定年後の再雇用は惨め?大手食品会社で働くAさんが語る再雇用の現実

定年退職後の再雇用は、経済的な安定をもたらす一方で、待遇や人間関係において様々な変化や課題を伴います。大手食品会社で再雇用として働くAさんに、再雇用後の職場環境や仕事内容、人間関係の変化について詳しく伺いました。

Aさんのプロフィール:

1988年4月に大手食品メーカーに入社し、2023年5月に定年退職するまでの35年間、そのうち25年間を研究所で商品開発と関連技術研究に従事。残りの8年間は工場で勤務し、最後の2年間は業界団体に出向。定年退職後は再雇用という形で現在も勤務中。

再雇用中に惨めな思いをした経験について

再雇用後、社内で疎外感を感じることも増えた

ー再雇用後は惨めな思いや疎外感を感じることがあるという話を聞きますが、Aさんはいかがでしたか?

再雇用後に「惨めだな」「疎外感を感じるな」と思ったタイミングは社内の情報が来なくなったときですね。弊社にはイントラネット上に掲示板のようなシステムがあるのですが、重要な案件は管理職しか見られないんです。

現役のときは管理職だったので全部の案件を見られたんですけど、再雇用後は半分以上見られなくなりました。これには結構な疎外感がありましたね。役職によって情報へのアクセスレベルが振り分けられているのは、かなり露骨だなと感じました。

再雇用後、メーカーの営業担当者の反応が変わる

ー社内だけではなく、社外の関係者の反応も変わりましたか?

再雇用後は社外の人の対応が冷たくなりました。私は元々、研究所の管理職として、新商品開発に携わっておりました。新製品には新しい原料を採用するケースが多く、原料メーカー各社から熱心にアプローチを受けることがありました。

「弊社の原料を是非ご採用ください」と売り込みが入ったり、当方から「こうした原料を開発できませんか」と依頼すれば、真摯に対応してくれたんです。

ところが再雇用となり権限がなくなった途端、そうした対応は一変してしまいました。例えば年賀状の数が毎年30-40枚来ていたのが、再雇用後は激減。今でも私を大切に思ってくれる方々もいますが、大半の方は利害関係がなくなれば、連絡が来なくなってしまいます。

営業の立場ならばその対応も無理はありません。私たちは彼らにとってお客様なのですから、取引がなくなれば当然ちやほやされなくなるでしょう。しかし、寂しく感じられたのもまた事実です。

再雇用を選択した経緯とは

35年間の大手食品会社で勤務経歴

ーそもそも、なぜ再雇用を選択されたのでしょうか?

私は57歳頃から転職活動を開始し、その時に大手のエージェントサービスに登録しました。しかし、希望していた商品開発や研究の職種を募集している求人がほとんどないような状態で、あったとしても首都圏以外の会社で、単身赴任が必要という条件でした。

私の自宅は首都圏にあり、単身赴任を避けたかったので、これらの企業は基本断りました。その他は工場の管理職など、私の希望とは合わず、結局面接まで至ることはありませんでした。

59歳になると転職支援サービスの担当者から「年齢的に転職は難しい」と言われ、副業の道を勧められ、転職の道は断念したんです。

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希望の転職先が見つからず、副業をしながらの再雇用を検討

ー転職のご状況が厳しく、再雇用を検討されたんですね。

はい、再雇用を決めたきっかけになったのが、転職活動をしている間に勤務先の副業に関する制度が変更されたことです。再雇用者に限り副業が認められることになりました。これを機に、再雇用で働きながら副業をしようと決めたんです。

ただ、定年退職前も副業に近いことはやっていました。副業で報酬を受け取ると就業規則に違反になってしまうので、ビザスクで報酬を受け取らずに実績だけを積むなどして小さく始めていたんです。再雇用後から副業の報酬を受け取り始めました。

ー転職よりも副業の方が働くチャンスが増えたんですね。

はい、そのほかにも、LinkedInを通じて副業紹介サービスの担当者からメッセージも来るようになりました。その他にミーミル、アーチーズなどのスポットコンサルや、長期プロジェクトの副業紹介サービスに登録し、副業の機会を探っています。

2件ほど長期案件のオファーをいただきましたが、条件が合わず契約には至らず、現在はビザスクなどで月に数件のスポットコンサルを受託しています。

本当は、再雇用でメインの収入をもらいながら、副業でやりたい開発の長期案件をやるというのが理想ですけどね。

再雇用後の給与は3分の1に減少

ー再雇用後の給与はどのように変わりましたか?

再雇用後の給与は現役時代の3分の1になってしまいました。しかし、もともと食品業界の中ではトップクラスの給与をもらっていたので、給与が3分の1になっても日本人の平均年収程度は維持できています。

ただ、再雇用1年目は前年の年収に対する住民税の負担が重くて、家計が赤字になってしまいます。月給や副業収入を合わせても黒字にはならないので、お金のやりくりには注意しました。

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幸い、雇用保険からの補填として月給の15%、年間約45万円が非課税で受け取れるので、多少の助けにはなっています。とはいえ、まだ学費が必要な子どもがいるので、家計的には苦しいですね。

そのような事情もあり、65歳から受け取れる厚生年金までは外食を控えるなど、支出を抑える工夫をしています。

でも、給与が下がった分、仕事の責任も軽くなり、担当者レベルの仕事内容になったので、仕事の内容と年収のバランスは取れていると感じています。「逆にそれだけもらえるだけありがたい」と考えないといけないかなと思いますね。

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再雇用後の仕事はつまらない?現役と比べてどのように変化したのか

現役時代との仕事内容の違い

ー現役時代と比べて、再雇用後の仕事の張り合いはありますか?

