再雇用は「準備期間」。再雇用を見据えたキャリアプランとは

定年退職以降も再雇用を選択する方が少なくありません。しかし、「再雇用されたら待遇はどうなるのか?」「再雇用後も充実した会社員生活を送れるのか?」と不安に思う方も多いでしょう。

今回は、27年間にわたり人材の出口戦略、特に雇用調整および再就職支援をしてきた髙松さんに再雇用の実態や再雇用を選択する場合の時間の使い方についてお伺いしました。

「再雇用中に何も準備を進めないまま時間を過ごすと、その後のキャリアにも影響をあたえる。再雇用をむしろ助走期間として活用するべき」と、髙松さんは語ります。

再雇用を検討している方や、再雇用中の過ごし方に悩まれている方はぜひ参考にしてみてください。

Talent Fine Tuning 代表
髙松 健司

27年間にわたり人材の出口戦略、特に雇用調整および再就職支援を積む。
これまでに約10,000人以上の方の再就職を支援してきた。

希望退職、事業所閉鎖、事業譲渡時の社内コミュニケーションのアドバイザリーも担当。合併、工場・事業所閉鎖、事業譲渡、会社分割、事業清算など、多岐にわたるプロジェクトを成功に導く。また、企業内でのキャリア相談の経験も豊富で、これまでに約2,000人以上の対象者とのキャリア相談を実施している。転職8回、出戻り1回、一人称でシニアのキャリアを語れる67歳。現在、個人事業主(Talent Fine Tuning 代表)

再雇用を選択する人は依然多い

シニアにとって、定年後も同じ会社で働き続けるために、再雇用を選択することはいまだに一般的です。日本経済新聞の調査によると、6割以上の方が定年前と同じ会社での仕事を選んでいます。

しかし、私の肌感覚では、特に大企業において約7-8割の従業員が再雇用を選んでいると思います。長年同じ企業で働いてきた人にとって、定年後も変わらない環境で働くことには安心感がありますが、新たなキャリアを模索する機会を制限しているともいえます。

この傾向は、特に大企業で顕著にみられますが、それには家族の意見も大きく影響しているでしょう。

出典:日本経済新聞「給料4~6割減が過半、定年後再雇用の厳しい現実」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK222QX0S1A220C2000000/ 

再雇用後の待遇は悪化するケースが多い

再雇用について、多くの人が気になるのは「待遇の変化」です。実際、再雇用後の待遇が悪くなるケースは少なくありません。再雇用前の役職や給与水準を維持することは難しく、多くの場合、年収はかなり減少します。

例えば、ある大手企業では、再雇用後の年収が初任給並みに設定されていることもあります。これは、企業側から見ると、再雇用を選択した社員に対して退職を促すメッセージとも解釈できます。

一方で、国の政策としては、人口の高齢化が進むにつれて、再雇用を推奨し、年金支給を遅らせ、税金収入を増やし、少子化による労働力不足を軽減したいと考えているでしょう。

しかし、企業側は新陳代謝を図りたいと考えており、この点で国と企業の間には深い溝があるとも言えます。また、多くの企業では、高い給料をシニア社員に払うよりも、若手にチャンスを与えたいと考えるのが当然であり、それによって再雇用後の待遇が厳しくなる傾向にあります。

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再雇用を選ぶ際に注意するべきこと

再雇用を選択する前に、「再雇用がゴール」ではなく、人生全体を見通してキャリアプランを考えることが大切です。

自分自身のキャリアについて考えるときは、組織や会社の方針に流されずに「自分自身がどうしたいのか」について考えましょう。しかし、長年同じ会社で働いてきた方の中には、自分でキャリアを形成することに対して、苦手意識を持っている方が多い印象があります。

人生100年時代、会社は一つの通過点

かつて、企業の定年は55歳でしたが、その時代の方の平均寿命と定年の年齢がほぼ同じであったため、個人の人生と会社でのキャリアのゴールが一致していました。それゆえ、会社を定年退職してからは、その先の人生について、深く考える必要はありませんでした。

しかし、人生100年時代が到来し、寿命が延びるにつれて、キャリアの概念も変わりました。今では、会社でのキャリアは人生の一部であり、「通過点」となっています。

いまだに多くの人は65歳をキャリアのゴールとして設定していますが、実際にその年齢に達しても、寿命が伸びたことにより、65歳以降の生活が20年、30年と続くことも珍しくありません。

これだけの長い期間をどのように過ごすかについて、事前に計画を立てていない方が多くいらっしゃいます。

細かく計算してみると、60歳から平均寿命である80歳までの睡眠と食事の時間を除いた可処分時間は約10万時間あり、これは新卒入社から定年まで企業で働いていた時間とほぼ同じなのです。

