=45万7,332円

②:79万5,000円(令和5年度)×216ヶ月÷480ヶ月=35万7,750円

①-②=9万9582円

となり、65歳以降の経過的加算は年間9万9,582円となります。

このように、60歳以降に厚生年金に加入しながら働くと老齢厚生年金を増やせるだけでなく、経過的加算が上乗せされる場合もあります。

経過的加算の対象になる人は、60歳以降に働くと年金を効果的に増やせることを覚えておきましょう。

再雇用で年金を受給しながら働くことも可能。ただし収入額に注意

定年後は、年金を受け取りながら働くという選択もあります。近年は65歳を超えても働く人が増えており、一定の条件を満たせば、受け取る年金を減らすことなく収入を得ることも可能です。

働きながら受け取れる年金は以下の3つです。

  • 老齢基礎年金
  • 老齢厚生年金
  • 特別支給の老齢厚生年金(昭和36年4月1日以前に生まれた男性、昭和41年4月1日以前に生まれた女性など、条件あり)

「老齢基礎年金」と「特別支給の老齢厚生年金」は、収入額に関わらず受け取ることができます。

ただし、「老齢厚生年金」は、給与収入が大きい場合、支給額が一部停止されたり、全額停止されたりするため注意が必要です。

老齢厚生年金の支給額に影響があるかどうかのポイントは「老齢厚生年金の支給額」と「総報酬月額(賞与を足した年間給与額を12で割った額)」の合計が48万円以下であるかどうかです。

総報酬月額は、税金等を控除する前の額で計算します。それでは、例をみていきましょう。

【例1】老齢基礎年金が月6万円、老齢厚生年金が月10万円、総報酬月額が28万円の場合

給与と老齢基礎年金の合計は10万+28万=38万円となり、48万円よりも低い金額になります。

そのため、支給停止にはならず、すべての年金が支給されるため、給与収入と合わせて合計月44万円の収入となります。

【例2】老齢基礎年金が6万、老齢厚生年金が14万円、総報酬月額が50万円の場合

給与と老齢基礎年金の合計が64万円となり、48万円を超えてしまうため年金が一部停止されます。

支給停止額の金額は、以下の式で計算できます。

(総報酬月額ー48万円)÷2

計算すると、(64万円ー48万円)÷2=8万円となり、8万円分の老齢厚生年金が停止されます。ただし、老齢基礎年金は給与に関わらず全額支給されます。

この結果、収入の合計は、6万円+6万円+50万円=62万円 となります。

ただし、ひとつ注意が必要なケースがあります。年金の繰り下げ受給を利用して65歳以上になっても年金を受け取っていない場合です。

計算上、老齢厚生年金額をゼロとしたいところですが、それはできない仕組みになっています。

繰り下げ受給で老齢厚生年金を実際に受け取っていない場合は、65歳で受け取るはずだった老齢厚生年金額を使って計算する必要があります。

働きながら年金を受け取ると老齢厚生年金が停止されて損をしてしまうことがあるため、その場合は調整しながら働くことをお勧めします。

まとめ

定年後に再雇用・再就職で働く場合、厚生年金に加入することで将来の年金額を増やすことができます。

ただし、年金を受け取りながら働く場合は、収入を一定額まで抑えるなど注意が必要です。

定年後も働きたいと考えている人は、年金の加入期間や受け取り予定額を把握し、年金の受給開始時期や働き方などを早めに検討しましょう。