現役のときに比べて張り合いはないですね。現役時代の開発の仕事は、自分で新商品を考えて新しいことにどんどんトライできていたので、非常にやりがいがありました。

でも今は基本的にルーチンワークです。決まったことを淡々とやるだけなので、張り合いが全然違います。でも、そこは割り切りですよね。雇用延長の仕事はあくまでメインの収入を稼ぐための手段だと割り切ってやっています。

再雇用後の配属先は直前までわからないことが多い

ー再雇用後の職場はどのように決められるのでしょうか?

弊社の場合、再雇用をする職場がどこかっていうのは、正直直前までわからないんです。一応希望は聞かれるんですけど、当然希望通りとは限らない。

私の場合、業界団体に出向する可能性があったのですが、要は会社の外に出されるので、そうなった場合にものすごく疎外感があるんですよ。「社外出向ではなく社内で働かせて欲しい」と希望を出して、一応その希望は叶いました。

再雇用の職場というのは、ある意味当たり外れがあると思いますね。私の場合は希望に沿った部署に配属されて、基本的に在宅勤務なので、自分の中では当たりだったと思います。

再雇用後、人間関係や社内のコミュニケーションはどのように変化したのか

年下の上司に対しては基本的に「敬語」を使用

ー再雇用後、人間関係はどのように変わりましたか?

再雇用後は誰に対しても、基本的に敬語を使うようにしています。管理職だった頃は、自分より立場の低い人にはいつも敬語を使う必要がありませんでしたが、今は年下でも敬語を使っておくのが無難だと感じています。

管理職の頃は自分の考えを通す必要がありましたが、再雇用後は普通の担当者なので、自分の考えを組織に浸透させる必要はありません。そのため普段は自己主張もせず、基本的に上司の方針に従うという立場を認識しながらおとなしく働いています。

人間関係の変化に葛藤やストレスを感じることも

ーそのような状況でストレスや葛藤を感じることもありますか?

はい、ストレスや葛藤はありますね。私が所属する組織では、管理職の下に専任職の課長がいて、その人が私より5つぐらい年下なんです。

その人がリーダーをやっていて、少人数のチームで仕事をしているのですが、自分がもし管理職の立場だったら、「こうではなくてこうやるのに」と言いたいこともいっぱいあるんですよ。

だけど、言えないじゃないですか。仕事のやり方についても、いろいろ思うところがありますが、基本的には従うしかない。役職が全てといいますか。

役職や権限がないと、なかなか指示も出せないし、自分の考えでそのチームをまとめることもできません。

ただ、どうしても「ここは言わないとまずいよね」というときは提言しますが、すごく丁寧に言います。前までは「こうやりなさい」って言っていたのが、「それはこうやった方がよろしいんじゃないですか」みたいな。それはそれでストレスがたまることが多いですね。

再雇用を検討している人に向けてのアドバイス

再雇用後のITスキルの重要性

ーこれから再雇用を検討している方に向けて、アドバイスはありますか?

弊社でも社内のシステムがデジタル化されているので、ためらわずに実際に使ってみることが大切です。どんどん置いていかれてしまうので、ITスキルは必要だと思います。

実際、再雇用の前の人事面接で、エクセルやパワーポイントが使えるか聞かれました。私は普通に使えるのですが、私の年代だと使えない人も多いそうです。

管理職の時は部下にPC作業を任せることができましたが、今の立場だと自分で資料でもなんでも作らなければなりません。私は管理職の時も自分で資料を作っていたので問題ありませんでしたが、同じ再雇用の立場の方にはパソコンが全然駄目な人もいるそうです。

社内のシステムも複雑化しているので、やはり適応していくためには、ITスキルは必須ですね。分からなくても自分で使い方を調べられる柔軟性が必要だと感じます。

社外でも電子マネーを使うとか、SNSを活用するとか、デジタルを使いこなしたほうがいいと思います。

立場の変化に合わせた言動の見直し

ー人間関係についてはどのように対処すべきでしょうか?

自分の立場を踏まえた上で発言する必要があります。周りには管理職の頃と同じように、年下の社員に偉そうに指示を出すなどをして、周りから邪魔者扱いされて、再雇用後半年ほどでその部署から出された人がいます。

いざ自分がその立場になると、若い人から見るとそう見えているんだろうなと思います。あまり自分が良かれと思っていろいろ言ったところで、若い人から見ると負担になるだけでしょう。聞かれたら答えますが、聞かれない時に自分から進んで意見を言うのは考えものだと思います。

まとめ

今回は、大手食品会社で再雇用として働くAさんのエピソードについて紹介しました。

Aさんの事例からもわかるように、再雇用後は給与の大幅な減額、情報アクセスの制限、若手社員との関係性の変化など、苦労することも多くあるでしょう。

再雇用を検討する際は、これらの変化を想定し、適切に対応することが求められます。再雇用は、定年退職後の人生設計において重要な選択肢の一つですが、その実態を理解し、適切に準備をすることが何より大切です。

以下では再雇用時にどのようなキャリアを作るべきかについてまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。

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