そのため、定年後の生活は、単なる引退ではなく、新たな人生のステージへの移行期と考えるべきです。残りの人生を満足のいくものにするかは、再雇用中にいかに準備できるかが重要になります。

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キャリアプランは65歳までではなく、人生全体で考えるべき

先述したように、人生は100年時代へと移行しており、再雇用された後も20年、30年と長い時間が残されているため、再雇用期間が満了した後も、働き続ける必要があるといえます。

そのため、60から65歳までの再雇用期間を、その後のキャリアのための「助走期間」として捉えるべきでしょう。

例えば、再雇用中に副業を始めることも一つの選択肢です。多くの企業では再雇用で働く社員に対して副業を禁止にしないことが多く、この再雇用期間を利用して、副業先を見つけたり、人脈を広げたりすることができます。

「65歳以降も同じ会社で働くから大丈夫」と思っている方も一定数いますが、実際には65歳以降は、一年ごとの契約更新が難しくなります。

参照 :
有期労働契約の上限(60歳以上)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2003/11/dl/tp1111-1b.pdf 

このような状況を踏まえると、50代後半から副業や転職、独立を検討し、60代から準備を始める必要があります。この段階でしっかりと準備をしておくことで、65歳を過ぎた後のキャリアの選択肢が広がります。

2012年にLynda Grattonが書いた「WORK SHIFT – 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉」をすでに読まれた方はご存知かもしれませんが、彼女は、キャリアの脱皮を成功させるコツとして、以下の3つのステップ(下記の図参照)を提唱しました。再雇用期間は、このステップを実践する絶好のチャンスだと思います。

再雇用後は仕事の量や責任も軽くなるが、その状況を利用するべき

多くの場合、賃金が下がることに伴い、再雇用後の仕事の量や質、責任は再雇用前に比べて軽いものになる傾向があります。一部の企業では、60歳を過ぎた社員に対し、パートタイム制度を提供しています。これにより、週に何日働くかを個人が選択できるようになります。

しかし、これまでバリバリと働いてきた人にとって、このような変化は大きなストレスとなることもあるでしょう。たとえば、それまで部長だった人が55歳で役職定年を迎えると、仕事が簡単な内容になったり、部下もいなくなったりといった状況から、疎外感を感じることもあります。

また役職がなくなると、市場価値が下がるため、役職定年前や再雇用前に転職を検討することも合理的な選択です。一方で、再雇用の状況をポジティブに捉える見方もあります。再雇用後の仕事が軽くなることを利用し、今後のキャリアの道を模索することに時間を使うことができます。

例えば、先述したように副業を始めたり、会社の外に出て人脈形成するなど、再雇用期間を「最後のチャンス」と捉え、準備することができます。

一般的に、再雇用後の仕事の量や責任が変化することに対して否定的に捉えられがちですが、前向きな姿勢を持ち、次のキャリアのために、積極的に準備することが求められます。

働く= 雇用契約ではない。業務委託という中間の選択肢もある

再雇用中や再雇用後のキャリアプランとして、雇用契約から業務委託契約への移行は、長く働く上で有効な選択肢の一つです。特に優秀な人材に対して、企業側から業務委託として働くことを提案されるケースもあります。

再雇用後は賃金が上がらないという状況があるものの、業務委託として働くことで、給与テーブルから外れるため、収入を増やすことができるでしょう。また、一社専属ではなく、複数の仕事にも取り組むことが可能になり、キャリアの柔軟性が高まります。

日本では従来、働くというと「雇用契約」を考える方が多く、「0か100か」という極端な選択に限定されがちでしたが、中間の選択肢として業務委託があることを認識するべきでしょう。

例えば、再雇用後には、自分でビジネスを立ち上げたり、業務委託として複数の会社から仕事をもらったりといった選択肢があります。60歳を過ぎてから新しい会社を立ち上げることは難しいかもしれませんが、業務委託として働くのは、より現実的な選択肢と言えるでしょう。

私自身も36歳で会社を立ち上げて、ピーク時で300人ほどの従業員がいました。60歳になったときにまた会社を立ち上げて大きくしたいとは思わないですが、業務委託なら60歳からでも働けると思い、現在は業務委託として働いています。

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業務委託を獲得するためには能動的に動くべき

また、「業務委託には興味はあるけれど、どのように始めればいいのか」と迷っている人も多いでしょう。

世の中には業務委託の案件を紹介するマッチングサービスが数多く存在し、業務委託に特化している分、自分のキャリアやスキルにマッチする仕事を探すのに適しています。これらのサイトを利用して、自分のスキルがどのような分野で需要があるのかを探り、キャリアを売り込むことができます。

業務委託を始める上で、最初の一歩を踏み出すのが難しいと感じる人も少なくありません。しかし、重要なのは、行動を起こすことです。実際に試してみることで、初めて新たなキャリアの可能性を見つけることができます。

日本では人事部が従業員のキャリアプランを設計することが多いですが、独立すると自分でキャリアを考えなければいけません。研修やスキルアップの機会も、自分で見つけて参加するべきでしょう。

一方、2022年9月の総務省の発表によれば、65歳以上の就業率は25.1%に上り、特に65歳から69歳の就業率は初めて、50%を超えたそうです。働かざるを得ないのか、社会に関わって働きたいのか理由は人それぞれですが、現に皆様方の先輩の多くは、働いているという事実があります。

また、65歳以降の転職が厳しいことを踏まえると、多くの方が雇用契約以外、例えば業務委託などで働いていると推測できます。

このように、65歳以降も働くことを選ぶ人が多い中で、より充実したキャリアを作るためにも、まずは一歩踏み出すことが重要です。

参考:
総務省「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdf?fbclid=IwAR3iWW6UldDrr6PBNKnvneJAmhYXRpI5k-jlxMMcMPqyCGfvW-ksQvOdFrE 

副業にリスクはない。準備期間中にまずは一歩踏み出してみることが重要

いきなり独立することに対して抵抗がある方は、まずは再雇用中に副業として始めることがおすすめです。

副業を始めることは、労働市場へアクセスし、自分の市場価値を試す絶好の機会です。副業は特に大きなリスクがないため、できる場合はすぐにでも行動に移すべきでしょう。

多くの人が将来の不安に対して保険を掛けるように、副業も一種のキャリアの保険と考えることができます。しかし、将来の仕事に対する不安がないからか、あるいは現実を直視していないのか、実際に副業を始めるなどの行動に移している人はそこまで多くはありません。

65歳までキャリアの準備をしてこなかった人は、結果として、限られた仕事に従事することになる可能性があります。職業を否定するわけではありませんが、例えば、マンション管理のような職業に従事する人もいます。これも一つの選択肢ですが、それを望まない人にとっては、50代後半から副業や業務委託への準備を始めることが大切だと言えるでしょう。

若いビジネスパーソンや異業種で働く人に会いに行くべき

また、副業や業務委託を始める際には、人脈形成が重要です。一般的には、年上の人脈が有用と考えられがちですが、実際には若い世代や異なる業界とのつながりが新しい機会を生み出すことが多くあります。

このような人脈を作るためには、既存のネットワークや同じ会社の中だけではなく、異なる業界や環境に飛び込む必要があります。

その際には、自分の過去の経験やスキルを具体的に示すために、名刺や資料を準備しておきましょう。これにより、「あの人はこの分野で経験がある」という印象を与え、将来的に仕事の依頼が生まれる可能性があります。成果が出るまで時間はかかりますが、努力を続ければ必ず結果がついてくるでしょう。

人生100年時代、社会性をいかに長く保つかが重要

人間は本質的に社会性を持った生き物であり、65歳を過ぎても社会的なつながりや活動を求める傾向があります。社会とのつながりを感じなくなると、幸福感も大きく低下するリスクがあります。仕事は単にお金を稼ぐだけではなく、人とのつながりを感じ、人間らしい生活を送るための手段として捉えることができます。

キャリアに関しては、60歳を過ぎてから親の介護など「今しかできないこと」に取り組む人もいますが、寿命が長くなることを考慮すると、これだけでは十分ではありません。長期間にわたって社会的なコミュニケーションが不足すると、コミュニケーション能力が低下し、孤立感を感じることがあります。

日本経済新聞の記事によると、実際に働いているシニアの方が無職のシニアよりも幸福度が高いことが分かっています。再雇用後は、会社員時代とは異なり、短期間の小さな仕事が主な仕事になる傾向がありますが、それでも幸福度が下がることはないとされています。

人間には常に刺激が必要です。刺激は、異なる意見や状況に直面することから生じ、これがなければ社会性は低下してしまいます。

また、通勤するなど積極的に外に出る行為は、フィジカルトレーニングにもなり、健康を保つためにも有効です。ボランティア活動も一つの選択肢ですが、資本主義社会においては、お金による評価も重要です。お金が全てではありませんが、それによって得られる評価や満足感は、生きがいやモチベーションに大きく影響します。

そのため、仕事を通じて社会的なつながりや刺激を得ることは、単に経済的な意味を超えた、人間としての充実感をもたらすものです。

参考:
日本経済新聞「夫婦2人で月20万円稼ぐ 小さな仕事を続け安心老後に 新NISAで老後資金1億円(10)」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB014AO0R01C23A2000000/?fbclid=IwAR3VNUtvZpnjLmbGesgD80En1W-cQNwi4WXgQTn4NLniArndH7vl9MGgjQs